第9話

 それから俺達は毎日のように一緒に帰り、アリスから火種の一族の話を教わった。時々、雑談もするようになって、教わるのに時間が掛かったけど、それはそれで楽しかった。


 最初に出会った頃に比べて、アリスは大分、穏やかになりスンッとした態度がちょっと少なくなった気がする。今なら何で俺から魔法石を奪おうとするのか聞ける気がする。


 そう思った俺は、隣を歩くアリスの方に顔を向け「ねぇ、葵さん」と声を掛けた。


「なに?」

「何で葵さんは俺を殺そうとしてでも魔法石を奪おうとしていたの?」


 俺がそう聞くとアリスは浮かない表情を浮かべて黙り込む。


「──あのさ、せっかくこの世界に来たから行きたい場所があるんだけど、付いてきてくれない? そこで全てを話すからさ」

「あ、あぁ……分かった。場所と日時は?」

「あとで連絡する。携帯の電話番号を交換しましょう」

「分かった」


 ──こうして俺はアリスと連絡先を交換して家へと帰る。家に帰ると直ぐに自分の部屋に向かい、リュックを床に下ろした。


「アリスの行きたい所って何処だろ……」


 気にはなるけど、まぁ後でわかるんだ。それより教わった事の整理をしてみよう。俺はそう思い、学習机の方へと向かい、椅子に座った。


 まず何故、魔法石が誕生したのか。それは魔法を創造できる程の巨大な魔力を秘めたアレックが、魔物から危険視され、呪いをかけられてしまった所から始まる。


 呪いにより魔法を封じられ、次第に動けなくなるアレック……それを嘆き悲しんだ恋人である錬金術師のヴィオラは、呪いを解く研究を始めた。その研究こそが、賢者の石の生成だ。


 長きに渡り研究を続けたヴィオラだったが……さきにアレックの方が喋るのがやっとな状態になってしまった。ヴィオラは作りかけの賢者の石を持ち、アレックに握らせる。そしてこう気持ちを伝えた。


「ごめんなさいアレック……私は賢者の石を完成させることが出来なかった! あぁ……愛しのアレック。私の命を捧げる事が出来るなら、あなたに捧げたい」と。


 それに対してアレックは「そんなことを言わないでくれヴィオラ……君と過ごした日々はとても幸せだった。どうか俺の代わりに一日でも永く生きてくれ」と答える。


 互いに愛し合う気持ちが伝わり、未完成の賢者の石が光りだす。そう……これが魔法石誕生の始まりとなったのだ。


 それから魔力不足でアレックに魔法を教わった魔法を唱えられなかったヴィオラだったが、魔法石の魔力を使うことでアレックの呪いを解き、助けることが出来た。その魔法が母様に使ったアビエント・ルミナスになる。


 そこまではハッピーエンドだ。でもそれから数十年後、魔法石の存在を魔族や権威ある人間に知られ、魔法石が戦争の原因へとなってしまう。


 それに抗うため、アレックは様々な魔法を生み出す。その一つが、ファシナンテが使っていた呪いの炎や俺が使っているテレポーテーションの魔法だ。


 それでも抗う事が難しいと判断したアレックと、魔力を物に留める魔法を得意したヴィオラは自分達の子供達しか開ける事の出来ない魔法で資料や研究所を隠すことにした。それがあの岩の扉。その岩の扉を開ける事の出来る俺はつまり、二人の血を受け継いでいるんだ。


 俺は椅子の背もたれに背中を預け天井を見据える。



「──はぁ……魔法を創造できるアレックに、魔法石を創ってしまったヴィオラ……その二人でさえ抗う事は難しいと考えたのに、俺だけで魔法石を守るなんて本当に出来るのか……?」


 俺が弱気になっていると、携帯電話が鳴る。電話の相手は──アリスだった。

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