第8話 火竜の襲撃

リアンとアリスは警備署の牢に閉じ込められたまま、緊張した夜を過ごしていた。薄暗い牢の中で、二人は何とかこの状況から抜け出す方法を考え始めた。


「お兄ちゃん、どうしよう…このままじゃ逃げられない」


アリスは不安そうにリアンに言った。


「大丈夫、アリス。必ず抜け出す方法があるはずだ」


リアンはアリスを安心させるように微笑んだ。


「でも、どうやって?」


アリスは涙を浮かべながら尋ねた。


「まずはこの牢の鍵を手に入れなきゃならない。それと、警備の隙を見つける必要がある」


リアンは冷静に状況を分析しながら答えた。


「でも、どうやって鍵を手に入れるの?」


アリスは戸惑いの表情を浮かべた。


「鍵を持っている警備兵が必ず近くにいるはずだ。僕が囮になって注意を引くから、その間に君が鍵を取るんだ」


リアンは計画を立てた。


「わかった、やってみる」


アリスは決意を込めて頷いた。


リアンは牢の鉄格子を叩き、声を張り上げた。


「おい!誰かいるか?話がある!」


警備兵が近づいてきて、無表情でリアンを見下ろした。


「何だ?騒ぐな」


警備兵は冷たく言った。


「俺たちが火竜を引き寄せたっていう証拠はあるのか?話をさせてくれ」


リアンは強い口調で訴えた。


その隙にアリスは静かに牢の隅に身を隠し、警備兵の腰にぶら下がる鍵を狙った。


「証拠はこれから調べる。それまでおとなしくしていろ」


警備兵はリアンの話を聞く気はなさそうだった。


「お前らのせいでこんな目に遭ってるんだ!納得がいかない!」


リアンはさらに声を荒げた。


警備兵がリアンに気を取られている間に、アリスはそっと手を伸ばし、鍵を手に取ることに成功した。


「ありがとう、でもそれじゃ話にならない」


リアンは話を切り上げ、警備兵が去るのを見届けた。


「お兄ちゃん、鍵を取ったよ」


アリスは小声で鍵をリアンに渡した。


「よし、これで脱出できる」


リアンは鍵を使って牢の錠を開けた。


静かに牢の扉を開け、二人は周囲の警備に気を配りながら外に出た。


「急いで外に出よう」


リアンはアリスの手を引いて廊下を進んだ。


だがその時、外から突然大きな咆哮が響き渡った。


「何だ、今の音は?」


リアンは驚き、足を止めた。


「お兄ちゃん、あれを見て!」


アリスは外の窓を指差した。


窓の外には無数の火竜が空を飛び交い、王都を襲撃していた。巨大な火竜の群れが街に火を放ち、人々が逃げ惑っていた。


「どうしようもない数だ…」


リアンは絶望的な表情を浮かべた。


「お兄ちゃん、早く逃げなきゃ!」


アリスはリアンの手を強く握りしめた。


「そうだ、ここに留まっていたら危険だ。早く外に出よう」


リアンは決意を固め、アリスと共に警備署の出口に向かった。


外に出ると、街は混乱の極みに達していた。建物は次々と炎に包まれ、人々は必死に避難していた。


「こっちだ、アリス!この路地を抜けよう!」


リアンはアリスを引っ張りながら、人混みを避けるように走った。


「怖いよ、お兄ちゃん…」


アリスは泣きそうになりながら言った。


「大丈夫、僕たちなら乗り越えられる。信じて」


リアンはアリスを安心させるように言った。


二人は火竜の襲撃を避けながら、狭い路地を駆け抜けた。炎の中を走り抜け、何とか安全な場所にたどり着こうと必死だった。


「お兄ちゃん、あっちに避難所があるみたい!」


アリスは遠くに見える集団を指差した。


「よし、そこに行こう」


リアンはアリスと共に避難所に向かって走り出した。


避難所には多くの人々が集まり、恐怖と混乱の中で助けを求めていた。避難所のスタッフが懸命に対応していたが、火竜の襲撃は止む気配がなかった。


「ここなら安全かもしれない」


リアンは避難所の入り口で息を整えた。


「お兄ちゃん、みんな大丈夫かな…」


アリスは心配そうに周りを見渡した。


「今は自分たちの安全を確保することが大事だ。落ち着いて」


リアンはアリスを抱きしめ、安心させた。


その時、避難所のスタッフがリアンとアリスに声をかけた。


「君たちも避難してきたのか?今はここにいるしかない」


スタッフは疲れ切った表情で言った。


「はい、火竜の襲撃が収まるまでここにいます」


リアンは頷いた。


避難所の中で、二人はしばらくの間、緊張と不安に包まれていた。しかし、外の状況は一向に改善せず、火竜の咆哮と炎の音が響き続けた。


「お兄ちゃん、このままだと街が…」


アリスは恐る恐る言った。


「そうだな。このままでは王都が壊滅してしまう」


リアンは深く考え込んだ。


「何かできることはないのかな…」


