第6話

 それから数日が過ぎ、今日は球技大会なるものらしい。種目は男女ともにソフトボールをやるとのことで、俺は学校に着くと、ワイシャツを脱ぎ、黒色の半袖姿になる。


 灰色のズボンから赤色のジャージに着替えていると、後ろから「お、武。今日は珍しく出て来たのか」と、小林君に声を掛けられた。


 武は昔から運動が大の苦手らしく、いつもは球技大会を欠席している。だけど今、武は俺だ。休む必要はない。


「うん、たまには出ておかないとって思って」

「そうか。俺と同じチームだから頑張ろうぜ!」

「うん!」


 グラウンドに出ると、同級生たちが準備運動やキャッチボールをしていて、いつもと違う緊張感が漂ってきた。へぇ……この世界でも、こういう雰囲気になるんだな。


 ──球技大会が順調に始まり、俺達のチームは下手くそを演じている俺が居たとしても二回戦へと勝ち進んでいた。


 葵さんがいる女子チームは……こちらも順調に勝ち進み、いま二回戦を行っている。いま守りの方で葵さんはセンターを任されていた。


 時間の関係上、試合は5回戦まで。2対1で5回裏、うちのクラスが勝っているけど、ワンアウト一塁、三塁にランナーがいる……武の情報によると打者はソフトボール部の次期キャプテン候補、つまりピンチという事だ。


 投手の女子が顔を歪めるぐらい精一杯の玉を投げる──が、簡単に打ち返されてしまう。ボールはセンターの深い所へと飛んでいく。


 葵さんはセンターの浅い所にいて、まず普通の女子高生なら間に合わない位置にいる。──だけど! 葵さんは普通の高校生ではない。涼しい顔をして、陸上選手並み……いやそれ以上の速さで後ろへと下がり、ボールをジャンピングキャッチする。


 もちろんキャッチされると思っていなかった一塁ランナーは、センターを見ることなく夢中で二塁へと向かっていたけど……こちらも涼しい顔で葵さんがプロ野球選手並みの剛速球を見せるもんだから──引き返す余裕も与えて貰えずタッチアウト!


 ここで歓声が上がりそうなぐらい素晴らしいプレーだったけど……皆は驚きのあまり声も出せない様子で静まり返っていた。


「何あれ……ヤバっ……」と、ヒソヒソ噂される中、葵さんはクラスメイト達とは逆の方へと歩いていく。俺はそんな葵さんが気になって駆け足で追いかけた。


 ──葵さんに追いつき、人一人分ぐらいの距離をあけながら俺はゆっくり歩き出し「なぁ、葵さん」と、他に誰も居ない廊下で声を掛ける。


「なに? 魔法石を渡す気になった?」


 葵さんは止まることなく俺に背を向けながら返事をする。


「いや、そうじゃなくて……お前だって葵さんの記憶があるんだろ? さっきのやり過ぎだってぐらい分かるだろ」


 葵さんはピタッと足を止めると、こちらへ振り向く。ちょっと強張った表情を浮かべ「えぇ、もちろん分かっているし、手を抜いたつもりよ? ──なに? 自分が活躍できないからって私にヤキモチを焼いて、わざわざそれを言いに来たの?」


「──そんなんじゃねぇよ!」


 カッとなった俺はもう何も話したくなくて、それだけ言って葵さんから離れる様に歩き出す。まったく……忠告してやろうと思ったのに、相変わらず可愛げが無い奴だ。


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