第14話 チーム『サクラダの星』
大ウサギとの戦いでピンチに陥っていたエリカを助けた。大ウサギとの戦いは2度目だったおかげで1度目よりもうまく立ち回れたが課題も残った。
「俺は帰りの途中なんだけど、エリカさんも帰るだろ?」
「うん。剣も折れちゃったし帰るしかないわ」
「一緒に帰ろう」
「うん」
ずっしり重いリュックを背負って前を歩く俺の後ろをエリカがとぼとぼついてくる。
ランタンを持つ手が重くなってきたのでエリカのランタンの明かりもあるし、俺のランタンはエリカに頼んでリュックの横に引っ掛けて吊ってもらった。
そのリュックなのだがとにかく重く肩に食い込んでくる。肩から降ろして休みたいのだが、降ろしてしまうともう背負えなくなるような気がして休むことなく歩き続けた。
それで2時間ほどかけて渦のある空洞にたどり着いた。その間モンスターに出会わなかったがエリカは無言のままだった。
渦から出た俺たちは受付カウンターから続く買い取りカウンターにまっすぐ向かった。
買い取りカウンター前で順番が来たところでリュックを下ろしてまずは2匹目の大ウサギを取り出し、台の上に置いた。
その大ウサギを買い取りカウンターのおじさんが持ち上げ、計りに乗せて重さを計った。
「これは銀貨1枚と大銅貨2枚だ」
「もう一匹いるのでお願いします」
最初にたおした大ウサギを台の上に置いた。
「これは大きいな」
おじさんが重さを計って買い取り値段を言ってくれた。
「こいつは銀貨1枚と小銀貨1枚ってところだ」
「ありがとうございます」
買い取りカウンターのおじさんからお金を受け取った俺は小銀貨に大銅貨1枚を手もとに残し、残りは財布にしている小袋にしまった。
「エリカさん、大ウサギの半額の小銀貨1枚と大銅貨1枚」そう言ってエリカにお金を差し出した。
「受け取れない。たおしてもらったうえ運んでもらってるのに受け取れない」
「エリカさん、あの大ウサギが初めてだったんだろ? このお金はきみが初めてダンジョンワーカーとして稼いだ金なんだ。そう言う意味では金額以上の価値があるんじゃないか?」
「うん。そうね。じゃあもらっておく」
「そうしな」
今何時ごろだろうと思ったら、そこでちょうど鐘が鳴った。1度きりだったので午後2時だ。まだ2時なのか。
「エド、ちょっときみに話があるから食堂に行かない?」
「いいよ」
二人してギルドの食堂兼酒場に入り空いていた4人掛けの丸テーブルに向かい合って腰かけた。
すぐに給仕のおじさんがやってきたので小腹の空いてきた俺は薄めたブドウ酒とつまみにソーセージを頼んだ。エリカは薄めたブドウ酒だけを頼んだ。
お金を払おうとしたらエリカが自分が持つと言ってくれたのでありがたく厚意に甘えることにした。
それほど待つこともなくお酒とソーセージが届けられた。
カンパーイ! という雰囲気でもなかったので俺は黙って飲み始めた。
「エド、改めて今日はありがとう。
この前、わたしとエドがチームを組んだとして、エドの実力がわたしに見合ってなければ寄生になる。なんてひどいことを言ったけど、わたしの方がよほど実力がないって今日思い知ったの。
まだわたしとチームを組んでもいいと思ってくれているなら、チームを組んでくれない?」
「俺からすれば願ってもないことだよ」
「そう。ありがとう。これからよろしくね」
「こちらこそ」
「何だかスッキリしたらわたしもお腹が空いてきちゃった。
おじさーん」
給仕のおじさんがやってきた。
「わたしにもソーセージお願い」
「あいよ」
代金を受け取った給仕のおじさんは、帰って行き、すぐにソーセージがのっかった皿を持ってきた。
「それじゃあ、カンパーイ!」
「カンパーイ」
「エリカさんも苦戦してたけど、実は俺も大ウサギに苦戦して一人だと厳しいと思っていたところだったんだ」
