第12話

 佐藤さんの家に着くと、早速、部屋に行くことになる。


「お邪魔します……」

「どうぞ、どうぞ。好きなところ座って」

「ありがとう」


 俺は直ぐ側にあったクリーム色の座布団の上に座る。佐藤さんは本棚から本を三冊手に取ると、丸いテーブルを挟み向かい側に座った。


「はい、まずこれね」と、佐藤さんが差し出したのは、醜い魔法使いと幼馴染の少女と書かれた本だった。


 俺は受け取るとパラっと中身を見てみる──ただの短編小説じゃないか……? そう思いながらもサラッと読み進めていくと──魔法石の言葉が出て来てビックリする。


「あ~……もしかしたら武君にはこっちの方が良いかも?」


 俺は佐藤さんが差し出す本を受け取ると、「これは?」


「最初に渡したのが原作。そっちは二次創作されたもの」

「へぇ~……」


 ──読めば読む程、驚かされる……最初はたまたま父様と同じ名前の主人公が活躍する話だと思っていたけど、登場人物の名前が皆、同じだ……それに内容も父様聞いているところと似ている……ってことは──。


 俺が夢中で読み進めていると、左腕に何やら温かくて柔らかいものが当たる。俺は驚いて、そちらへ顔を向けた。


「どうかした?」

「いや……佐藤さん、ちょっと近くない?」


 俺が真剣に読んでいる間に、佐藤さんは音も立てずに擦り寄って来た様で、腕に胸が当たりそうなぐらい……いや、当たったぐらい近くに居た。


「ダメ?」

「いや……ダメとかじゃなくて……」

「──好きな人にくっつきたいと思うのはダメな事かな?」

「……」


 突然の佐藤さんの告白に俺は声も出せないぐらいに驚き、本を持った手を離してしまう。


「前から武君のことが好きだったの。だから……ね」と、佐藤さんは言って俺の腕を優しく擦る。


 こういう経験が浅いからなのか、俺はどうしたら良いのか分からず、微動だに出来ない──そこへ俺の携帯電話が鳴り響く。


「あ! ヤバっ! 俺、用事があるのを忘れてた!」と、俺は嘘をつきながら立ち上がり、両手を合わせると「佐藤さん、ごめん! 今日は帰るわ!」と言って、部屋出入り口に向かって走った。


「え、ちょっと!」


 佐藤さんの声が聞こえるけど、俺は無視をして玄関に向かい、靴を履くと直ぐに家を出た──。


「危なかった……電話が来なかったら、どうなっていたか……」


 ──俺は後ろを振り返り、佐藤さんが付いてきてない事を確認すると、ズボンから携帯電話を取り出す。電話は切れてしまっていたけど、アリスからだと分かった。


「どうしたんだろ?」


 俺は歩きながら、電話をかける──。


「はい」

「あ、ごめん。さっきは電話に出られなくて、何の用だったの?」

「……」


 俺がそう聞くと、アリスは黙り込む。何か言いにくい事なのだろうか? だったら話しやすいタイミングがあるだろうし、黙って様子を見るか。──そう思って様子を見ていると、スゥー……っと、深呼吸が聞こえてくる。


「──本音とはいえ……さっきはごめんなさい」


 驚いた……いつもスンっとした態度のアリスが、俺に謝ってくるなんて……。


「──いや、だよね。別に良いわ、その気持ちだけ伝えたかっただけだしさ」

「別に嫌なんかじゃないよ。ちょっと、その……驚いて声が出なかっただけ」

「──そう……確かにらしくないね。自分でもそう思う」

「そう言うなよ。素直な気持ちを教えてくれて俺はスゲェー嬉しいよ、ありがとう」

「──別に……じゃあ、用事は済んだから」

「あ、ちょっと待って」

「なに?」

「家に帰ったら試したい事があって、それが成功したら、また電話する」

「分かった」


 アリスは返事をして電話を切る。俺も電話を切ると、はやる気持ちを抑えながら家に向かって駆けだした。


「無事に成功すると良いな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る