第13話 初めてのダンジョン3、エリカ・ハウゼン
[まえがき]
初めてのモンスターを苦戦しながらもたおしたエドモンド。これで一皮むければいいが……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンジョン内に生息するモンスターは地上の動物と違い、簡単に血抜きするだけで内臓を取り出したり水で冷やしたりしなくても味が落ちることはないそうだ。しかも傷みにくいという。
ダメージを受けながらも苦戦の末大ウサギをたおした俺は、血抜きをしてリュックに詰めた。
大ウサギは思った以上に大きかったのでリュックはかなり重くなってしまった。
あと一度モンスターに遭遇して、それをたおしたらリュックもパンパンになるはずなのでそれで撤収しなければならない。
左手にランタン、右手に地図を持って坑道歩きを再開し、更に30分ほど歩いた。
半日程度余裕で歩るけると思っていたのだが、リュックの背負い紐が肩に食い込むしかなりつらい。今の時刻は正確には分からないがまだ午前中のハズだ。
時間が経つのが遅い。そして先は長い。
弱音を吐いても状況は改善しないが、右の二の腕の痛みは引いたし、胸の方もなんともなくなったようだ。
丈夫な体に産んでもらったことに感謝だな。
そこからさらに地図を見ながら30分ほど歩いて適当なところでリュックを下ろし、剣を下げたまま剣帯を外し、坑道の壁に沿って路面に腰を下ろた。
昼休憩だ。
リュックから布袋に入れた干し肉と硬くなったパン、それに水袋を取り出し、干し肉とパンと交互にかじって水袋の水を飲んだ。
危ないようなら逃げろ。とも言われていたが、戦っている最中に逃げる隙もないし、そもそも最弱モンスター相手に逃げていたらダンジョンワーカーは務まらない。
とにかく場数を踏んで強くならなければ話しにならない。しかし、今日は運よく勝てたが明日も今日の幸運が続くとも限らない。
この世界に転生して15年。生まれ変われたことは本当にラッキーだったが、何のチートもなく、知識チートの前提となる実務経験もない俺。
これから先、何か大きなことができるんだろうか?
このまま埋もれていく未来しか見えない。
干し肉とパンを食べ終わったというか水で無理やり腹の中に流し込んだあと、腹が落ち着くまで少し休憩して、ランタンに油を補充しておいた。
荷物は重いし、俺は結構頑張った。今日はこれで引き返そう。
装備を整え、リュックを背負ってやってきた道を30分ほど引き返していたら、前方に明かりが見えた。
坑道の上に明かりを置いて、誰かが何かと戦っている。
こういうとき、初心者の俺はどうすればいいのか分からない。とはいえ戦っている現場にあまり近づくのはどう考えてもマナー違反だろう。
そう思って現場から10メートルくらい距離をとった位置で立ち止まった。
ひとりの女性ダンジョンワーカーがちょっと前の俺と同じく大ウサギと戦っていた。
路面に置かれたカンテラの明かりで下から照らされた女性の顔は最初のうちはよく分からなかったのだが、よく見たら、なんとその女性ダンジョンワーカーはあのエリカだった。
細剣を使うと言っていたエリカが手にしている武器なのだが、細剣にしてはかなり短い。いや、先端部分がなくなっている。
大ウサギは、すでに血だらけなのだが動きは鈍っていない。
それに引き換えエリカは右手の細剣は折れている上、短剣を持つ左手は痛めているようで、左手は短剣を持ったままだらりとぶら下がっている。
これってどうすれば?
助けに入った方がいいんだろうか? 勝手に助けに入ってはマナー違反だろうから、エリカにことわることにして俺はその場にリュックとランタンを置きエリカに声をかけた。
「エリカさん、俺だ。エドモンドだ。手助けしようか?」
「エド? 手助けはいい。そこで見ていて」
手助けを断る気持ちも分からないではないが、大丈夫なのだろうか?
