天国の夢

佐伯瑠鹿

       天国の夢

 お昼寝しても、普通に夜寝る事になっても、毎日の様にほぼ必ず夢を見る。時には朝起きて、たった今見ていたはずの夢の筈なのに、すっきりとサッパリと完全に夢の内容を綺麗に忘れてしまう日もあれば、覚えている夢もある。それが昨日おととい見た夢ならいざ知らず、既に何十年も昔に見た夢を未だに覚えている事ってあるだろうか?


 その夢の中で私は、西遊記に出てくるような巨大なお釈迦様の中指の先端に布団が一組だけが引れていた。そんな場所にただひたすら寝ているだけの夢だった。たまに起き上がるが、周りを見回しても巨大な手の平しか見えない何もない空間。上を見上げれば真っ白い雲のような白い背景に優しい顔をしたお釈迦様。指の下を覗けば漆黒の闇が広がっている。暇すぎて布団の上で胡坐をかいて、お釈迦様に話しかける。

「暇なんですけど!~」

 と叫ぶと優しい声が囁くように、語り掛けてくる。

「これはあなたが子供の頃に自殺をしてしまった罰です。大人しくここで100年の眠りにつきなさい。残りあと50年ですよ」

 そんな事を言われ、絶望のまま布団の中に潜り込んだところで、夢が次のシーンに変わった。変わる時に、お釈迦様からお疲れ様のねぎらいのお言葉を貰えた気がした。どうやら100年の罰が終わったようで、次に目にしたのは、ここも真っ白い世界だった。下を見れば雲の様に、白くモクモクした床。これからどうしようかと、やる事も無いし、そうだ前世の家族でも探しに行こかと歩き出した時だった。行き成り声をかけられ、えっと思って声がした方向に視線を向けると、そこには昭和時代の小学校で使っていた様な、古ぼけた木の机があり、その上には大量の書類の束が置かれ、忙しそうに働いている…翼の大きな天使様だった。更に立ちあがると、有に2mかそれ以上ありそうな程に大きい。その大きさに驚いていると。

「100年間の刑が終わったのね、お疲れ様。あなたそろそろね」

 と言われて、私も釣られて、そろそろですか…と、答えていた。

「はい。そうです。次にあそこにある壁の仕切りがある部屋に行ってください。地上で生まれたい親を選んでね」

 そんな事を言われ、前世の家族を探す暇など無かった。むしろそれで良かったのかもしれない。自分が自殺をした原因になった継母を探して、悪態をつきたかっただけだし、本当の親は自分が小さい頃に既に亡くなってて顔さえ覚えてない有様。でも、実弟は居た筈だと、夢の中の微かな記憶にそれが残っていた。

 それから、そうだったと言う様に、付け加えてきた。 

「それとあなた。大人になって、散々美味しい物を味わった後に、植物アレルギーになるけど、良い?」

 そんな重大な事を軽いノリで言われてしまった。もう決まってしまっているのだったらしょうがない。受け止めよう。それまでに美味しい物を沢山食べておけばいいだけの事。

「分かりました」

「…それから……あなたの◯◯は…」

「えっ!……はい。…分かりました…」

「それじゃ行ってらっしゃ~い」

 笑顔で見送られてしまった。

 天使様の言うとおりに、壁に囲まれた敷地内に入ると、そこには世界中のあらゆる人種の夫婦の顔写真がペアで並べられていた。横は遥か彼方先が見えない。上を見上げても天井知らずだ。何だっと困惑していると、ここの責任者であろう天使様が説明をしてくれた。

「今ここに出されている写真は、現在妊娠が可能な夫婦ですよ。じっくり選んで、楽しい地上での経験値を積んでくださいね」

 と言われて、流石に端から端まで見るのは面倒くさい。目の前の写真から選ぼうと、吟味していると、結構イケメンな旦那さんと美人な奥さんを見つけた。心の中でどっちに似ても絶対美人で生まれるでしょこれ…と、頭の中でワクワクしながら、この人の子供になります。って、笑顔で言ったら、天使様がこの夫婦の説明をしてくれた。

「ああーこの夫婦はね。上流家庭で、二人ともプロのピアニストよ。世界中を飛び回ってるわ。この家の子に産まれたら、生涯お金には苦労はしないけど、あなたが産まれて数年後には、旦那さんが原因で、夫婦喧嘩が多くなり、冷めきった家庭になるわ。家の中は暗いかな」

