第5話 ミラージュの影

翌朝、リアンとアリスは砂漠の都ミラージュの探索を再開した。


市場や大広場を回った昨日に続き、今日は少し違った場所を訪れることにした。


「お兄ちゃん、今日はどこに行こうか?」


アリスは目を輝かせながら尋ねた。


「今日は少し静かなところを探してみよう。観光客があまり行かない場所もきっと面白いはずだ」


リアンは地図を見ながら答えた。


二人は市場から離れ、少し奥まった通りに足を向けた。


通りを歩いていると、次第に人影が少なくなり、静けさが増していった。


「なんだか雰囲気が違うね」


アリスは少し不安そうに言った。


「確かに。でも大丈夫だ、僕たちならどこでも乗り越えられる」


リアンはアリスの手を握り、安心させるように微笑んだ。


しばらく歩いていると、ふと通りの片隅に目をやると、何人かの人々が地面に座り込んでいるのが見えた。


「お兄ちゃん、あれ…」


アリスはその光景に目を奪われた。


「病気の人たちかもしれない。様子を見に行こう」


リアンは慎重にその人たちに近づいた。


彼らは痩せ細り、苦しそうにうめき声を上げていた。


「どうしたのですか?」


リアンは優しく声をかけた。


「…水が…薬が…足りない…」


一人の男性が弱々しく答えた。


「お兄ちゃん、どうしよう…」


アリスはその光景に心を痛めた。


「少し待ってて。近くに薬を売っている店があるかもしれない」


リアンは周囲を見渡したが、この辺りには店らしい店は見当たらなかった。


「お兄ちゃん、もっと奥に行けば何か見つかるかもしれない」


アリスは提案した。


「そうだな。行ってみよう」


リアンはアリスと共にさらに奥へと進んだ。


通りはますます荒れ果て、建物も朽ち果てたように見えた。


「こんなところに人が住んでいるなんて…」


アリスは驚きと悲しみの混じった声で言った。


「砂漠の都にもこんな影があるんだな」


リアンは複雑な表情で答えた。


さらに進むと、ゴミが散乱し、悪臭が漂う路地にたどり着いた。


「ここは…」


リアンは言葉を失った。


路地の奥には、さらに多くの病人やホームレスが身を寄せ合っていた。


「助けて…」


一人の女性がリアンに手を伸ばした。


「お兄ちゃん、何かできることはないの?」


アリスは涙を浮かべながら言った。


「とにかく水と食料を持ってこよう。少しでも助けになれるはずだ」


リアンは決意を固めた。


二人は急いで元の通りに戻り、近くの市場で水と食料を購入した。


「これで少しは役に立てるかな…」


アリスは不安そうに言った。


「きっと喜んでくれるよ」


リアンはアリスを励まし、再びその路地に向かった。


戻ると、病人たちはリアンとアリスが持ってきた水と食料を感謝の言葉と共に受け取った。


「ありがとう…本当にありがとう…」


一人の男性が涙を流しながら言った。


「でも、これだけじゃ足りない…」


リアンは悔しそうに呟いた。


「もっと多くの人を助ける方法を見つけなきゃ」


アリスは強い決意を込めて言った。


その時、不意に路地の奥から叫び声が聞こえた。


「泥棒だ!捕まえろ!」


叫び声の方を見ると、一人の少年が盗みを働いて逃げ出していた。


「待て!」


リアンは少年を追いかけた。


少年は素早く路地を駆け抜け、狭い路地裏へと逃げ込んだ。


「アリス、ついてきて!」


リアンは叫びながら少年を追い続けた。


アリスも後を追い、二人は少年を見失わないように懸命に走った。


狭い路地裏を抜けると、突然開けた場所に出た。


そこには、砂漠の都の影の部分が広がっていた。


「ここは…」


リアンは息を切らしながら辺りを見回した。


貧困と犯罪が蔓延る場所だった。


少年はその一角で息を整えていた。


「おい、お前!」


リアンは少年に声をかけた。


少年は驚いて振り返り、リアンとアリスを見つめた。


「盗んだものを返せ!」


リアンは厳しい口調で言った。


少年はしばらくリアンを見つめた後、仕方なく盗んだものを差し出した。


「ごめんなさい…僕、お腹が空いて…」


少年は涙を流しながら言った。


「そうか…」


リアンはその言葉に心を動かされた。


「アリス、少し食べ物を渡してあげよう」


リアンはアリスに指示した。


「うん、わかった」


アリスは鞄から食べ物を取り出し、少年に手渡した。


「ありがとう…」


少年は感謝の言葉を口にしながら食べ物を受け取った。


「ここは、どうしてこんなに荒れているんだ?」


リアンは少年に尋ねた。


「この都の裏側には、こんな場所がたくさんあるんだ。貧しい人たちが集まってるんだよ」


少年は悲しげに答えた。


「それでも、盗むのは良くないよ」


アリスは優しく言った。


「わかってる…でも、他に方法がなくて…」


少年はうなだれた。


「僕たちが助けられることは少ないかもしれないけど、何かできることを考えよう」


リアンは少年の肩に手を置いて言った。


「ありがとう…君たち、いい人だね」


少年は涙を拭きながら微笑んだ。


リアンとアリスはその後、砂漠の都ミラージュの裏側についてさらに調査を続けた。


人々の苦しみや困難を目の当たりにしながら、彼らは自分たちにできることを模索していた。


「お兄ちゃん、私たちが見たことを、他の人たちにも伝えよう」


アリスは強い決意を込めて言った。


「そうだな。皆がこの現実を知ることで、少しでも助けになれるかもしれない」


リアンはアリスの意見に賛同した。


彼らはミラージュの都を歩きながら、影の部分にも光を当てることの重要性を実感していた。


「まだまだ、僕たちの冒険は続くんだ」


リアンはアリスに微笑んで言った。


「うん、お兄ちゃん。これからも一緒に頑張ろう」


アリスはリアンの手を握りしめた。


二人は再び明るい通りに戻り、心の中に新たな使命を抱きながら、次の冒険へと歩みを進めた。

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