第17話 サクラダの星3


 美少女戦士エリカ・ハウゼンと『サクラダの星』を結成した翌日。


 朝の支度をして部屋で待ち構えていたら6時を告げる鐘が3度鳴り、すぐに扉の向こうからエリカの声がした。

「おはよう」

「おはよう」


 朝のあいさつのあと二人そろって1階の食堂に向かった。他の新人ダンジョンワーカーたちも俺たち同様部屋から出てグループを作りながら1階に下りて行った。


 ギルドの食堂兼酒場には今日も新人ダンジョンワーカーしかいなかった。

 昨日と同じく4人席に二人で向かい合って席に着いたところで定食がテーブルの上に置かれた。


 定食を食べながら。


「1階層の地図は図書室にあったから書き写してはいるんだけど、昨日は実際に歩いてみて正確かどうか確かめていたんだ」

「あら真面目ね」

「書き写したものが間違っていたら大変だからね」

「わたし1階層から5階層までの地図なら持ってるわよ」

「えっ! 売ってるの?」

「この街の本屋に売ってたそうよ。そんなに高い物じゃなかったってうちのお店の人が言ってたわ」

「何と」

「まあいいじゃない。自分で描いたんなら覚えるのも早いだろうし」

「まあね。紙代と筆代だけで済んでるわけだし。

 それはそうと、その地図でもやっぱり現地での確認は大事だと思うんだ」

「それはそうね」

「だから、今日も地図の確認をしようと思うけどいいかな?」

「エドがリーダーなんだからいいに決まっているじゃない」

「じゃあ、そういうことで。

 あとは、エリカが新しい剣に慣れる意味でエリカがメインで戦って俺がサポートしようと思うけど、どうかな?」

「行けるところまでそれでいいわ。危なくなったら昨日のように助けてよ」

「危なくなる前に手助けするつもりだから安心してくれていいよ」

「分かった」


 打ち合わせも終わって食事も終わり席を立ったところで、20歳くらいの男4人組が食堂兼酒場に入ってきた。


 その4人は俺たちの座っていた4人席が空いたので当然のように俺たちの方にやってきた。

「男と女の新人二人組か。やるねー。ヤルのは勝手だが、ダンジョンの中でイタすなよ。最中にモンスターに襲われたら笑い話じゃ済まないからな。ヤるんだったら自分たちの部屋であんまり大きな声をあげないようにな!」

「声ぐらい、いいだろ。若いんだから」

「それもそうか。頑張れよ!」

「アハハハ」


 男たちに冷やかされてしまった。

 俺自身はその程度のこと何ともないのだが、エリカがどう思っているのか心配で隣のエリカの顔を見たらエリカも俺の顔を見返した。

「エド、あの人たち何言ってたの? ダンジョンの中でするとか、部屋の中でするとか?」

 もしやエリカはカマトトなのかとエリカの顔をまじまじと見たが、いたって真面目な顔をしてカマトトぶっている感じは微塵もなかった。

 俺もエリカの真摯な問いに真面目に答えなくてはいけないのだろうか? いくら真面目な顔をしても内容が内容だけに真面目な話になるわけない。

 したがってとぼけることにした。

「俺もよく分からなかった。作戦会議のことかもな?」

「作戦会議はさっきしたじゃない」

「そう言えばそうだな。なら俺もよく分からない。大した話じゃないから忘れてもいいだろ」

「そうね」

 エリカが食い下がってきたら妙な展開になっていたかもしれないが流してくれて助かった。


 俺たちは階段を上って3階の自室に帰っていった。


 部屋に帰った俺は水袋に水を詰めていないことを思い出したので、急いで水袋を持って1階に下りていきギルドの玄関から一度通りに出て建物を回り込んで井戸場まで行った。

 ポンプで水を汲んで水袋に水を詰め込んだ。忘れなくてよかったー。


 前世で売っていた水筒のように保温できるものが欲しいところだけれど、中身の水が少なくなれば、袋が小さくなるところは捨てがたい。


 ああ、ペットボトルが懐かしい。中身を飲んでしまったらすぐに捨てていたが、あれは何にでも利用できそうだものな。

 俺がこの世界で死ぬまで一度でいいからペットボトルを見たい。などとは本気では思わないが、ペットボトルに限らず生前の世界の物がこの世界にあったらそれはそれで考えさせられる。余裕があればという条件が付くけど。

 

 エリカが準備を終えれば俺の部屋に迎えに来るわけだから、待たせるわけにはいかないと俺は急いで部屋に戻り、防具を身に着けていった。


 剣帯を締めてリュックを背負ったところで部屋の外からエリカが声をかけた。

「準備出来てる?」

「今終わったところ」


 準備の整ったエリカと連れだって1階まで下りていき、俺が先になって渦に入った。


 渦から離れたところで俺はランタンの用意をしてリュックの脇に吊るし、リュックを背負い直した。地図と筆はあらかじめ胸当ての下に着ている胴着のポケットに入れている。

 エリカもランタンを用意したが手で持つようだ。その方が周りがよく見えるからな。


 今日は昨日入っていった坑道とは別の坑道を進むつもりだ。

「そこの穴の先に進んでみよう」

 空洞の壁に開いた穴の一つを指さした。


「まっすぐ行けばいいの」

「とりあえず枝道には入らず道なりに進もうと思う」

「ならランタンを手で持ってるからわたしが前を歩く」

「頼む。地図を確認しながらだからそんなに急がなくてもいいからな」

「分かってる」


 他のダンジョンワーカーたちは2階層に続くと思われる坑道に向かっているようだが俺たちはそのそれとは違う坑道にエリカを先頭にして入っていった。


 30分ほど進んだものの、モンスターにも出会わなければ同業者にもあわなかった。


「1階層って新人も少ないのかな?」

「何だかそうみたいね。下の階層の方が割がいいんでしょうね」

「俺たちも早いうちに2階層に行った方がいいかな」

「少なくともこの階層のモンスターを一通りたおしてから考えましょうよ。

 下に行けば同じモンスターでも強くなってるって話だし。この階層でちゃんと戦えないようじゃ下の階層で苦労するもの」

「エリカの言う通りだな。この階層のモンスターを難なくたおせるようになってから2階層に行こう」

「うん」

「しかし、なかなかモンスターに出会わないなー」

「そうねー」

「まあ、焦らず行こう」

「うん」


 こうやってエリカと話しながら歩いていると、素人童貞60年のこの俺でも女子とスムーズに会話ができるということで安心だ。ロジナ村にいた時はクリスと何も気にすることなく話せたわけだけどアレはホントに小さな時からの付き合いだからノーカンだろう。


 あまり話に夢中になるとモンスターの気配に気づくのが遅れるので、会話はそれくらいにして地図を見ながら側道などの位置を確認しつつ坑道を進んでいった。


 そうやってさらに30分ほど進んでいたら、俺の地図には描いていない側道への入り口があった。描き忘れてしまったのだろうか?


「エリカ、そこの側道なんだけど、俺の地図に載ってないんだ。おそらく描き忘れたんだと思うけど、エリカの地図で確かめてくれないか?」

「ちょっと待って」

 エリカは一度ランタンとリュックを路面に置いてリュックの中から自分の地図を取り出した。

「エド、自分で見てくれる?」

 エリカから渡された地図を広げて、渦の場所から現在位置までを目で追ってみたが、やはり目の前の側道への入り口は記載されていなかった。

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