第15話

「本当に大丈夫なの? ホープ君」

「うん、理由は後で説明するけど、大丈夫。覚悟は決めているよ」

「分かった。あなたがそう言うなら、私は何も躊躇わない」

「うん。じゃあ準備が出来たら合図をくれ」

「了解!」


 ガイさんとフィアーナさんには悪いけど、父様たちの準備が終わるまで時間稼ぎをして貰っている。二人は苦戦をしているけど……昔を思い出しているのか何だか楽しそうだった。


 その間、ルーカスさん達の準備が次に進み、アリスはルーカスさんに背中を支えながら魔法の詠唱を始める。万が一、魔力が足りなかった場合に備えて、ルーカスさんに魔力譲渡をして貰うためだ。


「火……水……土……風の四大精霊たちよ……禁忌を犯して、我が魔力と生命力を捧げ代わりに、我に悪しきものを消し去り無へと返す力を授けよ」


「──ガイ、フィアーナ! 散れ!!」

「了解!」


 二人はルーカスさんの指示に従い、デストルクシオンから距離を取る。


「いっけぇぇぇぇ……!! アブソリュート・デリート!!!!」

「ふ……」


 デストルクシオンは俺達の事を鼻で笑い、またダーク・ドールを出して──魔法を防いだ。


「二度も三度も……お前の娘は馬鹿なのか?」

「あいにく俺達の子供には天才しか居ないんでね。そんな挑発になんか乗らねぇんだよ。な? アルウィン」

「はい!」


 アリスの姿から父様の声が聞こえ、デストルクシオンは驚きを隠せない様で目を見開く。

 いっけぇぇぇと叫んだのは本物のアリス、だけど、いまさっきアブソリュート・デリートを放ったのは、メタルフォーゼでアリスの姿になった父様だったのだ!


「ホープ君!」

「うん!」


 俺達は柱の陰に隠れて様子を見ていたけど、詠唱が終わったアリスの手をギュッと握り、テレポーテーションの時に俺の魔力が残った魔法石を目印にして、瞬間移動する!


「これで最後だ、デストルクシオン!!」

「アブソリュート・デリート!!!!」


 背後から0距離発射の魔法を放たれ、流石に避ける事が出来なかったデストルクシオンは……サラサラっと、消えていく──今度こそ、誰かがデストルクシオンを助けに来ることは無く、完全に奴の魔力は無くなった。


 成功して良かった……俺はそう思いながらへたり込む。多分、デストルクシオンは魔力感知を使える。でも、どの人がどんな魔力なのかまでは分からない。初めてデストルクシオンに出会った時に、父様たちと区別がつかなかったのは、そういう意味だと思った。


 だけど確信は無かった。もしかしたら、それが間違えで俺達の方が不利な状況になる事だって十分に考えられた。だから言い出しっぺの俺は凄く緊張していたんだ。


「ふー……」

「ふふ……情けないわね、大丈夫?」


 アリスは苦笑いを浮かべながら、俺の手を引き上げてくれる。


「そう言うなって……」


 皆が俺達のところへ駆け寄ってきて、輪になる様に集まる。


「アルウィン、ルーカス。お前たちの子供達、スゲェーな!」

「だろ? 自慢の息子たちなんだ。な? アルウィン」

「はい!」


 面と向かってそんな話をされると何だか照れくさい……アリスもそうだったようで、俯き加減でモジモジしていた。


「あ~あ……私達もそろそろ欲しいな」と、フィアーナさんは言って、チラッとガイさんに目をやる。ガイさんは慌てた様子で目を泳がせながら「何言ってんだ! いま話すような事じゃないだろ」


「いいえ、今だから話す事よ。ね? アルウィンさん」

「はい! そうですよ、ガイさん」

「マジかよ……」


 笑い声が響き渡り、温かい雰囲気がこの場を包む……佐藤さんが見せてくれた本の父様は、多分、ここまで仲間たちと信頼関係を築けていなかった。やっぱり父様は自分で運命を変えたんだ。