 そんな事を言われ、想像したら独り家の中に取り残されて、毎回夫婦喧嘩を目撃して、尚且つ暗い人生…お金持ちにはなりたいけど、そんな道を歩むのは嫌だと思い断念。次に選んだのは、父親はイケメンだったけど、母親がなんかきつそうな顔をしていた。イケメンに魅かれて、因みにここは?と聞いたら。

「そこはそれなりの中流家庭ね。何時も笑顔が絶えない明るい家庭よ」

 その一言できつそうな顔関係なかった。たまたま写真写りが悪かっただけ!と思い込む事にして、速攻決定!生まれたい家が決まったところで、また次の部屋に案内された。カーテンで仕切られた囲いの中に入ると、既に3人の女の子が地べたに座っていた。

 中に通された時、天使様が。この夫婦は人気があるみたいね。もうこれ以上は母体が持たないので、此処はこれで締め切ります。万が一他の子が手続きもしないで、不正して生まれようとしてきたら、こちらで強制的に連れ戻しますから、安心して今度は4人で生まれる順番を決めてね。と伝えるとカーテンの外へと帰って行ってしまいました。

 残された子供4人で、生まれる順番を決めるのに、ジャンケンをしようと、一人の女の子が言いました。

 私と左側にいた女の子は、そうだねって同意したが、私の右側に居た女の子が手を上げて、私は長子になりたいと、立候補したのです。理由を聞くと。

「私のいた時代は戦時中で、私が面倒くさがって、ちゃんと逃げ道の計画を立てなかったから、敵に見つかり結局家族全員殺されてしまった。自分も死ぬ間際に後悔が残ってて、来世ではちゃんと計画を立てて、今度は家族全員を守りたいんだ」

 と、その場面と背景が直接脳裏に浮かんできました。通りすがりのログハウスの家の前で、両親とお祖母ちゃんと親戚だろうか?が敵に抵抗しています。その家の前には三本の大き目な丸太が置かれてました。話してくれた女の子はその丸太の前で、家族が殺されていくのを見ていたようです。その壮絶な場面を目撃しながら。

「止めてくれーー」

 と絶叫した直後自分も背後から剣で貫かれて絶命した感じでした。何処の国かは分からないけど、女性は二人とも頭にスカーフみたいのを、被ってました。そんな海外の出来事を話してくれました。

 他の2人もその光景を見ていたのか、少し暗い顔をしてました。それを聞いてジャンケンをしようと言った女の子が納得して、また話してきます。暗い物語を吹き飛ばすかのように、明るく振舞ったのです。

「良いよ。長子なんて、そんな面倒くさいのやりたくなかったから、助かったわ。私は前世では、大きなお屋敷で暮してて、お庭には沢山のお花に囲まれて、楽しく暮らしていたの。だから来世もお花に囲まれたいわ。そしてお花を育てるの」

 前回と同じように、その光景が流れてきました。全体に白い壁の大きなお屋敷。両親と共に玄関から出てきた金髪の女の子は走り出し、目の前の噴水を囲む様にして、美しく手入れされた花々を楽しそうに愛でています。

 話し終わると、いきなり立ちあがり、その場でクルクルと回り出した。見るからにお嬢様だった。

 そして私の反対側に居た女の子は言いました。

「私の家は貴族で剣士だった。小さい頃から剣の修行が厳しくって、両親に甘える事なんて出来なかったの。そのあと時が経って激しい戦が起こり、私は襲撃されて傷つき瀕死な状態で、両親に会いたい一心で家路へと歩いている時に、とうとう力尽きてその場で倒れて死んでしまった。その倒れてしまった場所はまるで、ゴミ溜めみたいな凄く汚い場所だった。だから来世は汚い物には触りたくない。綺麗な物に囲まれて生きていきたい。そして来世は思う存分に親に甘えたいんだ」

 何とも壮絶な体験談を聞かされて、脳裏に浮かんだ場面は西洋甲冑に身を纏いフラフラ状態で腐敗と虫が大量発生している道を歩いている場面だ。それ以上は言葉には出せない程の光景です。次は自分の番だと皆からの視線が集まっていた。

「…自分は、皆みたいな願望も希望も何もなくって…」

 シュンと俯いていたら、花が大好きなお嬢様に話しかけられた。

「でも何かはあるでしょ?」

 そんな事を云われて、これは何か言わないと、終わらないなっと思い、心にもない事を呟いてしまっていた。

「私は、小さい頃に死んでるから、何がやりたいとかこれがしたいのは無いんだ。でも子供の頃に死んでしまったから、来世は一度経験してみたかった。子供を産んでみたいかな?」

