第26話 その名は「モグラRTA」
「……叫ぶな馬鹿。みんなに聞かれるぞ」
「うるせぇ馬鹿。僕がせっかくゲーム知識で中盤素材独り占めしようとしてたってのに……」
「独占前提かよ……」
「言っただろうが。
「俺は別に折半でもいいんだがな。だいたい、あのエリアにある採取ポイントはひとつじゃないだろう」
「ああ。魔物と遭遇せず、安全に採取できるのは三ヶ所。……つまり、お前と公平に分け合うなんて不可能だ」
「しかし、"原作"では時間が経てばふたたび採取できるようになっていただろう」
ゲームにおいては『各採取ポイントから素材を得られるのは一度まで、ただし"宿に泊まる"など時間経過を挟めば再入手可能』……という仕組みであった。
「"現実"となったいま、その辺りどうなっているのかは分からない。だが素材を分け合うなり再入手に関する情報を共有するなり、できることはあるはずだ。必ずしも競うようなことではないと思うが?」
俺が言うと、ムラサメは「そうじゃない」と首を横に振る。
「これがゲーム時代なら僕ひとりで全部好きにできたはずなんだぞ。それがお前との折半になるだなんて損してるだけだろうが」
「それはお互い様だろ……。しかもゲームじゃNPCだった人々もこっちでは生きた人間だ。それぞれの都合のために自由意志で行動している彼らが、素材なり宝箱なりを持って行かない保証なんてどこにもない」
「そこだよ!」
ムラサメが言った。
「元々モブだった奴らが意思を持って動いて、その結果として僕の思い通りにならなかったとしても……割とすんなり諦めがつく。『そういう世界にアプデした』と受け入れられる。
……が、そこに僕以外の転生者が混ざって、僕の思惑から外れた行動を取るのは猛烈な異物感があるんだよ。『他プレイヤーの操作するキャラが僕のゲームデータに土足で入ってきて好き勝手荒らし回ってる』感が。分かるか!?」
「分かるか」
それこそお互い様である。その理屈、俺視点だとムラサメこそが『俺のデータに混入された異物』ってことになる。
だがこいつからは決してそうした対称的に見る気配が感じられない。『自分が主人公』という思考にまったくブレがない。図々しいと呆れるべきか、神経が太いと褒めてやるべきか……。
「……だいたいだなムラサメ。お前、いきなりマジックボムで岩ふっ飛ばそうとしていたよな。あの三つ子たちに不審がられなかったのか? ゲーム知識がない人間では『あの岩を壊そう』って発想には至らないかも知れないだろ?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
ムラサメは自信たっぷりにうなずいた。
「あいつらとは子供のころからなにをするにもずっと一緒でな。だから僕らは固い絆で結ばれている。僕の『きっとこの奥になにかあるはずだ』って言葉をすぐに信じてくれたよ」
「へえ。信頼されてるんだな」
「まあな。子供のころに僕が将来冒険者になる、って伝えた時も『だったら俺たち三人でムラサメ君を助けるよ』って言ってくれたんだ。まったく、本当に気持ちのいい奴らだよ。……これで三つ子
ムラサメは穏やかで優しい顔のまま血涙を流していた。……そこまでか。
「……と、とにかくだな。俺は無駄に事を荒立てるつもりはない、ってのを言いたいんだ」
「だよねぇ。ちゃっかり美少女三人のハーレムパーティー組んじゃってるレオン君ならそう言うだろうねぇ。持つ者の余裕だねぇ。うらやましいねぇ。…………スぞ」
「呪詛を飛ばすな。……かと言って、ここで
「なるほど」
ムラサメは好戦的な笑みを浮かべた。
「なら、やることは決まっている。……きっちり白黒つけようじゃないか」
「ああ」
俺はうなずいた。
「勝った方が採取ポイント三ヶ所のうち二ヶ所を調べられる。勝者総取りじゃないのは僕からのお情けだと思え」
「了解した。……で、どう白黒つける気だ」
「それならうってつけの手段がある。――お前、"モグラRTA"って知ってるか?」
「……なるほどな」
"モグラ
簡単に言うと、"センタ北の丘陵"のエリアギミックを利用したレースである。
公式が用意したミニゲーム、という訳ではない。ユーザーたちの発想によって生み出された遊びだ。
"センタ北の丘陵"には地面に多数の穴が開いているエリアが存在している。穴からは"砂吐きモグラ"という魔物が不規則的なタイミングで飛び出し、操作キャラが接触すると戦闘になる。
この"砂吐きモグラ"、強さそのものは大したことはないのだが――戦闘時の行動がとにかく
名前通りに〈砂を吐く〉行動を多用してこちらの命中率を下げてくるのである。結果として攻撃が当たりづらく、倒すまで無駄に時間がかかる。
勝ったところで得るものは少なく、逃げようにも〈先回り〉のせいで成功率が低
い。戦闘そのものがペナルティと同義の、まさに嫌がらせのためだけに存在している魔物なのである。
そのため、穴開きエリアは『モグラに接触しないよう注意しながら進む』のが基本となる。
それを応用したプレイヤーたちが『いかに短時間で穴開きエリアを突破できるか』をSNS上で競い初め、いつしかモグラRTAと呼ばれるようになったのである。
「知っているなら話は早い。そいつで勝負だ」
「分かった。いいだろう」
俺はうなずいた。
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