「あっ!」
俺が手をこまねいてエリカと大ウサギの戦いを見ていたら、思わず声が漏れた。
もろに大ウサギの頭突きがエリカの胸にヒットした。エリカは今の一撃で後ろに尻もちをついてしまい、その拍子に右手の折れた細剣と左手の短剣を同時に手放してしまった。
俺でも大ウサギの頭突きは革の胸当て越しに相当ダメージがあり、しばらく息ができなくなったが、彼女も俺同様かなりのダメージを受けたに違いない。
エリカに頭突きをかました大ウサギは俺の存在に気づいていたハズだが俺を無視して、一度後ろに下がってエリカに向かって突進を始めた。
マズい。
俺は剣を抜いて走り寄ったが、大ウサギの方が速く、無防備となったエリカの上半身に突っ込み、エリカはその場で伸びてしまった。死んではいないと思うが無事ではなさそうだ。
エリカが動かなくなったところで大ウサギは俺を敵と認識したようで、俺に向かって突進を始めた。
傷だらけのくせに動きはいい。とはいえ、大ウサギの突進はさっき経験している。今回の俺は余裕を持って剣を構え、ジャンプして突っ込んできた大ウサギを左にかわしざま剣を振り下ろした。
俺の剣は大ウサギの首の骨を断ち切り大ウサギに致命傷を与えたのだが、首の切断には至らず大ウサギの首に刺さってしまった。大ウサギは空中を移動中だったのでその勢いに逆らわないよう俺は剣から手を放して見送った。
俺の長剣を首に付けたまま大ウサギは路面にドシャリと落ちてそのまま絶命した。
大ウサギの首から長剣を引き抜いて、刃こぼれしてないか確かめたがどこも傷んではいなかった。傷んで当然だし最悪剣が折れてしまったかもしれない状況だったがラッキーだった。
伸びてしまったエリカのところに駆け寄ったら、エリカが起き上がった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、歩けると思う。エド、助けを断ったけど、ありがとう」
「うん。立ち上がるなら手を貸そうか?」
「自分で立ち上がれる」
エリカはそう言って立ち上がろうとして、一度後ろによろけたが、何とか持ち直して立ち上がった。
エリカは折れた細剣を拾って一度血振りしてから鞘に入れ、短剣も拾って鞘に戻した。
「大ウサギどうする?」
「それはきみがたおしたんだから、きみが好きにすればいいわ」
そう言われても「はいそうですか」とは言えないよな。
それでも首は半分断ち切っているわけなので後ろ足を持ち上げれば血抜きはすぐに終わるだろう。
「じゃあ血抜きだけはしておこう。ギルドに戻って買い取ってもらったら折半しよう」
「好きにして」
エリカは何か怒ってるのだろうか? 言葉がとげとげしいような。さっきまでエリカは戦っていたわけだからまだ気が立っていると解釈した方が正解か。
俺は大ウサギの後ろ足を両手で持って壁際まで運び壁に沿わせて立てかけておいた。大ウサギの首から血が抜けるのを待つあいだ、リュックとランタンを置いたところまで戻って長剣を鞘から取り出し、リュックから取り出したボロ布で拭いておいた。
ボロ布はそのまま腰と剣帯の間に突っ込んでおいた。
ボロボロっぽいエリカに大ウサギを持たせるわけにはいかないので、あらかた血の抜けた今の大ウサギは俺のリュックに入れることにした。
リュックの中の大ウサギ以外のものを取り出して新たに大ウサギをリュックに入れその上にボロ布を敷いて他の荷物を突っ込んだ。俺のリュックは文字通りパンパンになってしまった。
そう言えばリュックへの物の入れ方は重いものが上になるようにすると担ぎやすくなると聞いたことを思い出した。今の状態は全く逆じゃないか? 無事持ち帰ることができるんだろうか?
俺がそういったことをあれやこれやしている間、エリカは自分のリュックを背負ってランタンを手にしていた。
[あとがき]
苦戦するエリカを前にしてエドモンドは一皮むけた! のか?
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