第10話
アリスが指定してきた日曜日になる。行きたいと言った場所はなんと、遊園地だった。確かに気になってはいたけど、まさかの遊園地とは……。
遊園地へは電車で向かうため、俺はいま駅の改札口でアリスを待っている──。
「お待たせ」と、到着したアリスは俺の前に立つ。アリスは肩が涼しげな白いワンピースに麦わら帽子を被っていた。
眩しいぐらいに似合っていて、露出がちょっと多いアリスの新鮮な姿に照れ臭くなって目を逸らしてしまう。
「お、おう……」
「ソワソワして、何? 待たせた事が気に食わないの? でも少し早いぐらいよ?」
「いや、そんなんじゃないって」
「あ、そう。じゃあ行こ」
「うん」
──俺達は電車に乗ると、横に長い席に並んで座る。時間が早い事もあって電車の中は割と空いていて、ゆったりと座ることが出来た。
電車が発車して動き出したが、俺達は無言で乗っていた。ここ最近、一緒に帰っているから慣れてきたとはいえ、まだ何を話して良いのか困ってしまう時がある。
「──あのさ。アリス……じゃなかった。葵さんは何で一人旅をしていたんだ? 俺は親がいると、甘えてしまうからダメだと思って一人旅をしてたんだけどさ」
俺がそう言うと、アリスは何故か困ったように眉を顰める。
「──せっかちの人ね。ちゃんと話すから今は遊園地に行くことを楽しまない?」
「あ、ごめん……じゃあさ、今日は何に乗る?」
「何に乗る? そんなの全部に決まってるでしょ?」
「え? 全部?」
「そう、全部よ」
「あはははは……」
体力には自信があるけど、こりゃ疲れそうだ──1時間、電車に乗り、バスで30分掛けて目的地へと向かう。
遊園地に着くと、アリスは真っ先に「わぁ~……すご~い……」と、目を輝かせて辺りを見渡す。
その姿はまるで子供の様でクスッと笑ってしまったが、俺も何から乗ろうかな……と、ワクワクしているから似たようなものか。
「さあ、どうする? 正面の巨大観覧車から行く?」
「いいえ。観覧車は暗くなってからが綺麗だって言うから、空いている乗り物から攻める」
「分かった」
──こうして俺達は空いている乗り物を乗っていき、途中、パレードを見て休憩しながら遊園地を満喫する。その時間が楽しくて、気付いた頃には辺りはもう薄暗くなっていた。
「そろそろ観覧車に行く」と俺が聞くとアリスは頷き「えぇ、そうしましょう」と返事をする。
──観覧車の乗り場に着くと、考えている事は、みんな同じの様で30分ほど待たされそうなぐらい人が居た。
「どうする?」
「待つわ。せっかくここまで来たんだもの」
「分かった」
俺達は最後尾に並んで待つことにした──しっかし……こうやってみると、カップルばかりじゃないか……もしかして俺達もそう思われてるのかな? いや、まさかなぁ……兄妹だっているだろうし……そんな事を考えていると、アリスが横から俺の腕をツンツンと突いてくる。
「どうした?」
「──せっかくだから、少しあの事について話をしましょ」
「あ、うん」
「私が一人旅をしていた理由はね。お父様があなた達を信じて大丈夫だって言い出したから。何の根拠も無いのにそんなこと言われて、私はお父様でさえ信用できなくなって、一人で旅をする事を決めたのよ」
アリスが周りを気にしながら話しているから、分かった様で分からない。
「続きは観覧車の中で話すわ」
「分かった」
──思いのほか、順番が来るのが早くて俺達は観覧車の中に入る。向かい合うように座ると、アリスは真っ先に口を開いた。
「あなたは何故、私のお父様が勇者と呼ばれているか知ってる?」
「聖なる肉体を持って、とある戦いを終わらせたからでしょ? その戦いが何なのかは分からないけど」
「そう。その戦いとは……火種の一族と魔法石を狙う者達の醜い戦争。私があなたを殺してまで魔法石を奪いたかった理由はそこにあるの」
「なんだって……」
「聖なる肉体を持った勇者は、その戦いで争いをしている者達を魔法石もろとも全て消し去った……後にその行動は勇気ある行動だと称えられ、私達の一族は勇者と呼ばれるようになったけど……」
アリスは突然、そこで口を閉ざし、外を見つめる──。
「──外……綺麗だね」
「そうだね」
「──ごめん、話の続きをするね」
「辛かったら良いんだよ」
アリスは首を横に振り「うぅん、大丈夫」
「そう……」
「勇者と呼ばれるようになったけど……魔法石が偽物だったこともあり、私達の事を恨む奴らはどこかしらに居て、それで──その先は何となく予想がつくでしょ?」
「──うん……」
「だから、そんな事が起きたのに、気楽にあなた達を信じるって御父様は言うから、許せなかったの」
「──そうだったんだ……」
掛ける言葉が見つからなくて、俺はそう返事をしただけで黙り込む。アリスもそれ以上は語らず、外の風景を眺めていた。
「──ごめん。せっかくの楽しい雰囲気を台無しにして……」
「いや、俺が君に教えて欲しいと頼んだことだ。むしろ嫌な気持ちにさせて、ごめん」
「うぅん、大丈夫。この観覧車を降りたら帰ろうか?」
「そうだね、十分に遊んだもんね」
──俺達はそれから元の世界の話はまったくせず遊園地を出ると、バスに乗って駅へと向かった。帰りの電車に乗ると、ほぼ席はいっぱいで、二人掛けの席だけが1つ空いているだけだった。俺達は躊躇いもせず、そこに座る。
結構、狭い席だな……まぁ、仕方ないよな。腕と腕が触れ合っていて、ちょっと恥ずかしいけど、疲れているから立つ気分になれず、そのまま黙って座る。
──電車が発車する案内があり、電車がゆっくり動き出す。目的の駅は最後だから、このまま座っていれば良いだけだ。そう思うと安心して、何だか眠たくなってくる。
アリスはどうなのか気になり、チラッと隣に居るアリスに目を向ける……アリスは正面を見据えて、全然、余裕の様だった。
何で大丈夫なんだよぉ……俺と同じぐらいに起きて、沢山動いただろぉ……俺は一生懸命、寝ない様に色々考えて頭をスッキリさせようとしたが無駄だった。自分でも船を漕ぎだしたのが分かる。
──あぁ……隣から石鹸の良い香りがする……これはダメだ。アリスの方に顔が近づいている。何とかせねば……何とか……。
「──寝ちゃったの?」と、母様のように優しい声が微かに聞こえてくるけど、反応が出来ない。
「あなたは今まで私が一人でいるのを見兼ねて、可哀想だったから付き合ってくれていたんでしょ?」
違う、そうじゃない……最初は確かにそういう所もあったけど、最近はそんな風に思っていない。むしろ……。
「ありがとね。今日は特別に怒らないであげるから、ゆっくり休んでね……ホープ君」
怒られないなら、このままで良いか……俺はアリスの温もりを頬に感じながら眠りに落ちていった……。
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