第8話

 球技大会が終わって数日が過ぎる──その数日間、葵さんの周りには運動部に勧誘してくる人が集まっていたけど、いまは一人もいなくなっていた。


 その断り方がマズかったのか、日頃のスンとした態度がいけないのか、転校初日に集まって来た女子達は、葵さんを相手にする事は無くなり、他の女子生徒も集まって来なくなった。いま葵さんは、一人で学校生活を過ごしている状況だ。


 だから何だ……そう思う自分がいる反面、可哀想だと思う自分も居る。俺はこの世界にテレポーテーションしてきても、友達が周りに居る。だけど葵さんは転校生として始まり、周りには誰も居ない。


 いきなり知らない世界に来て、不安を感じないわけがない。実際に俺は戻れる手段が見つからなくて不安に駆られる時がある。その時に気持ちを紛らわせてくれるのが友達との交流だ。


 ──教室にチャイムが鳴り響き、クラスメイト達が帰る準備を始める。葵さんも淡々と帰る準備を進め──1人で教室を出て行った。俺は迷ったけど……あとを追いかける事にした。



 ──校門を出たところで追いついたけど、人一人分ぐらいの距離を取り、黙って後ろを歩く。


「──さっきから付いてくるけど、なに?」

「え、なにって……帰る方向が同じだけだよ」

「あ、そう」


 そこで会話が途切れ、また無言が続く──少しでも話し相手になれればって思って来たのに、これじゃストーカーしているみたいじゃないか。


 一番アリスに聞きたいのは、何で殺しまで魔法石を奪いたいのか……だけど、きっと今の状況じゃ答えてくれないだろう。だったら何を話す? この世界の世間話をしたって、会話にはならないだろうし……そうだ、思い切って──。


 俺は周りに人が居ない事を確認すると「アリスはさ、火種の一族って知ってる?」と、聞いてみた。だけどアリスは黙ったまま振り向きもせずに歩き続ける。


「──知らない訳ないでしょ」


 思いがけずアリスが返事をしてくれたから、俺は興奮してアリスに駆け寄り、横に並ぶ。


「知ってるんだ!? だったら少しでも良いから教えてくれよ! あっちの世界で1年間も探したんだけど、手掛かりがなくて困ってたんだ」


 アリスは無言で歩き続けていたが──急に黙って立ち止まると、俺の方に体を向ける。俺も合わせて立ち止まり、アリスの方に体を向けた。


「もし私が知っている事を話したら、あなたは私を元の世界に戻してくれる?」

「あ……あぁ! その方法が見つかったら、必ず!」


 アリスは考え事を始めた様で、指を唇に当てる──考え事が終わったのか、唇から指を離すと「分かった。嘘だったら承知しないからね」


「おう!」

「じゃあ、明日から一緒に帰るようにしましょう」

「お、おぅ」


 思わぬ誘いに戸惑いながらも、俺はそう返事をする。一緒に帰りましょうか……俺は火種の一族の事を聞くのが楽しみなのか、それとも一緒に帰ることが楽しみなのか、良く分からないが、ドキドキと胸を高鳴らせていた。


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