第27話 ちょっと風になってくる
「「そういう訳で、俺(僕)ら勝負するから」」
『『『どういう訳で?』』』
俺たちはみんなの元へと戻って勝負宣言。
疑問顔のみんな(アズのみ『さすがはレオン様。本格的にこの野郎の背骨をへし折る気になられたのですね』と斜め上の理解をしていた)に経緯を説明する。もちろん"
結果、説明した内容をまとめると、
・平和的融和的先進的協調路線による会談のさなか、ムラサメから『岩の奥がなんか
怪しい』と聞かされる
・その破壊を
・だが、調査について『発見したムラサメが主導する』か『岩を破壊したレオンが主
導する』かで揉める
・「よぉし、ならば勝負だ!」
・かといって
……という感じになった。
「……あのさ」
説明を聞き終えたコレットが挙手。
「今日は私を採用するかを試験するためにここへ来たはずなんだけど」
「……ああ……もちろん忘れてはいないが……」
なんというか、ムラサメ相手に引く訳にもいかなかった。『一石二鳥』のつもりでここに来たが、このままでは『二兎追うものは一兎も得ず』ルートに入りかねない。
「でもコレットさん、こういう勝負とか熱くなりませんか?」
「めっっっちゃなるっ!! …………まあ、ほどほどね」
あ、なんかまとまりそう。
まあこの件は俺に落ち度がある。反省しつつ、彼女にはあとでフォローを入れておこう。
そんなこんなで全員が勝負を了承してくれた。『岩の奥から貴重な素材を得られる可能性』を考えれば、調査の主導権を得るのは重要であると理解しているのだろう。
という訳で、さっそく"砂吐きモグラ"が出る窪地――"原作"的にはここからすぐ隣のエリアへと移動する。
「ということで、この勝負はボクこと美少女アイドル系冒険者・坪庭ひなたが仕切らせていだたきます」
ひなたは胸を張りながら宣言した。
俺とムラサメは、土の地面につま先で引かれたスタートラインの前に並び立っている。互いに準備は万端。風が届ける草と土の香りを鼻腔に感じつつ、開始に備えていた。
「改めてルールの確認です。ここから見えるあの背の高い岩を回り込んで、先にここへと戻ってきた方の勝ちです。体当たりや服をつかむなどの各種妨害行為は禁止。スキルの使用も禁止、ただし魔物に襲われた際はその限りではありません。……よろしいですね?」
「「ああ」」
俺たちはうなずいた。
本来の"モグラRTA"はエリアの端から端――前エリアからの画面切り替え地点からスタートし、次エリアへの画面切り替え地点へと到達するまでの時間を競うものだが、そこはアレンジしている。
「がんばれよムラサメ君」とアホ毛一本のタロ。
「ふたりともケガには気をつけなよ」と二股アホ毛のジロ。
もうひとり、三つ股アホ毛のサブロはチェック係として折り返し地点である岩付近で待機している。
「さあレオン様! 奴をギタギタに切り刻んで川へ流してやってください!」と若干将来が心配なアズ。
「おっしゃああああっ!! ガツンとやったりなさあああ――まあ、興味はないのだけどね」といささか手遅れなコレット。
燦々と輝く太陽の下、両陣営のギャラリーたちも声援を飛ばしている。内容に偏りがあるのはさておいて、みんな割とノリがいいらしい。
「では開始前のセレモニーとしてボクから一曲――」
「却下で」
でもそのノリはいらない。
「いけずですねぇ。まあいいです。それでは始めましょう。三……二……一……」
まるで引きずる様子もなく、ひなたはカウントダウン。
俺は前方の穴から飛び出す"砂吐きモグラ"たちを眺めつつ合図に備える。
「……スタート!」
開始と同時に俺たちは走り出す。
先行したのはムラサメ。
だが"モグラRTA"は単純な足の速さだけじゃ勝てないんだよ!
俺はわずかに速度を緩める。ムラサメの背中が少しずつ離れていくが、慌てる必要はない。そろそろのはずだ――
前方を走るムラサメは速度を緩めることなく、進路上の穴を飛び越そうとする――直前、俺の予想通りにその穴から"砂吐きモグラ"が飛び出してきた。
「……ちっ!」
虚を突かれたムラサメが急ブレーキ。
「お先」
一方の俺は魔物の姿を確認し加速、足を止めた金髪主人公の横を悠々駆け抜けていく。
どうやらムラサメの奴、そう熱心に"モグラRTA"に挑戦していた訳じゃないらしいな。
"砂吐きモグラ"が穴から飛び出すタイミングは不規則であるが、実は
具体的にはある穴の"砂吐きモグラ"は『五~七秒に一度』、別の穴では『三秒に一度を三回、その後は八~十秒ほど感覚を開けて最初に戻る』……などなど。
これについて制作スタッフがSNSで語ったところによると、
『砂吐きモグラたちは個体によって、好みのリズムを持っています。飛び出すタイミングはそれぞれの個体にとって好ましいリズムに合わせているんですね。ちなみに穴から飛び出すのを繰り返すのは、威嚇しているからです』
……とのことである。
つまり、"砂吐きモグラ"を観察していれば飛び出すタイミングをある程度計ることが可能なのである。
――さあ、勝負はまだ始まったばかり。ここからが本番だ!
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