第2話 少年期。世界の概略
言葉が話せるようになりさらに難しい言葉も使えるようになって、ステータスだとかそれっぽいことは全て試したものの、それっぽいことは全く起きなかった。
それで、一度父さんに魔法ってないのかと聞いたら「そんなものはおとぎ話の中以外にないよ」と、笑いながら言われてしまった。
「そのかわり、ダンジョンの中から不思議な
ダンジョンがこの世界にあったんだ!
魔法はなくてもダンジョンがあって魔法アイテムがあれば十分ファンタジーだよ。
そこから俺は父さんにダンジョンについてあれこれ質問した。
父さんの話で分かったことは、ダンジョンの中には予想通りモンスターがいて、それをたおす仕事をするのがダンジョンワーカー。たおしたモンスターを持ち帰るとダンジョンギルドというところが結構な値段で買い取ってくれるということ。
非常にまれだがダンジョンで金塊や宝石、不思議な力を持った武器や防具などが見つかるほか、用途の分からない不思議なアイテムまで見つかることがあるという。
そのダンジョンだが、サクラダという街にダンジョンの出入り口があるという。ロジナ村からサクラダまでは馬車を乗り継いで3日くらいの距離だそうだ。あとでわかったのだが馬車は1日40キロほど進むそうなので、距離にして100キロから120キロといったところらしい。100キロというと数字的にはそれほどでもないように思えるが、結構な距離だ。
俺は父さんからその話を聞いた日、魔法のないことには落胆したが、ダンジョンに興奮して日課の魔力操作をする気にもならず、なかなか寝付けなかった。
俺は7歳になり、妹のドーラは4歳になった。ドーラはなぜか俺になついていて、母さんが家事で手が離せないときは俺が面倒見ている。従って俺の幼馴染のクリスも俺がドーラで手が離せないときはドーラの相手を手伝ってくれるようになった。
クリスは上に姉が2人いる3人姉妹の3女で、クリスのうちは両親姉妹のほか、お爺さん、お婆さんがいる。家業は農業だが、クリスのお父さんは俺の父さんの部下のような扱いで、父さんから命令があれば父さんに従って村を見回ったり、場合によっては戦地などに赴くそうだ。
この世界に魔法はないみたいだしそもそも魔力など存在しない可能性が高かったのだが、俺はもし、万が一、億が一、魔法、魔力が存在した時のため魔力操作を魔法なんてないと父さんに言われたあの日を除いて欠かさず続けていた。一番の理由は寝つきが良くなるからだけどな。
7歳になって半年が過ぎたころ、俺もとうとう父さんの夕食前の剣術指導を受けるようになってしまった。
父さんが俺用に革を加工してヘルメットと胸当て、そして肘まである手袋、いわゆるコテを揃えてくれた。俺はそれらを身に着け同じく父さんが木を削って作ってくれた剣を素振りする。
上の兄さんたちのおさがりで十分だと思ったが、父さんは兄さんたちのも成長に合わせて防具も木剣も作っていたので、俺にも作ってくれたようだ。
「速く、強く、正確に!」指導といっても父さんはこれしか言わない。重要さから言わせると「正確に、強く、速く」なんだそうだ。
俺も素振りしながら「速く、強く、正確に!」と声を出している。そうしていると内容はともあれ父さんは機嫌がいい。
魔法がない以上剣に望みをつないで俺はいっぱしのダンジョンワーカーになるぞ! といった決意とは裏腹に夕方の1時間程度の剣の訓練がつらい。
体が全くできていないうちからハードな訓練すると成長を阻害するのではないかと文句を言いたくなるが、さすがにそんな子どもらしくないことは言えないので黙って俺は剣を振った。
父さんに言わせると俺のスジは悪くないらしい。
とはいうものの、10歳のクラウス兄さんでさえ7歳の俺では天と地ほどの差があるようでクラウス兄さんと打ち合っても全く歯が立たない。
2年くらいはクラウス兄さんに歯が立たなかったが、俺が10歳、クラウス兄さんが13歳になるころには何とか互角に打ち合えるようになっていた。俺には剣の才能があったようだ。
