最終話 ばいばいっ!
「クリス!?」
ガラス箱の中でクリスタルが自発的に光っている。
クリスタルが直に光っているのを見るのは初めてだ。
「一体どうした事だ……?」
「歌なしでも光るなんて聞いてないぞ!」
「現在調査中!」
予想していなかった事態に大人達は慌てているが、僕たちはその光を見ながら別の事を考えている。
「クリス、一体何が言いたいんだい……?」
そう呟いた瞬間、クリスの周りにある多数のクリスタルも同様に光りだした。
まるで、クリスの問いかけに答えているみたいに。
クリスタルの眩しさは段々激しくなり、目を開ける事も辛くなってきた。更に熱も発し始めている。
(まるで、太陽が作られていくようだ)
そう思った時、僕の頭の中に”聞こえない声”が響いてきた。
”早くおじいさんを連れて逃げて!”
初めての事に戸惑いながらも、誰がやっているかは明確だった。
これは、クリスの声だ。クリスの意思だ。
「クリス! 君なんだね!」
「ネオ、お前にも聞こえたんだな!」
「私も聞こえたよ! 逃げろって!」
どうやらいまの声は、僕たちと音楽の先生にしか聞こえてないみたいだ。
光と熱はますます強くなる。そしてそれには”ムラ”があるらしく、大臣や悪い大人たちの方に集中している。
これは間違いない。クリスたちは何かをしようとしている。
なら、僕たちがやる事は一つしかない。
「行こう! クリスの言う通りにするんだ!」
光に包まれて目を抑える事しか出来ない兵隊たちの横を通り、先生たちがおじいさんを持ち上げて運び出す。
「クソッ! ガキどもが逃げる! 逃がすな…… ぐああぁっ!」
そう大臣が叫ぶが、それを許さないとばかりに光の塊が大臣の身体を包んでいく。
”意志のある光”が僕たちを守っている。これは間違いなく、クリスたちの力だ。
「皆さん、出ましたね!」
「はいっ!」
音楽の先生は僕たちの返事を確認した後、音楽室の扉を閉める。
その直後、扉の隙間から見える光が更に強くなり、大人たちの悲鳴が大きくなる。
おそらく扉の向こうは大変な事になっているのだろう。
この不思議は光を決して忘れない。いや、忘れてはいけない。
僕たちはそれを見て強くそう思った。
――だって、これはきっと……
…
……
………
* * *
そして、僕たちが学校から脱出した後、状況は更に変わっていく。
そこには、国王様直属の近衛兵がたくさん来ていたからだ。
隊長だろうか。とても強そうな人が先生に確認する。
「先生、子供たちはこれで全員だな?」
「はい。全員無事です!」
「わかった。この老人をすぐに医者の方へ! 半分はここで子供たちを。残りは私に続け!」
そう言って、近衛兵の半数は学校の中に突入していく。
先ほどまで太陽かと思った眩しい学校は、何もなかったかのように元に戻っていた。
少しして、大臣たちが近衛兵に連れられながら学校から出てきた。
さっきの強烈な光で目がやられたらしく、歩くのを怖がっているようだ。
――こうして、大騒動は終わった。
* * *
…
……
………
これはその後の話だ。
いきなり近衛師団がやってきたのは、お父さんたちが国王様に今回の事を全部話したからだ。
国王様はカンカンらしく、大臣や関係者を絶対許さないと言ってたらしい。
これで当分は平和が戻ってきそう。とっても嬉しい。
そして、クリスタル達はあの時を最後に一切光る事はなかった。
僕たちは思った。やはり、あの光と熱は自分の全てを燃やしていたんだ。
あのクリスタル達は、最後の力で僕たちを助けたんだ……!
ガラクタじいさんは悲しそうな顔をしながら僕たちに言った。
「ワシはみんなやクリス、神様たちに悪い事をしてしまった。すまなかった…… ワシの夢はまだ早かったんじゃな……」
「ううん。クリスはおじいさんに感謝していると思うよ」
「……だといいのじゃが」
「……」
「でも、ネオ君たちがいるからきっと大丈夫じゃな。いつか神様たちと仲良くなる世界が来る事を信じているぞ」
「……うんっ! 僕たちの歌で世界を一つにするんだ。約束するよ!」
僕らはまたクリスたちに会える事を、遊べる事を知っている。
それは音楽室を出る時にクリスの声をハッキリ聞いたからだ。
”ありがとう楽しかったよ! また遊ぼうね! ばいばいっ!”
そうだ。だから僕はこれからも大好きな歌を歌っていきたい。
今度会った時、いっぱい楽しい歌を聞かせてあげるんだ。
僕は空を見上げてクリスが好きだったあの歌を歌う。
――そう。今度はもっと平和で、素敵な世界の空の下で
---- 終わり ----
クリスとガラクタじいさんと音楽の街 TEKKON @TEKKON
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