第7話
更に球技大会が進み、俺達の試合になる──ツーアウト5回裏、一塁にランナーがいて俺達の攻撃。得点は3対4で俺達が負けている。打者は俺……最悪なパターンだ。
周りのクラスメイトの表情から俺に期待していないのが伝わってきて、応援の声すら聞こえてこなかった。
バッターボックスに向かっている途中で、クラスメイト達と大分離れた場所でこちらを見ている葵さんが目に入る。あいつ……俺がしくじる所を見に来たのか? そうだとしたら、このまま終わるのは何だか悔しいな。
俺はバッターボックスに入ると、ジッと投手を見つめる──投手がボールを投げてくるが……魔物に比べれば止まって見える。これはボールだ。
「ボール!」
球審をしてくれている野球部の子の判定もボール。よし、間違えてない──続いて投手がボールを投げてくる。これは失敗したのかほぼど真ん中ストレート!
俺は好機を逃すことなく、バットをギュッと握ると──打ち返す!! ボールはセンターの深い所へと飛んでいき、ホームラン判定のラインを越えていった。
俺は一塁に向かってゆっくり走りながら、ドヤッ! と、葵さんにガッツポーズを見せた。すると葵さんは冷静な顔で、ばぁ……かと、口パクをして微笑む。
ばぁか? 冷静になってクラスメイトの反応を見てみると、クラスメイトはポカーンっと口を開け、俺を見ていた。あぁ……アリスと同じことをやってしまった!
俺は素晴らしい活躍を見せたのに、気まずい雰囲気に耐え切れず、クラスメイトから視線を逸らすように俯きながら、ホームベースへと向かった。
──ホームベースを踏むと「武! 凄いじゃないか!!」と、真っ先に駆け寄ってくれたのは小林君だった。そして次々にクラスメイト達が集まってくる。
「いや……まぐれだよ」
「まぐれであんなに飛ぶか!? 実は凄いパワーを秘めていたんだな。何で隠してたんだ?」
「えっと……知っての通り断るのが苦手な性格だから、運動部に誘われたくなくて……」
俺がそう嘘をつくと、小林君は納得してくれた様で俺の背中をバンバンと叩きながら「なんだ、そういう事か! 運動できる奴でも帰宅部なんていくらでもいるんだから、気にしなくても良いのに」
「えぇ……出来ないよ」
──そんな会話を小林君としていると、遠慮深げ右腕の袖をクイクイと引っ張られ、そちらに視線を向ける。
袖を引っ張ったのは、いつも教室の片隅で大人しく本を読んでいるクラスメイトの佐藤 《さとう》さんだった。
沙耶さんは照れ臭そうに黒いセミロングの髪を触りながら「武君、凄い活躍だったね」
「あ、ありがとう」
「次も応援してるから、頑張ってね」
「うん」
沙耶さんはそれだけ言うと、そそくさと校舎の方へ駆けていった。それを見ていた小林君は俺の腕で肘でツンツンと突く。
「おい、男子と話している所を見た事ない佐藤さんが話しかけてくるなんて、もしかしてお前にもついに恋の予感が……」
「まさかぁ、そんな訳ないだろ」
「分かんねぇよ? 恋なんていつ発展するか何て誰にも分からないんだから。もし興味があるなら早めに行動しとけよ。佐藤さん、可愛い顔をしてるから結構、男子に人気だぞ」
「へぇ……そうなんだ」
──続いて第三試合が始まる。俺はさっきのことがあったので、もう目立たない様に過ごした。その甲斐あって? 俺達はここで負けてしまう。女子は……同じく葵さんの活躍は無く、敗退した。
もしかしたら、あの葵さんの活躍は、手を抜く加減が分からなかっただけで悪気は全く無かったのかもしれない──だとしたら、あの時の挑発は、難しいからやってみろって言いたかったのかな? 葵さんとはそんなに関わっていないから性格は分からないけど、何となく有り得そうだ。
──にしても、あの時の悪戯っぽく微笑む葵さん……可愛かった。普段からあんな笑顔を見せれば良いのに……って、俺は何を考えているやら!
とにかく今日は色々あって疲れた! クラスメイトの試合が終わったら帰って良いって担任が言ってたし、サッサと帰ろう!
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