第31話東都物産社長と東都銀行頭取 そして陽平   日本橋料亭②

陽平は照れ臭そうに笑い、真鈴との電話を終えた。

「今夜のお品書きを持って来てと」


物産社長佐々木健治が苦笑い。

「真鈴は食べることも好き」

「料理を作ることも好きだ」


銀行頭取根岸久雄が陽平の目を覗き込んだ。

「挙式も近いですかな?」


陽平は、ため息をつき、そして笑った。

「健治さんも知っての通り」

「彼女というより、子供の頃からお姉様感覚です」


銀行頭取根岸久雄は、陽平のグラスに冷酒を注いだ。

「陽平君は、将来の東都グループのトップになる人」

「真鈴様と結ばれるのが、グループ全体の望みです」


物産社長佐々木健治は頭取根岸久雄のグラスに冷酒を注ぐ。

「陽平君も、真鈴も、それは十分承知だよ」

「もう、これは宿命だと、悟っている」


陽平は苦笑した。

「まだ就職直後です」

「当人たちといたしましては、あまり焦らせないで欲しいです」

「仲良く一緒に育って来たことは、事実ですが」


銀行頭取根岸久雄は、陽平を冷やかした。

「世話女房タイプですかな、真鈴様は」


物産社長佐々木健治は、認めた。

「確かに真鈴は、陽平君の食べるものから着るものまで、すべて世話を焼く」

「特に同じ家に住むようになったから、陽平君も大変だ」

「真鈴は、あれで気が強いから」


陽平は、迫る二人を手で抑え、笑った

「私たちの話題はやめましょう」

「素直に降参しますので」


銀行頭取根岸久雄は、真面目な顔に戻った。

「とにかく陽平君と真鈴さんの健康と安全だけは守らないと」

「身辺警護も、抜かりなく願います」


物産社長佐々木健治は深く頷いた。

「階級闘争史観にまだ魅力を感じる輩も多い」

「なんでもかんでも、政府が悪い、大企業が悪い」

「上流階級が悪い、上司が悪い、親が悪い」

「そんなことばかり言って、自ら努力をしない、向上心を持たない」

「権利は主張するが、義務は果たさない」

「やることは、他人の邪魔ばかり」

「批判、反対には熱心だが、対案は何も無い」

「ミルクを欲しがって泣きわめく赤子と同じ」

「赤子なら許せるが、いい大人になっても、成長がない」


銀行頭取根岸久雄が、熱弁になりはじめた物産社長佐々木健治を、抑えた。

「国会にも、そんな輩が多いですな」

「批判と反対の専門党」


陽平は慎重に口を挟む。

「じいさまは、適当にエサをやって飼えばいいと」

「吠えるだけ吠えさせて疲れさせたところで、エサをやれと」

「ガス抜き専門業者と思えばいい、それに金を払うだけだと」

「それで丸くおさまる」

「日本の有権者は馬鹿ではない、しっかり本質を見ているとも」


料亭の女将が入って来た。

「総理がお見えになりました」


陽平は、面倒そうな顔をしている。

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