第4話


「…。」


「…この部屋しかあいてなかった。」


部屋に入るなりギョッとした私にアイツが告げる。


週末だし。

時間帯的に、どこも満室だろう。


赤い装飾が施された、完全なるSM部屋。

見たことのない器具が置いてある。


鞭は使い慣れてる人じゃないと相当痛い。

壁にはX字の、手足を固定するであろう枷が備え付けられている。


それを眺めているアイツ。


「使いたい?」

「…。」


前に、痛がったり苦しんだりするのを見たがる奴がいた。

こっちは、ただ痛いだけだったし、ただ苦しいだけだった。


「あんまり痛いのは嫌だけど。」

「…。」


そう呟きながらハンガーにコートをかけて振り返ると、アイツがゆっくり近づいてきていた。

私の手首を捕まえ、壁の方へと歩き出すアイツ。

促されるままに付いて行く。


拘束具の前に着くと、私が身に纏っていた洋服を、上から順番に脱がし始める。

私はマネキンのごとくされるがまま。

ブラとショーツだけになる。

片手ずつ私の自由が奪われる。


まだシャワー浴びてないんだけどな。


テーブルの上に置いてあった新品のアイマスクを開封すると、それで私の両眼を覆う。

視界が制限されたせいか、他の感覚が研ぎ澄まされる。


なんだこのエロい状況。


少し離れた所で、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえる。

お腹の辺りがキュンとして、身体が受け入れる準備を始める。

洋服が擦れる音。

パサっと布が床に落ちる。


近づいてくる。


と思った矢先、近づいたはずの足音が、遠ざかっていく。


「カチャ」と扉が開く音。「サー」と水が流れ出る音。


嘘でしょ…。

拘束した私を放置した状態で、自分だけシャワー浴びるの。


あぁ、そうか。

これが放置プレイってやつなのか。


一度疼き始めると、制御できない。

待てができない身体は、触れて欲しくて堪らない。

肌がピリピリと張り詰めている。


これいつまで続くの。


鼓動が早いせいで、1秒1秒がものすごく長い。

身動きが取れず、肌が晒されているせいで、皮膚の温度は奪われていく。

それなのに熱く、ドクン、ドクンと中心が暴れている。


「ガチャン」と鼓膜に響く音。

それが合図になって、アソコが疼き始める。


触られてないのに、こんなになるなんて。


潤いを帯びた素足が、乾燥した床と、触れ合っては離れ、触れ合っては離れ。

それが繰り返され、やがて私の前で止まる。

私の足の甲に、アイツから流れ落ちた水滴が落ちる。

シャワーで温度を上げたアイツの熱気を近くで感じる。

アイツの吐息が顔にかかる。

多分、顔がすぐ近くにある。


あれ、マスクは…?

