第14話

 テレポーテーションした後、俺達は見覚えのある洞窟に居た。ここは俺が初めてテレポーテーションした場所だから、一番イメージし易い場所を選んだ。


「えっと……まさか、別世界を去る前にあんな事になるなんて思ってなかったな」

「──そうね」


 テレポーテーションする前にアリスを選ぶ! なんて、告白にも似た事を言ったせいで、照れ臭くて、ちょっと気まずい……アリスもそうなのか、さっきから俺の方を見ないで、体を横に向けていた。


 そうだ。魔法石の方は……俺は手を開いて握っていた魔法石の状態を確認する。え……ピンク? もっと使っていると思っていた俺は少し驚く。もしかして、さっきのやり取りで魔力が込められたのか? いずれにしても──。


「まだ使えそうだ」

「そのようね」

「約束通り、これをどうするか話すよ。アリスが言いたい事は分かる。分かるけど……この魔法石が世界を救ったのも事実……だから、どうするかハッキリ決めるまで、魔法石は誰にも渡らない場所へ置いて行こうと思ってる」

「どうやって?」

「ここには火種の一族しか開けられない岩の扉がある。それを開けられた魔物は父様が殺したから大丈夫だと思う」

「他に火種の一族がいる可能性は?」

「無いとは言い切れないけど……俺達が岩の扉の奥にある研究所に初めて入った時は、ほとんどが埃まみれだったから誰かが使った形跡はなかった。もちろん俺は入れるけど、アリスに伝えずに持って行ったりはしない。そこは信じて欲しい」


 アリスは考え事を始めた様で、指を唇に当てて黙り込む──それからしばらくして唇から手を離すと「分かった、信じてあげる」


「ありがとう! じゃあ付いてきてくれ」


 ──俺達は岩の扉の奥にある研究所に行くと、二人で見つかり難そうな場所を探し、そこに魔法石を隠した。その後は、来た道を戻り、洞窟の外へと出る。


「さぁ~て……これからどうしようかなぁ」と、俺が背伸びをしていると、アリスは「じゃ」とだけ言って、俺に背を向け歩き出す。


 俺は後を追いかけ「アリスは何処にいくつもりなんだ?」


「今更、お父様と旅するつもりはないし、一人でブラブラ、旅を続けるわ」

「そうか……じゃあさ、一緒について行っていいか?」

「──別に……邪魔をしないなら構わないわよ」

「やったぁ。今日のアリスは優しいな、もうスンッとした態度を取るのは、やめたのか?」

「そうして欲しいならそうするけど?」

「いや、冗談だって」


 ──こうして俺達は二人でブラブラと旅を続けた。そんなある日……デストルクシオンが隠していた魔法石を見つけ、持ち去ったと情報が入った。どうやらファシナンテの奴が、デストルクシオンの右腕に火種の一族の血が流れる人の腕をくっ付けたらしく、それで岩の扉は開いてしまったのだ。まったく死んでも面倒な事をしてくれる。


 俺達は直ぐにデストルクシオンを探し出し、廃城で魔法石を奪い返すため戦闘を始めた。苦戦する中、かつての勇者のパーティが集まり、何とかデストルクシオンを追い詰めることが出来たが……デストルクシオンは魔法石を体内に取り込み、進化の魔法を成功させ、パワーアップしてしまう。


 そこへアリスが、デストルクシオンに向かってアブソリュート・デリートを放つ!


「いくら進化しても、消えてしまえば意味がないでしょ!」


 デストルクシオンは待ってましたと言わんばかりに不気味な笑みを浮かべる。そして「ダーク・ドール」と魔法を唱え、自分の人形のような黒い物を数体、瞬時に作り出した。


 アブソリュート・デリートは……ダーク・ドールに阻まれ、デストルクシオンは傷1つ付けていない。くそ、身代わりタイプの魔法か。


「馬鹿め。その魔法は我の腕をごっそり奪ったのだ。何もしない訳がなかろう……」

「ちっ……」


 アリスは防がれたことが悔しい様で苦痛で顔を歪める。さぁて……どうする? 父様たちの体力や魔力はまだ残っているはず。だけど、さっきまで防戦一方で長引けば不利なのは確実……となると、ここは一発勝負に出るしかない!


「皆さん、聞いて貰いたい事があります」

「ホープ、作戦でもあるのか?」

「はい」


 ──俺は皆に作戦を伝えて指示を出す。すると「ガッハッハッハッハ」と、ガイさんが豪快に笑いだした。


「いいね、その作戦! 気に入った!!」

「──ガイ、勝手に行かないで! 私達がやられたら作戦は失敗するのよ!」

「わぁってるって」

「もう……本当に分かってる? あんた一人が負傷しても私は作戦を続けるからね!?」


 そう言いながらもフィアーナさんはガイさんの事をが心配の様で、先を歩き出すガイさんの後ろを付いて行く。


「よしアルウィン君。俺が死角になるからその間に」

「はい、ルーカスさん」


 父様たちには初めてのことをやってもらう。でも、父様たちならきっとやり遂げてくれる。そんな安心感があるから俺は作戦を先に進める。俺はアリスに近づくと肩に手を当て、魔力譲渡を始めた──。

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