「ところでお前さんたちは、いつまで手を握っているんだい?」と、ニヤニヤしているガイさんに言われ、俺達は顔を見合わせ、慌てて手を離す。


 するとフィアーナさんはガイさんの後頭部を掌でパコンッと良い音をさせて叩いた。


「ごめんなさいね、デリカシーのない夫で……ふふふ、私達のことは気にしないで続けて貰って良いのよ」

「あはははは……」


「さぁ……て、俺達は帰ろうか?」と、ルーカスさんは言って、俺とアリス以外の顔を見る。皆は黙って頷いていた。


「アリス、お前はまだ旅を続けるだろ?」

「えぇ、そのつもり」

「そう言うと思った。じゃあ、またな」

「うん」


 ルーカスさんはアリスの返事を聞くと、あっさりと背を向け帰っていく。


「お前はどうするんだ? ホープ」

「父様、俺もまだ旅を続けるよ」

「そっか……分かった。いつでも帰って来ても良いんだからな」

「分かってるよ」


 父様は俺の返事を聞くと、少し名残惜しそうな表情で背を向ける。そしてゆっくりとルーカスさん達の方へと歩いて行った。


「──うちの親、少し過保護な所があるんだよね」

「良いんじゃない? それはそれで。ところでさっき言ってた魔法石を壊しても良いって思った理由って何なの?」

「あ……えっと……それはね、デストルクシオンと戦って、魔法石がどれだけヤバい物なのかを感じて、アリスの言う通り壊しておけば良かったと思ったからなんだ」

「あぁ……そういうこと。ね? 私の考えた通りだったでしょ」

「あははは……そうだね」


 アリスは俺の返事に納得したようで、俺に背を向け歩き出す。俺は──俺は慌ててアリスの手首を掴んだ。


「なに? どうしたの?」と、アリスは驚いた様子でこちらに体を向ける。


「──ごめん、嘘ついた」

「嘘?」

「あ、いや……嘘ではないか。その理由が一番じゃなかっただけで……」

「一番じゃなかった? もう、ハッキリしてよ」

「分かった、ちゃんと伝える。俺……俺は、アリスの事が好きだ」

「はぁ!? な、何言ってるの!?」

「だから魔法石を破壊するしかないと思った時、何の躊躇いもなかった。だってさ……その方がずっとアリスと一緒にいられるだろ?」

 

 俺がそう告白すると、怒っているのかアリスの顔が真っ赤に染まる。


「──手……放して」

「あ、ごめん。痛かったか?」


 俺が慌てて手を離すと、アリスは悪戯っぽく微笑む。


「世界の命運を分ける戦いの時に何を考えてるのよ、馬鹿……」

「面目ない」


 俺が苦笑いを浮かべると、アリスの両手がスッと俺の方へと伸びてくる。そして「まぁ……でも私も一緒だったから言う資格なんて無いんだけどね」と、アリスは言うと俺の両手をキュッと握った。


「え……それってつまり……」

「えぇ……つまりそういう事よ」

「えっと、いつから?」

「一人で帰ってるときに話しかけてきてくれた、あの時から」

「あは、ははは……そうだったんだね」


 まさかスンッとしたアリスから、そんな返事が返ってくるなんて思ってなかった俺は、次の言葉が思いつかなくなって会話が途切れる。


「えっと……とりあえず、ここから離れようか?」

「えぇ、そうね」


 アリスは俺の片手から手を離し、もう片方の手は握ったまま歩き始める。俺も合わせて歩き始めた──。


 アリスも何を話して良いのか思いつかないのか黙ったままだけど……焦る必要なんて何もないよな。だって俺達はもう自由なんだから……。


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隣の席に座るスンッとした転校生の女の子は魔法がある世界で俺を殺そうとした女の子です 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku

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