そうか、見られる心配がないから外してるのか。


私の唇に柔らかいものが触れる。

知らなかった感触。

ちゅ、ちゅ、と音を立てながら、啄まれる唇。

アイツに初めてキスされている。


今更、キスがどうした。


そう思うのに、今まで何十回と体を重ねているのに。

触れ合ったことのない部分がとても熱い。


違う。

触れられる全てが熱い。


後頭部を包むように覆うアイツの大きな手。

もう片方の手は、脇腹からゆっくりと下がって、腰を捉える。


不意打ちのキスに驚いたからか、普段みたいに息継ぎがうまくできない。


「ふ、、ぅ、」


背中で弾ける衝撃を受けると同時に、胸を覆っていた布が離れた。

ようやく私の唇を離してくれたアイツが、今度は、刺激が欲しいと主張する先端を舐め上げる。


「ぁっ、」


両手の自由と視界だけではない。

声を我慢する余裕までも奪われてしまった。


ショーツの上から、期待を膨らませて敏感になった部分を撫でられる。

お預けをされていたそこは、既にだらしなく涎を垂らしている。

布越しとは思えないほど、ヌルヌルと滑らかに行き来する指先。


アイツの身体がゆっくりと屈み、下げられるショーツ。

そのまま両足から抜き取られ、開放される局部。


鼠径部に触れる両手。

覆われていた布が無くなり直に触れる空気、アイツの吐息。


いや、それはダメだって。

今そこを舐められたら。


「っ、、ぁ、、ぁあっ、」


いきなり下半身に受けた強い刺激に驚き、思わず腰が引ける。

しかし、それ以上後ろに下がれる訳もなく、ただただ壁に密着する。

アイツの熱い舌が、私のクリトリスを捕まえて離さない。

クチュ、ピチャ、と粘液同士が絡まる音。


「んっ、、、ちょっと、、、」


「何。」


「まだシャワー、っ浴びてない。」


「だから?」


愛液を吸い上げられる衝撃が、ゾクゾクと背部まで駆け上る。


「っ恥ず、かしい、」


「ふーん」


舐める動作は止めないまま、アイツの指が侵入してくる。

グチュグチュと、中を犯され、さらに愛液が溢れ出す。


もう、早く、挿れて欲しい。


クリトリスがヒクヒクとし始める。

中がうねる。


「ねぇ、っもう、」


「イキそう?」


お構いなしに、一定のリズムで、ヌルヌルと往復する舌に揺すられるクリトリス。

いつもアイツに突き上げられると気持ちよくなるポイントを、卑猥な音を立てながら指で擦られる。


「んっ、、も、だめっ、、」


身体がビクっと跳ね、それに伴って引っ張られた両手の鎖が、ジャラっと音を立てる。


「はぁっ、はぁっ、」


さっきから呼吸が乱れっぱなしだ。

冬の乾燥した空気が、私の喉の潤いを奪っていく。

いつもみたいに声を我慢することもできず、声は掠れ始めていた。


パタン。…カチッ。


一度離れた気配だったが、また鼻先に感じる。


「水。」


アイツがそう言って、ゆっくりと触れる唇。

冷たい水がアイツの口内から注がれる。

ゴクッ、ゴクッ。

飲み終えても、まだ足りない。


「もっと…。」


「ん。」


水をねだると、丁寧に、触れる唇。

数口で飲み干す。


「ねぇ。」


足りない。


腕は繋がれているし、視界は遮られている。

私はアイツから与えられるのを待つしかできない。

ゆっくりと口を開き、舌を差し出し、おねだりをする。

水で冷たくなった、アイツの舌と私の舌。

絡まるたび、熱が帯びていく。


密着する身体。

アイツの中心も熱が籠り、硬く主張している。


「我慢できない。早く。」


「煽るなよ、」


下から一気に突き上げられる。

両手で掴まれた腰。

身動きの取れない私には、快感の逃げ場がない。

相変わらず愛液が止まらない膣内に、硬いものが抜き挿しされる。

受け止めるしかない快感が、次々と押し寄せる。


「ぁ、、っ、、そんな、激しくしないで、」


「なんで」


「すぐイッちゃいそう、、っ、」


もっとして、の合図と受け取ったのか、アイツの動きがより激しくなる。


「や、、もぅ、ダメっ、、、、っあ、」


ぎゅうっとナカを締め付けると、アイツの大きくなったアソコの硬さがより実感できる。


「はや、すぎ、」


「、っ言ったじゃん。」


ふっ、と笑ったアイツが、今度は私の片足を持ち上げる。

片足ではバランスが取れず、後ろにもたれかかる。

お腹側の、いつもの気持ちいいポイントに触れる。


「ぁあ、、っあ、、」


「ここでしょ?」


私がどこで喘ぐのか知り尽くしているアイツが、的確にそこばかりを突いてくる。

イッたばかりで敏感になっているのに。

更なる快感に頭が真っ白になる。


視界を塞がれ両手の自由を奪われ、余裕のない状態になって、ついに気付いてしまった。



私、アイツとのセックスが、好きだ。

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