 そんな子供でそんな事を話すのもどうかと思っていたら、案の定皆からは、同情にも似た視線で見られてしまっていたが。


 そこへ気を取り直して、三人でジャンケンをする事に、勝った順番で生まれる事になり、勝った順番が現在のこの世の姉達の順番になりました。私は末っ子です。

 三人の姉達の性格も夢の中で話してくれたそのままです。適当に話した私以外は…かれこれ何十年前に見た夢。



 最初に生まれるのを立候補した姉は、その場で皆とは違う部屋に案内されました。今すぐ生まれ変わる為です。長方形の扉が開き、空の上から下を覗き込むと、家が沢山見える地上が見えて、良く晴れ渡ったとてもいい旅たちの日だった。姉は下で皆が来るのを待ってるからねって言い残すと、小さい羽根を広げ、下界へと下りて行きました。残りの三人は時が来るまで丸いカプセルに入ってスリープ状態になります。


 入る前に三番目に生まれる予定の子に言われたのが。

「私は、思う存分にお父さんお母さんに甘えたいから、ゆっくり来てよね」

 そう釘を刺されました。

 その後5年後に生を受け、生まれて数か月後。私に向って姉は言いました。

「生まれてくるのが早すぎなのよ」

 って、怒られてましたが(夢か現実か覚えてないけど、言われたのは確か)



 話を戻して、私はカプセルの中で10年以上も眠る事に…散々罰でさっきまで、100年も眠りについていたのに、またここでも再度眠りについていたのですね。ww


 それから年月が過ぎ、やっと自分が産まれる順番が来ました。他のカプセルを見ると、物抜けの殻だった。

 天使様に誘導されて、皆が降りて行ったあの長方形の扉の前に立つと、ゆっくりと扉が開き、綺麗な街並みを空から見ている。やはり本能で知ってて、降りる為の羽根を背中の中から引きだした。


 その時天使様が、説明をしてきました。


「下に飛び降りたら、この扉は閉まります。閉まった瞬間。もう帰れませんからね。その後翼はもぎ取られて翼を無くします。その後は自力では飛べないので、今度は透明なシャボン玉に包まれて、生まれる家に自動で連れて行ってくれるので安心してくださいね」

 と、もぎ取られ…何と恐ろしい言い回しと思いながら、取りあえず納得すると、羽を広げて、下に降りました。言われた通り、空に浮いていたら、長方形の扉がゆっくりと閉まって行きます。完全に閉まり本当にもう開かないのかなって思って、コンコンと扉をノックするが、中からは無反応その内。透ける様に扉が消えていきました。消えちゃったと思った瞬間。突然背中に激痛が走り、背中を見ると、真っ白い羽根が背中からまさにもぎ取られていくのが見えました。その羽さえも消えて無くなり、痛いッーーーと悶絶していたら、透明なシャボン玉に包まれて、ゆっくりと下界に降りて行きました。



 次に意識を戻してみれば、視線の先は暗闇。横を見ても真っ暗。真の闇が何処までも続いてます。なにここ何処?と思っていたら、目線を正面に向ければ、そこだけぼんやりと明るくなり、やっと何か見えてきたと思ったら、そこには戦時中か戦後まもない?そんな感じのする薄汚れた服を着た男女の子供達が遊んでました。一人の女の子は、手毬を付いてます。一人は縄跳びで遊んでる。男の子たちはキャッチボールをしたり、バットを振っている子もいて、それぞれに遊んでました。私は何もなかったので、後ろに見えたゴツゴツとした石壁が現れたので、その上に座りその子供達を暇そうに見下ろしていたら、その内何処からともなく声が聞こえてきました。あれ?何処から聞こえるのと耳を澄ませると、上の方から聞こえて来ます。何気に上を見上げると、小さい点ですが光が差している場所があるではないか。

 なんだなんだというように、上に飛んでいくと、その光る穴は徐々に大きくなり、光の前に立つとちょうど頭が一つ通れるくらいの丸い穴だった。ここまでくれば何を言っているのかが分かる。お経みたいだ。でも声が気になったから、躊躇せずに覗き込んだら、女性と思わず視線があって驚いてしまった。相手もポカーンとした顔をしている。慌てて頭を引っ込めると、ビックリした〜と、心を落ち着かせていると、またお経が聞こえてきた。今度は焦らずその人と明るい世界を見たさで、ゆっくりと顔を出したら今度は微笑みながらその人が手招きをしてくれて、私はどうしようかと悩んでました。明るい世界で手招きしている女性と、顔を出している穴の中に一旦戻って下の方を見ると、暗闇の中遊んでいる子供達どっちを選ぶかだ。しかし下に降りても1人だし暇だしと、暫く明るい世界を見たり、暗闇の世界を見たりと交互に見てたが、勇気を出してフラフラと明るい世界の女性の元へ。懐に抱きつくように座ると、なんか安心感に浸り、先程の野球をやっていたのが楽しそうで今度は男の子が良いなっとも思ったけど、やはり次も女の子が良いと思った瞬間に夢から覚めました。



