第13話
俺は家に帰ると真っ先に自分の部屋に向かい、制服の上着のポケットから魔法石を取り出した。
左手に魔法石を握りながら、右手を転がっている座布団に向かって突き出す。そして──浮遊魔法を唱えた。
「やった……思った通りだった!」と、俺は喜びのあまりガッツポーズをすると、宙に浮いていた座布団がストンっと床に落ちた。
魔法石は魔素が込められている訳じゃない。魔力が込められているから、魔素が無くても魔法石の力で魔法が使える。それが分かればこっちのものだ。
こっちの世界から元の世界にテレポーテーションできるかどうかは分からないけど……それを心配してずっとこっちの世界にいる気にはなれない。俺は机の上に魔法石を置くと、直ぐにアリスの携帯に電話をした。
「──電話が来ないと思って、寝る準備していたのに……」
「またそんなこと言って……試してみたいこと、成功した。魔法石の力を使えば、テレポーテーションできるよ」
「──魔法石に頼るのは複雑だけど……仕方ないわね、お願いするわ」
「分かった。一つ心配なのが異世界から元の世界にテレポーテーションなんかしたこと無いし、そっちは成功するかは分からないけど、それでも良いかい?」
「えぇ、ずっとこっちに居るつもりはないわ」
「よし! じゃあ、人に見られない様に明日の早朝。〇〇公園に集合しよう」
「分かった」
──俺は電話を切り携帯を机に置く。これで良し……後はアリスに伝えたい事を整理しておかないとな。
※※※
次の日の朝、俺は約束通り○○公園に向かった。俺が公園に到着する頃には、アリスも待ち切れなかった様で、既に来ていてベンチに座っていた。アリスは直ぐに俺に気付いた様で、ベンチから立ち上がると、ゆっくりこっちに近づいてくる。
「さっきクルッと周りを見て来たけど、誰も居なかったわ」
「分かった、ありがとう。早速、詠唱をしようと言いたい所だけど……ちょっとだけ時間を貰って良いかな?」
「えぇ、どうぞ」
「えっと……あの時はアリスの気持ちも考えずに無神経に話しかけて悪かった。俺……昨日の夜、魔法石の事をどうするか考えてみた。その時に出した答えが正しいかどうかは分からないけど……テレポーテーションした後に必ず伝える!」
俺はそう言って、ジーパンから魔法石を取り出し、アリスの方へと差し出す。その行動が意外だった様で、アリスは俺を見つめたまま微動だにしなかった。
「だから俺を信じて欲しい」
──アリスがようやく優しい笑みを見せ、差し出した俺の手の上に自分の手を重ねる。
「仕方ないわね、信じてあげる」
「ありがとう……じゃあ行くよ。封印されし古の魔法を解き放ち、我は距離の束縛を断つ魔法を唱える……瞬く間に我を望む場所へと移動させよ」と、俺が詠唱をしていると、正面から何故か佐藤さんが走ってくる。
俺は驚き、魔力を維持したまま詠唱を止めた。佐藤さんは息を切らせながら、俺達の前で立ち止まると、キッと葵さんを睨みつける。
「なんで葵さんがここに居るのよッ!」
「なんでって……あなたの方こそ何でここに?」
「私にはあなた達の行動が分かるのよ」
「分かる?」
「葵さんは武君と喧嘩してこの世界に残され、武君は私と異世界に行って幸せに暮らす……そういう運命になってるの! だから葵さんが一人になる様に仕組んだのに……どうなってるのよ!?」
葵さんはそう叫びながら、右手に持っている本をギュッと握る。なるほど、そういう事か──。
「佐藤さんが見せてくれた本には続きがあって、その物語にはそう書かれているっていう事か?」と、俺が聞くと直ぐに佐藤さんは「えぇ、そういう事よ!」
「なるほどねぇ……」
「──なに? 何か言いたいの?」
「あの本には確かに父様の物語が描かれていた。だけど……全部じゃない。運命はいくらでも変えられるんだ! だから、ごめん。俺は自分の事しか考えてない君よりも、不器用だけど他人のために真っ直ぐ頑張ってるアリスを選ぶ!」
「そんなの納得できない!!」
佐藤さんが俺達に触れようとして駆け寄ってくる……けど、俺達はあっさり避ける。態勢を崩して転ぶ、佐藤さんの姿をみて、俺達は顔を見合わせた。
「アリス」
「えぇ」
「テレポーテーション!」
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