アリスはリアンの腕を握りしめた。


「僕たちだけでどうにかするのは難しい。でも、誰か助けを求めている人がいるかもしれない」


リアンは決意を固めた表情で言った。


「じゃあ、私たちも何か手伝おう!」


アリスは勇気を出して答えた。


リアンとアリスは避難所を後にし、街の中心部に向かった。彼らは助けを求める人々を見つけ、救助活動に参加することにした。


「こっちだ!ここに怪我人がいる!」


リアンは叫びながら、人々を誘導した。


「大丈夫ですか?手を貸します!」


アリスは怪我人に声をかけ、応急処置を手伝った。


二人は必死に働き、少しでも多くの人々を助けようとした。しかし、火竜の襲撃は続き、状況はますます悪化していった。


「これじゃキリがない…」


リアンは汗をぬぐいながら言った。


「でも、諦めないで。まだ助けられる人がいるはず」


アリスは決意を込めて答えた。


その時、大きな咆哮が響き渡り、一際巨大な火竜が姿を現した。


「なんて大きさだ…」


リアンは驚きの声を上げた。


「お兄ちゃん、あれをどうにかしないと…」


アリスは恐怖に震えながら言った。


「そうだな。でも、どうやって?」


リアンは考え込んだ。


巨大な火竜は街の中心部に降り立ち、周囲を焼き尽くしていった。人々はパニックに陥り、逃げ惑った。


「お兄ちゃん、早く!」


アリスはリアンを引っ張りながら叫んだ。


「待って、何か方法があるはずだ」


リアンは冷静に周囲を見渡し、何か手がかりを探した。


その時、一人の老人がリアンに声をかけた。


「若者よ、あの火竜を倒すには特別な方法がある」


老人は深い声で言った。


「特別な方法?」


リアンは老人に近づいた。


「火竜の弱点は、その胸にある青い結晶だ。そこを攻撃すれば倒せる」


老人は説明した。


「でも、どうやって近づけば…」


リアンは困惑した。


「魔法の矢を使うんだ。この矢は火竜の結晶を貫く力を持っている」


老人は一振りの矢をリアンに渡した。


「ありがとう、これで何とかなるかもしれない」


リアンは感謝の言葉を述べた。


「気をつけて、若者よ。運命は君たちの手にかかっている」


老人は微笑んでリアンを見送った。


リアンは矢を握りしめ、アリスと共に火竜に向かって走り出した。


「お兄ちゃん、これで本当に倒せるの?」


アリスは心配そうに尋ねた。


「信じよう、あの老人の言葉を」


リアンは力強く答えた。


二人は火竜の近くまでたどり着き、リアンは弓を構えた。


「アリス、僕が矢を放つ間、君は魔法で火竜の注意を引いて」


リアンは指示を出した。


「わかった、やってみる!」


アリスは勇気を振り絞り、火竜に向かって魔法の光を放った。


火竜はアリスの魔法に気を取られ、リアンに背中を向けた。


「今だ!」


リアンは弓を引き、矢を放った。


矢はまっすぐに飛び、火竜の胸にある青い結晶に突き刺さった。


「やったか…?」


リアンは息を飲んで見守った。


火竜は一瞬驚いたように体を震わせたが、そのまま倒れ込んだ。


「やった、お兄ちゃん!」


アリスは歓喜の声を上げた。


「でも、まだ終わりじゃない。街の火を消さなきゃ」


リアンは冷静に言った。


二人は再び人々の救助と火消しに奔走した。火竜の襲撃は少しずつ収まり、街には平和が戻り始めた。


「これで何とか落ち着いたな」


リアンは疲れ切った顔で言った。


「お兄ちゃん、本当にすごいよ」


アリスは感謝の言葉を述べた。


「君もよく頑張ったよ、アリス」


リアンは微笑んでアリスを抱きしめた。


その時、再び警備兵たちが現れた。


「お前たち、今度は何をしでかしたんだ?」


警備兵のリーダーが厳しい声で言った。


「火竜を倒して、街を守ったんだ」


リアンは堂々と答えた。


「確かにお前たちが火竜を倒したようだが、それでも罪は消えない」


リーダーは冷酷に言い放った。


「そんな…」


アリスは落胆の表情を浮かべた。


「しかし、お前たちの行動がなければ街は壊滅していただろう」


リーダーは一息ついて続けた。


「王の判断を仰ぐことにする。連行しろ」


警備兵たちは再びリアンとアリスを拘束し、王宮へと連れて行った。


「どうなるんだろう、お兄ちゃん…」


アリスは不安そうにリアンを見つめた。


「分からない。でも、最善を尽くそう」


リアンはアリスを安心させるように頷いた。


二人は王宮に向かい、そこで新たな運命に直面することになる。彼らの冒険はまだ続くのだった。

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