第9話 ギルド図書室


 断腸の思いというほどではないが残念な思いでエリカと別れた俺は、荷物を置くべくホールの隅にあった階段を上って3階に上がり俺の部屋、15号室を見つけてカギを開けた。

 部屋は狭いと言われていたが感覚的には6畳くらいありベッドと小さなテーブルと椅子、それに小さなタンスが置いてあった。これだけあれば十分だ。


 テーブルの上には紙が1枚置いてありこの寮?の利用方法が書いてあった。

 まずは下の食堂。

 朝食の時間は朝6時から8時まで。夕食の時間は午後4時から8時まで。どちらも部屋のカギを見せれば定食が食べられるということだった。普通の宿屋や飲食店と同じで飲み物は別料金。

 後は飲み水、洗濯、洗顔には裏手の広場の横にある井戸を使うよう書かれていた。


 紙切れを読んだあと、俺はリュックを床に置いて、窓から外を見たら、ギルドの裏側の広場とその先の工房群が見えた。工房群からは黒い煙が数本立ち登っていたのでそこは鍛冶屋というか武器工房なのだと思う。

 広場には荷馬車が並んでいたので、ダンジョンからの産物をどこかに運ぶのだろう。

 窓の外を一通り見たあと俺は部屋を出てカギをかけ、武器を買うため1階に下りていった。


 ダンジョンギルドの裏手に回るにはいったん外に出なければならないようだったのでホールを横切って玄関に向かった。

 俺の前世から引き継いだ知識によると、新人がこんなところでうろついていれば難癖をつけられると相場は決まっているのだが、そういったこともなく玄関から通りに出た俺は建物沿いに裏の方に回ってその先の工房街に向かった。


 目当ては長剣とナイフ。歩きながら気づいたのだが、俺は無意識に長剣を買おうとしていたのだが、はたして俺が相手すべきダンジョン内のモンスターは長剣が通用するのか? まさか通用しないということはないだろうが、それが最適なのかと聞かれれば、今はよく分からないとしか言えない。

 貴重なお金だし、剣ともなれば高額だ。無駄な出費は避けたい。

 俺はUターンしてダンジョンギルドに戻り、そのまま2階に上がって階段の正面にあった図書室に入った。

 図書室と言ってはいるが、隅を柱で仕切られているだけで周囲は壁で囲われているわけではなくギルドの事務室の一画だった。なので、事務員たちが立ち働いているのが図書室から見えた。

 逆に言えば俺が図書室にいるのは向こうからでも分かる。

 図書室の広さは小学校の教室の半分くらいで、長テーブルが置かれ、本と言えばそのテーブルの上並べて置かれたに大きな本だけだった。

 図書室の中には誰もいなかったので、俺は順に本を見ていった。


 まずはダンジョンの地図だ。

 1階層は洞窟型のダンジョンで、坑道が網の目とまではいかないがかなり複雑に広がっていた。土地勘というか慣れていないと簡単に迷子になりそうだ。

 入り口である渦から詳しく見ていくと、まず渦を抜けるとその先は広間になっていて、そこから6本ほどの坑道につながっている。そのなかの1本が2階層に下る階段まで続いている。2階層に下りていくだけなら一本道なので迷いそうな感じではない。

 しかし、初心者の俺は当面1階層で働くわけだから、1階層の構造は頭に入れておいた方がいいのは確かだ。


 紙と筆記用具を用意して地図を写したほうがいいな。

 2階層、3階層の地図も見てみたが、どちらも坑道型のダンジョンだったので坑道そのものの拡がり方は当然違ったが1階層とそんなに変わりはなかった。


 次に俺は階層別モンスター図鑑なるものを見つけたのでそれを読むことにした。当面は1階層のモンスターを知れば十分だ。

 図鑑なので簡単な絵と一緒に説明と買い取り値段の目安が書かれていた。絵はカラーではなく線画だ。

 買い取り値段については今現在、本に記された価格で買い取ってくれるのかは分からないが、目安にはなるだろう。


 1階層に出現するのはスライム、大グモ、大ムカデ、大ネズミ、大ウサギ。の4種類。スライム、大グモ、大ムカデは食べられないが、大ネズミ、大ウサギはもちろん食べられる。

 ロジナ村ではそういったものは出回っていなかったので食べたことはないが説明によると『美味』とあった。


 大ムカデの毒は薬の材料になるそうで、毒腺のある頭部が無傷だとかなりいい値段で買い取ってくれるらしい。注意点として、動きはそれほど速くないが、見つけることが困難とあった。

 大グモの場合は頭と胸が一緒でそこに毒腺があるが、蜘蛛の毒についてはも薬の材料となるため頭胸部が無傷だと買い取り価格が高くなるようだ。大グモの注意点は動きが速いこと。

 大ムカデ、大グモどちらも毒のカミツキ攻撃だが、大ムカデの毒は痛みを伴う毒で噛まれても即死することはないらしいが激痛が走るそうだ。

 大蜘蛛の毒は噛まれた部位がマヒするそうで痛みはほとんどないが、利き手だと武器が扱えなくなる。

 1階層のくせに結構ハードだ。

 大ネズミはカミツキ攻撃、大ウサギは額が発達していて頭突き攻撃をするという。いずれも致命傷になるような攻撃ではないらしい。

 大グモと大ムカデは単体で現れるようだが、大ネズミと大ウサギは多いときは3体同時に現れるようなので、俺のような素人同然のソロのダンジョンワーカーだと十分危険と考えてもいいだろう。


 厄介なのはスライムで、見つけにくい上粘液を飛ばすという。赤いスライムと青いスライムがいて、赤スライムは酸の粘液、青スライムは肉を溶かす粘液を飛ばすという。肉を溶かす粘液はおそらくアルカリなのだろう。

 粘液の射程はスライムの大きさに比例しているそうで、大きいほど遠くまで粘液を飛ばすそうだ。射程の目安は体の大きさの10倍。50センチあれば5メートル粘液を飛ばせるということだ。

 赤スライムに対して剣で切りかかったりすると剣が傷むので、棍棒かそういった非金属で攻撃した方がいいと書いてあった。青スライムは剣で切りかかっても問題ない。

 どちらのスライムも外皮を破れば簡単に潰れてしまうそうなので剣のほかに赤スライム用に木剣を用意してもいいかもしれない。それか最初から棍棒か。


 スライムは潰れると飛ばしていた粘液と同じ粘液を残すそうで、いい値段で買い取ってもらえるようだが専用の瓶が必須なのと、坑道の路面にこぼれたスライムの潰れた粘液をすくうのにも専用のひしゃくがあるそうで面倒だ。


 スライムも通常単体でしか現れないそうなので、俺の場合はスライムに遭遇したら即撤退だな。


 ここまで読んだ感じでは、1階層で稼ぐ分には剣で十分そうだ。他の選択肢としてメイスや棍棒、長物の杖とか槍があるが、メイスや棍棒はともかく長物は坑道内では扱いづらいだろう。

 メイスとか棍棒だと大ムカデや大グモの頭とか潰してしまいそうだ。

 剣の場合はメンテナンスにお金がかかると思うが、木剣とは言え今まで慣れ親しんだ剣で行くとしよう。坑道の路面や壁に叩きつけたりしなければそれほど傷むこともないだろう。



 俺は本を閉じて図書室を出、武器屋、武器工房に向かうため1階に下りたところで、まだ昼食を食べていないことを思い出した。

 ギルドの食堂を見ると席がいていないではなかったが、一人であの中に入っていく勇気が今日は出てくらなかったので、武器屋に行く前に屋台でも見つけて買い食いすることにした。


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