モブ、はじめてのしけん!

 能力調査試験。年に二度行われる、個人の身体能力や魔術能力を調査する試験である。この結果によって、来年以降のクラスまたは学年など学校での立ち位置に変化が生まれる。実力至上のイーロアス学院において、この試験は個人の昇格に直結する。それが最下層であるクラスなら尚更、生徒各々のモチベーションも高くなる。


 学校で最も広い魔術剣場で僕たちは、二十分の準備運動の時間を与えられた。


 「ムウ、この試験初めてよね。私が教えてあげるわよ」


 僕の横に近づき、体を伸ばすアイン。


 この試験は二つのクラスで合同で行われる。そのペアとなるクラスがアインの所属する三年生のトップクラス。運が悪い。最高クラスと最低クラス、対極にあるクラス同士である。しかもその最高クラスが、一つ上の学年だ。


 分かっていたことだが、ペアになるクラスからは軽蔑の視線がひしひしと僕たちのクラスに伝わってくる。案の定、僕たちのクラスは完全に萎縮してしまっている。この調子では本調子も出ないということには先生たちも知っているだろうに。


 僕たち最下層クラスは形式上の実施で、端から期待されていないんだろうな。


 「最初はなんの試験なの?」


 「今から行われるのはランダムに発光するセンサーを制限時間内にいかに多く触れるかよ」


 魔術剣場には、まばらにセンサーが設置されている。そのセンサーがランダムに発光し、制限時間三十秒間でどれだけ触れれるかといった動体視力と瞬発力、持続体力を同時に測定できる競技となっている。なお、魔法での接触は許されていない。


 「どうしたの?」


 僕の横から離れようとしないアイン。


 「ムウ、あなた全くこの試験わからないでしょう。教えてあげるわ! 」


 僕にどうしても教えたいらしい。しかし僕はアインと一緒に居るわけにはいかない。


 なぜかって?


 僕がモブだからだよ。


 先程から懐疑の目を至る方向から向けられる。そりゃそうだ、魔人族のトップと落ちこぼれのモブが一緒にいたら興味が湧くだろう。仮に僕が彼らの立場だったら、僕だって興味のある視線で二人を眺めるよ。


 すると試験を先に終えたハルトが俯きながらトホホと億劫そうにこちらに近づいてくる。恐らくだが、アインの存在にはまだ気が付いていない。


 「ムウ殿ー、拙者今すぐにでも帰りたいでござるよ。上級生の目線が痛いでござる」


 そう言って、顔を上げる。僕の横に立つ人物に視線を向け、もう一度僕の目を見る。


 「そうだね」


 「そうだねって、他人事みたいに言わないで欲しいで……」


 ハルトは言葉を止め、もう一度僕の横にゆっくりと顔を向ける。


「ア、ア、アイン様! 」


 実に綺麗な二度見だ。僕も素でこの反応をできるように僕の精進しなければならない。師匠と呼ばせてくれ。


「アインだけど、どうしたのかしら」


「こ、この前は助けて頂きありがとうございました。どう、お礼をすれば良いか……」


「お礼なんていらないわよ。一方的にやられてただけだし」


 ハルトはアインに目すら合わそうとしない。さすが師匠。


「師匠、試験どうだった?」


 なんと言葉を返せば良いか戸惑っている表情のハルトに助け舟を出す。


 「どうもこうも、拙者の大不得意分野でござるよ。散々でござった」


 「散々だったんだ。アイン、ハルトにアドバイスをしてあげてくれない?」


 よしよし、会話にハルトを参戦させることで視線は僕だけでなく、ハルトにも分散させられる。


 苦笑を浮かびつつ、アインはハルトに優しい言葉を口にする。


 「全力の結果なら、胸を張りなさい。誰にも得意、不得意はあるわ。誰かに引け目を感じることはない。あなたは全力で挑戦した自分を褒めてあげることよ」


 アインは僕たち落ちこぼれ生徒も自分と対等に見ている。だから、ハルトのことを馬鹿にするような言い方をしない。


 この子は本気で種族間の確執を埋めようと努力しているのが、この一連のやり取りからも密に感じる。


 「それより、なぜあなたがムウに師匠と呼ばれているの?」


 「せっ、僕も初めて聞いたでご……聞きました。ムウ殿、どうしてでござるか?」


 ずっと思っていたが、ハルトは目上の人にはきちんと敬語を使うようだ。だが、お前のアイデンティティはなくなるぞ。


 ハルトは純粋に急についたあだ名の理由が気になるといった瞳でこちらに問いかける。アインもこちらに目線を向ける。


 さて、どう説明しようか。完成されたモブキャラだから、師匠と呼ばせてください。アインがいる以上、この理由では無理だな。


 「マテアス・ムウ」


 頭を悩ましていると運よく僕の順番になり、名前が館内に響く。


 今だけは憎しき神様にも感謝をしよう。助かった。


 「そういえば、平均記録ってどれくらいなの?」


 「恐らく、ろくじゅ」


 「百回前後よ」


 ハルトの発した言葉はアインの声にかき消される。


 「ありがとう。平均くらいは出したいなー」


 そう呟きながら僕は担当の先生の元へと向かった。


 僕は、ハルトが引くぐらいの悪い笑みを浮かべるアインの表情を見ることは出来なかった。



 

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カースト最下層のモブAが魔王の娘と仲良くなり、世界を滅ぼすそうです。 土山 月 @taKumisan

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