第7話 迷宮都市サクラダへ5、馬車旅とエリカ・ハウゼン3
まんじりともしないというわけでもなく、何とか深夜には寝つけたようで夜が明けて明るくなったら目が覚めた。
隣りのベッドではエリカはまだ寝ていて、そして毛布をはだけていた。
下着姿なのだが、この世界の下着は現代日本のものとは全く異なっていて実用本位。そういった意味で下着は全くセクシーではない。
だがしかーし、その中に隠された美少女の肢体は万国、いや異世界共通。美しいものは美しい。そしてエロい! ただ想像するだけだけど。
また急に心臓がパクパク言い始めた。
鼻水が垂れたと思って指で触ったら鼻血だった。俺も若い。
とにかく美少女の下着姿に見とれて鼻血を出しているわけにもいかないので俺は顔を洗うため鼻血をタオルで拭き、前かがみ気味になりながら部屋を出て1階に下りていった。
だいたいこういった宿の裏手には泊り客が顔を洗ったり簡単に洗濯したりするための水場があると父さんから聞いていたので、宿の裏に回ったらちゃんと井戸があった。
俺は近くにひっくり返して積んであった桶に井戸から水を汲んで顔を洗った。
顔を洗ったらすっきりしたと同時に俺の分身の怒りも収まってくれた。
胸を張って部屋に戻ったらエリカは服を着ていた。ちょっとだけ残念だがまた俺の分身が怒り出したら困るので逆に助かった。
「おはよう」
「おはよう。エドは顔を洗ってきたんだ。わたしも顔を洗ってくる」
「水場は裏手だから」
「ありがと」
エリカはタオルを持って部屋を出て行った。
部屋の中に残されたのは俺一人。部屋の中にはエリカの荷物が入ったリュックもある。そしてそのリュックの中にはお宝が眠っているはずだ。そんなことを考えていたらまた心臓がパクパクいい始めて俺の分身も怒り始めた。
エリカが帰ってくるまでに怒りを鎮めないとマズい。
鎮まれ! 収まれ! スッスーハー。ハッハースー。スッスーハー。聞いたことがあるようなないような呼吸法を試してみたらそのうちパクパクも怒りも収まってくれた。
エリカが部屋に戻ってきたらちょうど6時の鐘が聞こえてきた。朝食は6時からなので俺たちはさっそく1階に下りて行った。
食堂に入ったところ俺たちが1番乗りだった。この時間だと宿泊客しかいないだろうし、そんなものだろう。
エリカと昨日と同じテーブルに座ったら何も言わずに俺たちの前に朝食が置かれた。朝から酒を飲む者はいないからそんなものなのだろう。
朝食のメニューはハムと温野菜。それにスープとパン。昨日の夕食の肉が薄いハムになっただけの朝食だった。そんなものなのだろう。
そんなものなのだろう。という感覚が旅慣れなのだ。と、納得した。
食事を終えて部屋に帰りしばらく休憩した俺たちは少し早かったが宿を出て駅舎に向かった。
この駅舎から8時にディアナ行きの乗合馬車が出て、ディアナ到着はちょうど正午になる予定だ。
駅舎のベンチに30分ほど二人並んで待っていたら駅舎の裏のほうから乗合馬車がやってきた。
俺たちは最初に乗り込んだので一番奥の席に向かい合って座った。
そのうち乗客が増えていき、駅舎の上からの鐘が4回聞こえてきたところで馬車の出発を告げる鐘がカラン、カランと鳴らされ馬車はディアナに向けて動き出した。
昨日と同じように馬車の中では黙って目を閉じ、たまに目を開けて向かいに座るエリカの顔を見てまた目を閉じる。一度だけふいに目を開けたエリカと目が合った。すごく気まずかったが何も言われなかった。
そして、昼近くになり馬車はディアナに到着した。
ディアナはヨルマン辺境伯領の領都ブルゲンオイストに次ぐ第2の都市と言われている。
馬車の中からでは後方しか見えないのだが、街には立派な門があり、街は外壁で囲まれていた。
石畳の通りの両側には真っ黒い木材と真っ白な漆喰壁の大きな建物とか、石造りのどっしりした建物が並んで、日本基準で言えばどこにでもある地方都市のような街だが、こちら基準では確かに大都会だった。
大通りらしき通りを馬車が進んでいきそのうち馬車が止まった。終点のディアナ駅舎に到着したようだ。
俺たちはここでサルダナ行きの乗合馬車に乗り換えてることになる。
馬車から降りて駅舎の人に聞いたところ、あと1時間ほどでサルダナ行きの乗合馬車が出るそうだ。
俺たちは駅舎の隣りに建っていた旅館の食堂兼酒場に入り軽い食事を摂った。
大都会の昼食時だけあって食堂はかなり混んでいて、俺たちは相席になり俺とエリカは横並びで食事した。
もちろん食事代は先払いで、出てくる料理は定食だけだ。代金は大銅貨2枚だった。昼食という意味では少し高いのかもしれない。味の方は悪くもなければ良くもなかった。この世界の料理は総じてうま味成分が不足しているので、俺の舌に合わない。今さらそれを言ったところで始まらない以上、何が出てこようとおいしくいただくという気持ちで食べている。
幸いなことにこの世界でも昆虫食は珍しいようで俺はお目にかかったことはないし、話しに聞いたこともない。
もしこの世界の人間が日本に転移なり転生してコオロギ料理などが出てきたら魂消るだろう。
ただ、イナゴの佃煮はおいしい。酒のつまみとしてもいける。これは事実だ。
昼食を食べ終えた俺たちは駅舎に戻ってサルダナ行きの乗合馬車を待っていたらほどなく駅舎の裏の方から馬車がやってきたので、今日の終着までの4駅分の代金を払ってそれに乗り込んだ。
最初に俺たちが乗り込んで一番奥の席に座っていたら、それっぽい男二人、女二人の4名組が馬車に乗り込んできた。男女問わず手や顔に切り傷がある。見るからにベテランダンジョンワーカーだ。
すぐに発車の鐘が鳴り馬車は動き出した。
乗客が結局6人だったので、彼らは俺たちから距離を置いて座り直し、仲間うちで小声で話しを始めた。話の内容はサクラダダンジョンのことのようだがほとんど聞き取れなかった。
ベテランたちの会話はためになると思ったのだが残念だ。
馬車の中ではいつも黙って目をつむっているエリカが珍しく俺に話しかけてきた。
「あの人たち、ダンジョンワーカーよね?」
「見た感じはベテランダンジョンワーカーってところ。ひょっとしたら名だたるダンジョンワーカーチームかも知れない」
「うん。何歳くらいに見える?」
「30歳ちょっとくらいじゃないか」
「そうだよね。わたしたちも15年くらい続けていればあんなに成れるかな?」
「ケガもせずに続けることができれば成れるんじゃないか。ただその気になって頑張らないとあれだけの貫禄は出ないと思うよ」
「そうよね。わたしも気を引き締めて頑張るわ」
「俺も頑張る」
まだ駆け出しにもなっていない俺たちにとって彼らはいい刺激になった。
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