第28話 モグラRTA、決着

 先行後、俺は比較的穴の少ないルートを選択していく。多少遠回りにはなるがタイム的にはこちらの方が安定する。


 ちらっと背後を確認。どうやらムラサメは穴の多い近道ルートを選択したようだ。 確かに極まった・・・・走者であればそちらを選択するのが定石である。『モグラの飛び出すタイミングを各穴ごとにすべて正確に把握』できるのであれば。


「……っ!」


 さもなければ、あの通り"砂吐きモグラ"に阻まれるのがオチだ。むしろ接触しなかっただけ運がよかったな。


 しかも"原作LOA"ならタイミングを計り始める起点がはっきりしている。つまり『画面を切り替えた直後』だ。


 対して"現実化"したこちらでは"画面切り替え"なんて概念ははなから存在しない。タイミングを計るためには各個体を直接観察する必要がある。


 つまり、仮にRTA走者であったとしてもゲーム知識をそのまま活用することなど不可能。ゲーム知識の活用を前提とする"穴の多い近道ルート"を選ぶのは分の悪いバクチ以外の何者でもない。


 そのままリードを保ちつつ、あっという間に折り返し地点である岩をターン。一歩遅れてムラサメも続く。


 敏捷AGIは奴に分があるため、さすがに引き剥がすことはできないか。だがこのままミスをしなければ勝てる。


 おおかたステータス的に有利だからと"モグラRTA"勝負を持ちかけたのだろう。俺が敏捷をそれほど重視していないタンクビルドと見越したうえでの甘い考えだったのだろう。


 残念だったな。このまま勝たせてもらう――


「……おおっと! ごめんよ!」


 穴を飛び越そうとする俺の背後からムラサメの声が飛んでくる。同時になにか・・・を蹴る音も。


 俺の前方へと飛び出す石ころ。そのまま転がり、進路上に開いたモグラ穴へとカップイン。


『KYUIIIッ!』


 石に驚いた"砂吐きモグラ"が穴から飛び出してきた。俺が飛び越そうとする直前

に。完全にリズムから外れたタイミングで。


「おわぁっ!!」


 避けようにも避けきれず、そのままモグラと衝突してしまう。


 まずい。ルール上モグラと接触しても失格にはならないが、大幅な失速は免れな

い。


 しかも"砂吐きモグラ"は俺が石を蹴り入れたと思っているらしい。慌てて引き剥がすも、すでにこちらへ敵意の籠もった目を向けている。言うまでもなく魔物こいつの相手をしながら走るなど大きな枷にしかならない。


「いやあ、運がなかったねえ!」


 足を緩めた俺の横をムラサメはしれっと抜き去っていった。


 ――あんにゃろう、やりやがった。


 負けそうになったからこんな手を……いや、あるいは最初からそのつもりで機会をうかがっていたのかもな。


 "妨害行為"と断定できないところがまた嫌らしい。偶然だと言い張ればそれで済む話だ。実態としては黒でも証拠がなければグレー止まりである。


 ルールにギリギリ抵触しない卑劣ダーティな手段を持ち出してでも勝ちたいのか。そうした戦法を君は使うのか。なるほどなるほど――ありがとう・・・・・


 ……舐めるな馬鹿がっ!! こちとら隠しボスティアに散々揉まれたおかげでそういう嫌らしい手口にゃ慣れてんだよっ!! おかげさまで遠慮なく堂々と奥の手・・・が使えるってもんだっ!!


「くそおっ!! 魔物と戦闘になってしまったかあっ!!」


 俺はわざとらしくムラサメの背中に声をぶつける。同時に飛んできた魔物の〈砂吐き〉を、腕で顔を覆って防ぐ。


「はっはー! 運がなかったな――」


「しかたがないから、ここはスキルを使って切り抜けなきゃあなっ!! ――〈かばう〉ッ!!」


 俺は前方のムラサメ・・・・に向けてガードスキルを発動。


 瞬間、スキルの作用で俺の身体が滑るように移動。走るムラサメの前方へとそのまま割って入る。


「……な……っ!?」


 驚愕の声を漏らすムラサメ。突然進路上に現れた俺を避けようとし、バランスを崩す。転倒こそ避けたものの大きく失速。振り返った俺の視界の向こうで、ムラサメの姿がみるみる遠ざかっていく。


 前を向き直り、全力疾走。


「――ゴールッ!!」


 そのまま最初のラインへと駆け込み、同時にひなたの声が響いた。



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