第10話 武器屋
ダンジョンギルドから通りに出て屋台を探したがすぐには見つからず、結局駅舎の前まで戻ってきてしまい、駅舎の隣りの食堂に入って定食を食べてしまった。
ちなみに駅舎の隣りの食堂にもダンジョンワーカーらしき人が沢山いた。今日の夕食はギルドの食堂で摂ることになるはずなので慣れなければいけない。俺にちょっかいをかけてくるようなもの好きはいないようだし俺が勝手にビビっているだけだから、すぐに慣れると思う。
食事を終えた俺は元来た道を引き返してダンジョンギルドの建物の脇の道を通り工房街に入っていった。
防具については父さんが作ってくれた革の防具をもってきているので、武器工房で長剣と解体用にナイフを買うつもりだ。
父さんには今まで一度も実剣を持たせてもらったことはないので実剣がどれほど木剣と比べて重いのか分からないけれど、そんなに差はない筈なので数日素振りしていれば慣れるだろう。
ギルドのエルマンさんはどの工房がいいとか言っていなかったので、差はないと考えていいのだろう。
まずは一番近くの武器工房に入ってみることにした。
工房とは言っても入り口は店のようになっていて中も武器類が並べられてちゃんとした店だった。その代り店の人も客もいなかった。こんなのでいいんだろうか?
「すみませーん。剣が欲しいんですがー」
奥に向かて大きな声を出したら、小太りの男性が奥から出てきた。
「いらっしゃい」
「長剣が欲しいんですが」
「見たところ若いし新人さんだな?」
「はい。さっきギルド会員になったばかりです」
「となると、切れ味より丈夫さで選んだ方がいい。数打ちの中から選べば十分だ。どうしてもというなら注文も受け付けるが、そっちはかなり値が張るぞ」
「それなら数打ちの剣を見せてもらえますか?」
「ここに並んでるのは全部数打ちの剣だ。数打ちというと注文打ちと比べ、下に見られるし、値段も半値以下だが、決して粗悪品ではないから安心していい」
店の一画に置かれたテーブルの上に10本ほどの長剣が鞘に入って無造作に並べてあった。
見た目は全部同じに見えたが、長さなどが少しずつ違うようだ。
「鞘から抜いて持ってみていいですか?」
「もちろんだ」
一本一本鞘から抜き出して軽く振って重さや重心の位置を確かめた。
木剣と比べ確かに重くはあったがどの剣を持ってもそれほど違和感はなかった。
これならすぐになじめそうだ。
俺が剣を確かめているところを見ておっさんがそう言った。
「全くの素人と思っていたが、そうでもないようだな」
「小さい時から親父に手ほどき受けてたもので。とは言え木剣しか扱ったことはないんですが」
「それでもだ」
俺は全部の剣を確かめて、最終的に2本を残し、その2本をもう一度確かめてみて最後に1本を決めた。
「これにします」
「ほう。たまたまかも知れないが、その中で一番出来のいいのを選んだか。
そいつの値段は金貨2枚だが、おまえさんの門出祝いだ。金貨1枚と小金貨1枚でいいぜ」
結構な値段だったがこれから俺の命を預けるものだ。
「それでお願いします。あと解体用のナイフが欲しいんですが」
「ナイフはこっちだ」
別のテーブルに案内されて、そこでも一本一本手に取って確かめその中から、骨も断ち切ることもあるだろうと考えてややゴツ目のナイフを選んだ。
「そいつは銀貨4枚だ」
合わせて金貨1枚、小金貨1枚、銀貨4枚を支払った。剣帯を買わなくてはならないと思っていたらサービスしてくれた。
「ケガしないように頑張れよ」
「はい。
それじゃあ」
タダでもらった剣帯に買ったばかりの長剣を左に下げ、右にナイフを差して俺は工房兼店を出た。
この先にも何軒も工房があったが、それを見ずにここを見ただけで簡単に買ってしまった。しかし後悔はない。
ダンジョンギルドの部屋に戻る前に、俺はダンジョン内の地図を書き写すため紙と筆記用具を買おうと、今度は駅舎のある方向の反対側、おそらく北に向かって大通りを歩いて行った。
しばらく歩いていたら大きな雑貨屋があった。
紙と筆記用具のほかにもこれからダンジョンギルドの部屋で生活するにあたって必要な物があるかもしれないと思って中をのぞいてみることにした。
店にはそれなりの客が入っていて、店の備え付けのカゴを持って品物を見ていた。日本の店のように最後に出口で精算するようだ。
俺も入り口に重ねてあったカゴを1つ持って店の中に入って行って品物を見ていった。
ロジナ村にただ一軒あった雑貨屋と称する何でも屋と違って日用雑貨が豊富に並んでいた。さすがは大都会だ。この世界になじんでしまったようで人口十数万の街が大都会に見えてしまった。
それでランプというかランタンを1つと燃料の油の入った陶器の瓶を2つ。火打石と打ちがね。ギルド会員証のタグ用に革ひも。タオルを数枚と、雑巾用のボロ布、桶を1つ、そして物干しロープを1本カゴに入れた。そのあと店の人に紙と筆記用具を置いていないかたずねたら、店の奥の方に連れていかれた。
そこにはいろんな大きさの紙が置かれていて、インクに各種の筆も置いてあった。毛筆のような筆もあれば、鉛筆の芯を太くしたようなものもあった。俺はA3版くらいの紙を数枚とその鉛筆の芯を太くした筆を2本カゴに入れた。その筆の使い方は鉛筆と同じでナイフで先を細く削って使う。インクを使わないため携帯にも適している。
品物を入れたカゴを持って出口のカウンターに行き精算した。油の入った陶器の瓶はズボンのポケット、筆は胸ポケットに入れ、残りは手で持ってダンジョンギルドに戻り3階の自室に帰ってきた。
物干しロープをかけるところがないか壁を探したら、ちゃんとそれ用らしいフックが壁についていたので、物干しロープを張っておいた。
夕食まで剣に慣れるために素振りでもしておこうと、俺は剣とタオルを持って1階に下りていき玄関から通りに出て建物の裏手に回って広場に入っていった。
ダンジョンギルドの裏の広場では荷馬車がひっきりなしに出入りしていて馬車の操車場の役目をしているようだった。ダンジョンの産品を運び出しているのだろう。活気がある。
俺はそういった作業の邪魔にならないように広場の隅の方に行ったら手押しポンプの付いた水場があった。
俺は水場から少し離れたところで素振りを始めた。
無心になって剣を振っていたら街の各所から鐘が2回鳴るのが聞こえてきた。午後4時の鐘だ。
剣を鞘に納めて、タオルで汗を拭いたあと、手押しポンプを片手で押しながら水を汲んで手と顔を洗った。
タオルで顔と手をよく拭いてから俺は来た道を引き返して自室に戻った。
自室に戻って濡れてしまったタオルを物干しロープにかけたら部屋の中に生活臭が漂い始めた。
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