第3話

 アリスに襲われてから一年の月日が流れる。俺は魔法石を守るためには、もっと強くならなければと思い、魔物退治の依頼を受けたり、精霊と契約しながら旅を続けていた。


 火種の一族については、完全に行き詰っていて、何の情報も得られていない。焦る必要はないが、そろそろ前に進みたい気がする。錬金術師の研究所と思われる場所以外に、どこか繋がる場所はないだろうか?


 そう思いながら甲板から海を眺めていると、もう一つの疑問が浮かんでくる──そういや、アリスは何で殺してでも魔法石を奪いたかったんだ?


 危ないものだと分かってはいるけど、尋常ではない行動だ……ルーカスさんとアリスは別行動している様だったし、もし会ったら聞いてみたいな。


「──よし、決めた! 先にルーカスさんを探してみよう! そうと決まれば……」


 俺は船内を歩き回り、旅人や船員にルーカスさんを見掛けたことがないか聞いて回った。その結果……最近、テーレの町で見かけたという情報が手に入った。丁度いい、降りた港で乗り継げば、行ける場所だ。


 ※※※


 俺は目的地のある島に着くと、草原を歩いて町へと向かう──すると、微かに後ろから感じた事のある魔力を感じ、すぐさま振り返った。


「あら。結構、勘が鋭いのね」

「アリス、お前……魔力を抑える事も出来るのか?」

「えぇ、魔力透視の応用で出来るようになったの。さて、そんな事より言いたい事はもう分かるわよね?」


 アリスはそう言って、右手を俺の方へと突き出す。大丈夫……二属性魔法が来ても、この時の為に色々な場所に目印になるものは置いて来た。切り札が分かっていても、対応の仕方は分かっていないはずだ。


 そう思った瞬間、空からゾワッと鳥肌が立つ程の巨大で邪悪な魔力を感じる。アリスも気付いた様で、俺達はすかさず走ってそいつとの距離を取った。


「ほぅ……大きな魔力を感じると思ったら、まだガキではないか」


 降り立った邪悪な魔力の持ち主はまず、そう口にする。人を見下すような鋭く冷たい目つきに、真っ白な長髪、血が通っていない様に真っ白な肌……。


 赤いマントが付いた漆黒の鎧に身を包み、細くて長い黒刀を装備しているが、黒刀を持っている右腕は別の手を縫い付けた様に不自然だ。こいつの容姿は父様から聞いたことがある。


「お前はまさか……デストルクシオンか……!?」

「ほぅ……我の名前を知っているのか」

「あぁ……どういう事だ? お前は父様が消し去ったはず」


 俺がそう口にすると、デストルクシオンはあの日の事を思い出すかのようにスッと目を閉じる。


「なるほど……おぬし等、勇者たちのガキか。簡単な事よ……我はあの時、消されずに生きていたって事だ」


 そんな……どうやって? あの時、デストルクシオンが居なくなったことはルーカスさんが見届けていたと父様から聞いている。


 魔力感知が使えるルーカスさんがデストルクシオンの存在を見逃すはずがない……だとしたら──。


「ファシナンテ……ファシナンテの仕業か……?」


 俺は母様がファシナンテに襲われた日を思い出し、そう口にする。するとデストルクシオンはニヤッと微笑み、目を開いた。


「そうだ。ファシナンテにより、我は片手を失うだけで済んだのだ。おぬし、魔法使いの方のガキか?」


 デストルクシオンは右手を俺に突き出し、人差し指を立てると挑発するかのようにクイクイと前後に動かした。


「面白い……どれ、我が少し遊んでやろう」

「馬鹿にしないでッ! ──フリーズ・ドラゴンッ!!」


 俺達が話をしている間に詠唱を済ませたアリスが、行き成りハイドロ・ドラゴンを氷の魔法で強化した三属性魔法をデストルクシオンに向けて放つ。


 デストルクシオンは「ふん……お前は魔力だけの様だな」と、余裕の笑みを浮かべ、刀に魔力を移し始めた。


「風よ。我が闇の魔力と混ざり全てを切り裂き、弱きものを絶滅させる刃へと変われ……エクスティンクション・ブレード」


 デストルクシオンがアリスに向かって刀を振り払うと、デストルクシオンの闇の魔法により紫黒色しこくしょくになった刃の形をした風魔法が放たれる。


 多分あれは二属性……それだけで三属性を抑え込めるのか!? 様子を見ながらアリスに駆け寄っていると、アリスの魔法とデストルクシオンの魔法がぶつかる!


 結果は……圧倒的にエクスティンクション・ブレードの方が強く、あっという間にフリーズ・ドラゴンを真っ二つにしていく。


 アリスは驚いているのか、それとも三属性の反動で動けなくなってしまったのか分からないが、微動だにしなかった。間に合えッ!!! 


 ──俺は念のため魔法の鞄から魔法石を取り出し左手で握り、間一髪のところでアリスの手を取ると、「テレポーテーション!!」


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