 私が確か小学4年生の頃だったか定かではないけれど、ただひたすらこの先。生きて行くのが物凄く怖い時期がありました。不安と恐怖です。何故なのかと、悶々とした時期を20代前半まで過ごしていた時、あるテレビ番組で夏の定番番組お昼に始まるホラー系の番組を観ていたのです。その時母も好きな番組だったので、一緒に観てました。その中で霊能者が生に対しての説明をしていて、そこで今まで抱えていた不安が何なのか、一気に納得してしまって、そこから不安が消えました。その言葉が何だったのかといえば。


「現在生きている中で、この先の不安や恐怖。生きてて良いのかと考えてしまうのは誰にも起こります。何も感じないわって人は前世で、人生を全うして亡くなっている為。経験値を積んだ人。だから魂がそれを覚えていて、この時代に生きていても、生きるのに不安がないのです。その一方で、不安と怖さを抱えた人は、それになった年齢に関係があります。前世でその年齢で亡くなっているため、この先を生きていないのです。だから魂が経験していないので、怖いのは当たり前です。ですから来世の為に、一杯楽しんで、綺麗な物を見てこの世界で経験を沢山積んで人生を全うしてくださいね」


 その言葉で報われました。それじゃ私は前世では10歳くらいで死んだんだなっと、夢の中でも子供の頃に死んでいると言ってましたし。


 やはり前世からの繋がりか?その10歳になった年に、幼稚園からずっと学校でいじめに遭っていたのに、その年だけ10歳になった1年だけ無性に死にたいと思った事が多々ありました。その年齢を通り過ぎたら、死にたいと思わなくなりましたよ。不思議だ出来事です。今は生きてて幸せです。


 そんな時ふっと何を思ったのか、母が言いました。

「そういえば、あなたが生まれる少し前に、不思議な事があったのよ」

 と、話を聞けば、

「お母さんがいつものように、お仏壇に向かってお経を唱えていたらね。お経の書かれた位置から、可愛い子供がひょっこと顔を出して来たのよ」

 あれ?なんか何処かで見た夢のよう……。更に

「お互いビックリした顔をしていたんでしょうね。その子供またお仏壇の後ろに隠れちゃったのよ」


 あれあれ〜。


「もう一度心を沈めてお経を唱えたら、その声に釣られたのか、またその子が顔を出して来て、今度は焦らずにおいでおいでって手招きしたの」


 困惑…。


「その子ね何度かお仏壇の中とこっちを交互に見ていたんだけど、お母さんの所にユラユラと飛んできて、座っている私の膝に横向きで座って来て、抱きしめてあげたら、安心した様な顔をして消えちゃった」


 怖がるどころか、明るく言ってきた。元々母は多少霊感が有ったので、見えたのでしょう。


 はぁ!なぬ~。


「そうしたらね。数ヶ月後に体調が悪くって病院行ったら、妊娠6ヶ月目だって言われたのよ。いままで、赤ちゃんに良くない食べ物ばっかり食べていたから、焦ったわよ」


 だってーー。夢だと思っていたけど、夢が現実を見せる事もあるんだなっと、もしかして100年間お釈迦様の指先で眠っていた事も、天国で会った3人の前世の話しも本当の話しなんじゃないかと思えて来た。今の姉達の性格を見ていると…その時に思ったのは、待合室で会った子供達の顔が姉達の幼少期の顔だった。



 後日母に以前にお母さんが体験した内容を、夢でそのまま同じのを見てたと話したら、あの子はあんただったの?と、驚いてましたよ。そりゃそうだ。その直後。

「丁度昨日お母さんね。また不思議な夢を見たのよ」


 何だと聞いてみると。


「凄い大きなお釈迦様が現れてね。あの子は前世で凄くいじめられて、辛い思いをして自殺をした可哀そうな子です。あの子をこの時代では可愛がってあげてくださいね。って、言われたのよ」


………もう何も言うまい……


 そしてそれからウン十年後の現在。天使様に言われた通り、美味しい物を散々味わったあと、この年齢で卵アレルギーになっとる。ちょっとなるにはまだ早いかな💢。     


 それと同時に、自分の死に方もその時に聞いたけど、アレルギーが当たったんなら、今はそれは黙ってる。今はまだ生きてるから。あの時嫌だと言っておけば良かったかな。

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