第6話 サクラダへ4、馬車旅とエリカ・ハウゼン2


 馬車で向かいに座った美少女エリカ・ハウゼンと知り合いになり一緒にサクラダに向かおうということになった。

 乗合馬車の出発を知らせる鐘が鳴ったところで、エリカを先にして馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗り込むエリカのお尻が引き締まっているのにプリプリしていた。


 俺たちはまた向かいあって座り、ほかの乗客の迷惑にもなるので黙って目をとじた。


 それから馬車が次の駅舎で休憩するたびに馬車を降りてエリカと話をした。

 その結果お互いに名まえ呼びする間柄になった。俺が彼女を呼ぶときは「エリカさん」で彼女が俺を呼ぶときは「エド」だ。ちょっと高低差があるような気がするが、俺にはエリカさんで精いっぱいだった。



 エリカのうちはオストリンデンの商家ということで、彼女は長男と3人姉妹の4人兄弟の3女、末っ子ということだった。

 そして、彼女は利き手の右手に細剣、左手に短剣を持つ双剣の使い手ということだった。

 なるほど、プリプリなのが納得だ。

 じゃなくって、対人ならメイン武器が細剣で十分かもしれないが、モンスターに、それも複数のモンスターに細剣が通用するのか少し疑問だ。

 そういったこと赤の他人が口出ししても反発されるのは目に見えているし、自分で身をもって知らなければ意味がないので言わないでおいた。身をもって知った時には手遅れになることもあるだろうが、それも含めてダンジョンワーカーだ。

 とはいえ、名まえまで知って親しく話をしている美少女でしかもプリプリだ。彼女にもしものことがあれば俺だけでなく全世界の損失であることは確かだ。

 俺は一人でダンジョンに潜ろうと思っていたが彼女のために方針を変えよう。

 

「エリカさん、お互い初心者だしサクラダに行ったら二人でチームを作らないか?」

「きみの実力がわたしに見合ってなければきみは単なる寄生になるけど」

 確かに彼女の言う通りではある。どうも、いらぬおせっかいだったようだ。


 実際、俺は父さんに手も足も出ないわけだし、上の二人の兄さんたちにもかなわない。

 実力的にはよくて中の下。冷静に考えれば下の中から上だろう。

 ちょっと、いや、すごく残念だけど諦めるしかない。


「確かにエリカさんの言う通りだ。お互いソロで頑張ろう」

「そうね。そうしましょ」

 しかしかなりきつい性格だな。こんなので社会に出てうまくやっていけるのだろうか?

 とはいえ、見ず知らずの俺とちゃんと会話しているところを見るとそうでもないか。


「チームのことはいいけど、今日の宿は一緒の部屋に泊りましょうよ。その方が安く済むわ」

 俺はもちろんいいのだが、若い男女が一緒の部屋に泊っていいのか?

 渡りに船? カモネギ? 据え膳? ドクドクという鼓動と一緒にいろんな言葉が俺の頭の中を駆け巡った。


「そういうことなら一緒に泊ろうりょまろうか」

 俺は極力平静を装って返事したつもりだったが、俺の返事はすこし上ずっていたかもしれない。


 その日の最終駅で馬車から降りた俺たちは駅舎から離れてそれラシイ宿を探したのだが、宿は一軒しかなかった。他の乗合馬車の乗客に比べて出遅れていたのか空いた部屋は1つしかなかった。事前に一緒に泊ろうと約束していなければおそらく俺が野宿する羽目に陥ったと思う。いやー、二重の意味でついていた。


 宿は1階が食堂兼居酒屋で、2階、3階が宿泊施設になっているいわゆる旅籠はたごだ。インともいう。


 宿の人に案内されたのは3階の端の部屋で天井が斜めになっていた。屋根裏なのだろう。

 部屋の中にはベッドが並んで***2つ置いてあり、他に小さなテーブルと椅子が2つ置いてあった。こんなものだろう。宿泊費は朝夕の食事がついて一人小銀貨1枚だった。

 ベッドを決めて荷物を置いた俺たちは夕食を食べるため1階に下りて行った。


 宿の食堂はかなり広く、泊り客だけでなく宿場町の人たちもいるのだろうが、時間が早いせいか、客は同じ乗合馬車に乗っていた乗客のくらいで、今のところかなり空いていた。


 店の人に4人席に案内された俺たちは向かい合って座った。


 この世界では成人、未成年の明確な区別はないし、もちろん飲酒の年齢制限などない。とはいえ、まだ15歳になったばかりの俺はこれからの発育のことを考え薄めたブドウ酒を注文したが、エリカ・ハウゼンは濃いままのブドウ酒を頼んだ。


 しばらくしたらジョッキに入った飲み物と一緒に宿泊客用の定食が運ばれてきた。


 薄めたブドウ酒の値段は大銅貨1枚。濃いままのブドウ酒の値段は大銅貨2枚。俺の感覚だと大銅貨1枚は250円くらいなので、妥当な値段なのだろう。

 もちろん飲み物代は宿泊費に入っていないので、ジョッキと交換で支払う。料理の追加も同じ要領だ。


 料理は鹿肉のソテーに温野菜。キャベツとベーコンの入ったスープにパンというものだった。パンはかなり固いのでスープはパンを浸して食べるためのものだと思う。

 エリカが何も言わずに食べ始めたので俺は心の中で『いただきます』と言って食べ始めた。

 ほとんど馬車の休憩時間にお互いのことを話しているので話すこともなく、黙って料理を口に運び飲み物を飲んだ。


 他の客たちも黙って食事しているので食堂の中はいたって静かだ。


 俺たちが食べ終わって席を立とうとしたころ、段々と客が増えて食堂の中が賑やかになってきた。仕事を終えた地元の連中がやってきたのだろう。この宿場で飲み食いできるのはおそらくこの宿屋だけなのだろうから、これからもっと騒がしくなるかもしれない。


 部屋に戻った俺は、靴を脱いでベッドに横になり目を閉じた。

 そしたらエリカがごそごそなにかやっている。

 薄目を開けてそっちを見たら服を脱いでいた。

 寝る前に上着やスカートを脱ぐのは自宅では当たり前かもしれないが、こういった宿ではいつ何が起こるか分からないので着たまま寝るのが普通なのだ。と、俺は父さんに旅の心得として習っていたのだが、どうやらエリカは違っていたらしい。

 俺にとってはウェルカムだが、心臓がまたパクパクし始めた。これでは寝られないぞ。

 現に部屋は一つしか空いていなかったわけだから一緒に泊ろうとしたのが失敗だったとは言えないが、俺の一部もかなりマズい状態だ。


 わが眷属よ静まれ! 静まるんだ!


 こういったところに通算60年間素人童貞であるハンディが現れるようだ。

 耳をそばだてていたら、そのうちエリカが服を脱ぐ音は聞こえなくなった。

 今の状態を確かめたい。見たい! しかし俺は呼吸が荒くならないよう意識して目をしっかりつむった。


 そうやってかなりの時間まんじりともせず目を閉じていたらエリカの寝息が聞こえてきた。

 薄目を開けてエリカのベッドを見たらエリカは毛布に入ってぐっすり寝ていた。夏なので窓を開けてはいたがいつのまにか部屋の中は真っ暗で詳細は不明。

 エリカの毛布をめくりたいという本能をこらえ、俺はまた目を閉じた。

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