「でもあの大きな大ウサギをたおしたんでしょ?」
「そうなんだけど、2度ほど大ウサギの突進を受けてるし苦戦は苦戦だったんだよ。
エリカさんの時は2度目だったから、かなりうまく立ち回れたんだけど、結局剣を持っていかれたしね」
「ふーん。それはそうとわたしたちはもうチームなんだからエリカさんはやめてくれないかな」
「じゃあ何て呼ぶの?」
「エリカでいいわ」
「じゃあ、エリカ」
「うん」
成人?女子に対して名まえ呼びかー。これも初めての経験だ。俺の初めてがドンドン失われて行く。ありがたやー。
「チームになった以上、チームの名まえが必要だわ。何かいい名まえないかな?」
「そうだなー、エリカとエドモンドないしエリカとエドだからエリカとエドはどう?」
「それじゃあそのまんまじゃない」
「そうなんだけど。エリカには何か良い案あるの?」
「そうねー。中身がないのに名まえだけ派手でも恥ずかしいし『サクラダの星』ってどうかな?」(注1)
どっかで聞いたような十分派手な名まえだだけど、エリカが考えたことだし、悪くもない。というかなかなかいい。
実際のところ、チーム名をどこかで吹聴するようなことはまずないだろうし。
「それでいいんじゃないかな」
「それじゃあ、エドがリーダーでいいわよね」
「エリカは俺の1日前に生まれてるんだからエリカがリーダーでいいんじゃないか?」
「実力から言ってエドでしょう」
「俺たち二人に実力差なんてあってないようなものだと思うよ」
「それでもよ」
「じゃあ分かった」
「わたし今日からここに住むことにする」
「えっ! 支店の方は大丈夫なの?」
「いちど帰って話しないといけないし、荷物も運ばなくちゃいけないけど大丈夫だから」
「ならよかった。荷物運びを手伝うよ」
「荷物運びは店の人に頼むから気にしないで。
エドの部屋はどこだったっけ?」
「3階の15号室」
「手続して引っ越しが終わったらエドの部屋にあいさつに行くわ。夕食は一緒に摂りましょう」
「うん」
ソーセージを食べ終えて葡萄酒を飲み終えたところでいったん解散することにしてエリカと別れた。
部屋に戻った俺は防具を外し、上半身裸になって自分の体を見たら、胸の真ん中と右の二の腕がわずかにアザになっていたがもう消えそうだった。その代り両肩にリュックの背負い紐の痕が赤く付いていた。これもすぐに治るだろ。
今日は初めてのダンジョン。俺なら楽勝と心のどこかで思ってダンジョンのモンスターを甘く見ていたようだ。
それでも手負いだったとはいえ2匹目の大ウサギについては1匹目の大ウサギと比べればうまく戦えたと思う。
だけど、大ウサギを仕留めたものの剣から手を放さなくてはならなかったわけで、100点満点で言うと60点というところだろう。
今日の個体以上の大ウサギもいるだろうから先行き心配だったがエリカとチームを組むことができたことで先行きが開けた来たような気がする。
何より、女子とチームを組んだ上にお互い名まえ呼びだ。
あーああ、ああああ、あーああ、ああああ、リア充一直線!(注2)
注1:
以前他の作品でチーム名を『一心同体』と付けたところ、おっさんと女子高生で一心同体はないだろ! と、ものすごく不評だったので当り障りの少なそうな名前にしておきました。
注2:
曲の最後に「とりゃー!」って掛け声が入ってたと思ったんですが、「とりゃー!」の入った曲を探しても見つかりませんでした。記憶違いだったか?
[あとがき]
チートがなければこんなものでしょう。とはいえ、本作はシビア路線を突っ走って、読者の皆さまにストレスを与えたいわけではないので、そのうち何とかなるでしょう。
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