でも勝てるのはクラウス兄さんだけで、上のアルミン兄さんやフランツ兄さんには全く歯が立たないし、父さんに至っては何が何だか分からないうちに一本もらっている。
それでも俺はめげずに剣を振っていた。
俺の防具は俺の成長に合わせて父さんが寸法直ししてくれていたが、10歳になったところで新調してくれている。父さんは革細工の才能があるみたいだ。そのころから俺も父さんの畑仕事を手伝い始めた。
ダンジョンワーカーに年齢制限はないようなので、体ができ上がったらうちを出て迷宮都市サクラダに行くのだ。兄さんたちには悪いが4男の俺の場合、いつ家を出ても問題ないはず。
家を出ていく前にある程度の軍資金は必要だが、それについては今のところ全く当てはない。
10歳になるまでに現代知識を生かしてなにかしようということはまず無理だということを実感した。インフラが全く異なるというか、現代知識で前提としているインフラが全くない上、前世でそういった実務経験皆無の俺にできることは何もなかった。
これまでにこの世界について分かったこと。
まずこの世界の1年は12カ月。1カ月は全部30日で、12月30日の次の日から5日間休みがあって新年を迎える。つまり1年は365日というわけだ。
俺の誕生日は345年7月1日。本当は何か西暦のような呼び名があるのかもしれないが、ただ3桁の年数だけで暦年を表している。
年末の5日間の休日のことをうちではアララ神の休日と呼んでいる。
アララ神とはうちの両親が信じている神さまのことで、この世界で2番目に信者の多い宗教?だそうだ。うちにはそのアララ神の木像が飾ってある。ちなみに一番信者の多い宗教は神聖教会という教会で偶像禁止なのかどうかは知らないが、信者たちは彼らの聖地にある聖なる石をあがめているそうな。
この5日間に生まれた場合は生年月日は12月30日ないし翌年の1月1日にされる。どちらでもいいらしい。みんな正月に一斉に年を取る数え年に比べれば誕生日という概念があるだけましかもしれない。
俺が見たことのある動植物は地球のものと変わりはないように見える。馬は馬だし、牛は牛。松の木もあれば杉の木もあるし、バラの花もあればユリの花もある。従ってバラ族もいればユリ族もいるかもしれない。
そしてこの世界というかロジナ村でも春夏秋冬、ちゃんと四季がある。冬はそれなりに寒いが雪は滅多に降らないし、俺の記憶ではいままで積もったことは一度もない。夏は暑いが日本の夏のようにじめじめしてはいないのでそれほど過ごしにくいわけでもない。
夏になるとクリスと近くの小川で泳いだものだ。水着なんてしゃれたものはないのでお互い真っ裸だ。お互いじろじろ見あったりしたものだが、そのうち性徴期に入ったのかクリスも意識し始めて恥ずかしがるようになった。いやー、いい思い出だなー。
春と秋は日本の春と秋とそれほど変わらないと思う。前世の俺は春が一番好きだったが、そういうお楽しみもあって今の俺は夏が一番好きな季節だ。
梅雨っぽい長雨はないわけではないが、季節は一定ではないのでただの長雨なのだろう。
文明の利器は皆無だがロジナ村は総じて住みやすい環境だと思う。
あと、父さんの話から分かったことは、ロジナ村のあるヨルマン辺境伯領はヨーネフリッツ王国という国の北東に突き出した一地方で、辺境伯領の北東から東側は森林の広がる未開の大地なのだそうだ。
南西側はヨーネフリッツ王国本土。北側から西側にかけて北大洋、南側が南大洋と呼ばれる海が広がっているそうだ。
ヨルマン辺境伯領の領都はブルゲンオイストという都市で、人口は30万人ほど。この数字は20年以上前の父さんの知識なので今はもう少し大きくなっていると思う。
他に大きな街がオストリンデン、ディアナ、ブレスカ、カディフとある。このなかのディアナは、うちの村から一番近い街で、とうさんが街に用があるという時の街とはディアナのことだ。
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