第5話

 チャイムが鳴り響き、授業が終わる。静かだった教室が次第にガヤガヤ……と、騒がしくなり、見た目が派手な女子達が葵さんの周りに集まって来た──会話の内容から、友達になろうとしている様だ。


「おぅ、武。今日は珍しくギリギリだったじゃないか」と、話しながら俺の正面に立ったのは小学校からの男友達の小林君だった。


「ちょっと考え事をして歩いていたら遅くなっちゃった」

「考え事? 何か悩んでいるのか?」

「えっと……」


 この世界の人は魔法が使えない事は、武の記憶で分かっている。分かってはいるけど……この世界の人から実際に聞いてみたい。大丈夫、小林は武にとって大の親友、ちょっと変な事を言ったって、笑ってくれるだろう。


「いや……本当に魔法って存在しないのかな? って思って……」


 俺がそう口にすると、小林君は眉を顰め明らかに困った表情を浮かべる。それだけで返事が何となく分かった。


「お前な……昔からお前がそういうのに興味あるのは知っているけど、俺達はもう高校二年生だぜ? 家でならいくらでも妄想しても構わないけど、学校でそう言うこと言うのは、やめとけよ!」

「はははは……だよね。ごめんごめん」


 そこから俺は話を切り替え、世間話を始める──俺達の世界の人なら例え魔法使いじゃなくても、魔法の存在は知っているし、俺達の体内に魔素が存在することも知っている。本当にこの世界には魔法が存在しないんだ。


 ※※※


 ──更に学校生活が進み、昼休みに入る。俺は小林君と一緒に御弁当を食べていたがジュースが欲しくなり廊下に出た。


 廊下には葵さん以外に誰もおらず、葵さんは俺の正面から歩いて来ていた。朝の事があったから、俺は目を合わせないように窓の方に視線を向けながら足を進める。


 すれ違うところで「あなた」と、葵さんの声が聞こえ、俺は足を止めると、葵さんの方へと体を向けた。


「あなたが入っているこの世界の人の記憶があるんでしょ? それなのに魔法って存在しないのかな? って聞くなんて馬鹿ね」

「お前……まさかアリスなのか!?」


 俺がそう質問すると葵さんは黙って歩き出し「──そんなのイチイチ聞かなくたって、いまの話で分かるでしょ」と、言って振り返りもせずに教室に向かって歩いて行ってしまった。


 俺はいま13歳だけど、この世界では17歳。だからアリスが17歳だって、おかしいとは思わない。それにさっきの発言を考えると、葵さんがアリスなのは間違いないだろう。


 アリスのスンッとした態度に腹が立つが……この世界に連れてきてしまった負い目もあって、無事で居てくれて良かったと本気で思う。どんな事情があるにしろ二人で帰るつもりだったから、とりあえず探さなくて済むことは喜ぶべき事だよな!


 俺はそう思いながら、また自動販売機のある場所に向かって歩みを進めた。

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