第25話 序盤に中盤アイテムを入手するロマン

 俺たちは"センタ北の丘陵きゅうりょう"を進みつつ、遭遇する魔物たちを倒していく。


 そうしてしばらくのち。


「……お。下の方に洞窟……いや、あれは岩盤のアーチだな。ちょっと近づいてみようか」


 俺は丘を見下ろしながら言う。三人は「はい」「ですね」「ええ」とめいめいに同意を返す。


 何気なく言った雰囲気を装っているが、実際にはこのクエストを受けたのも含め

"計画通り"――それこそ、ここが"ゲーム世界"であると認識したころから『いつかやろう』と計画していた通りの行動である。


 "原作LOA"ではあの岩盤アーチ内部に横穴が開いており、その奥は『本来、ゲーム中盤以降に攻略する"ノードリオ南の遺跡"』へと繋がっている。


 いわゆる『中盤ダンジョンと序盤ダンジョンが実は繋がっていた』系のパターン

だ。もっとも初めてここを訪れた段階では横穴が岩で塞がれているため侵入不可能である。


 正規の手順では"ノードリオ南の遺跡"の内部ギミック――『各所に蓄積された魔力を吸収&開放できる水晶で障害物を突破していく』内容を利用し岩を爆破することで通行可能となる。


 だが、"現実化"したいまなら力づくでも破壊できるのではないか。ゲームではシステム的に取れなかった手段を取れるではないか。


 例えばアズの高い攻撃力ATKなら、何度もスキル攻撃をぶつけることで砕けるかも知れない。あるいはコレットの魔術を活用するという手もある。それらにひなたのバフを乗せればより確実だ。


 なんなら戦闘用の攻撃アイテムを利用する手もある。そのために俺はマジックボムをいくつか持ち込んでいる。


 いずれにせよ内部に侵入できれば儲けもの。入ってすぐのエリアにある採取ポイントを調べれば本来は中盤でなければ入手できない素材を得られる。それを売ればいい軍資金になる。素材を売れば、対応する装備品が店で購入できるようになる。


 都合のいいことに、そのエリアはギミックによる攻略が中心となっている場所。


 水晶に魔力吸収&要所で開放を何度も行う都合上、魔力が蓄積している地点まで何度も往復しなければならない。そのためプレイヤーが魔物との遭遇エンカウントに煩わされないよう"魔物が出現しない"親切設定がなされている。


 つまり安全な採取が可能なのだ。なんとありがたい。ゲーム知識を活かすにはおあつらえ向きな場所なのである。


 ……問題は、どのようにして岩を砕く方向へと持って行くか、だ。


 ゲーム知識を持っている俺だからこそ『なんとしても横穴の先へ進みたい』と思えるのである。アズひとりを説得するだけならまだいいが、ひなたとコレットはそう思わないかも知れない。


 これが"原作"ならばすぐに怪しいと気づける。横穴を塞ぐ岩は、周囲の岩と質感が異なっているためだ。そして調べると『道が塞がれているようだ……』とメッセージが出る。


 画面越しのプレイヤー視点であれば『なにかあるな』とすぐに理解できる作りになっているのだが――果たして"現実化"したこちらでもそううまく行くかどうか。


 ゲームとは情報量が格段に違うこの世界、かえって不自然さが薄れてしまう可能性はある。例えば花崗岩かこうがんがたくさんある中にひとつだけ石灰岩が混ざっているとして、それが怪しくて気になると思う人間がどれくらい存在するだろうか?


(……『塞がれている』と表現されている以上、見ればそこが道になっていると分かるということ。おそらく隙間が空いているんだろう。だがその隙間が狭すぎる場合、道が先に伸びているとは確認できないかも知れない。


 それどころかメッセージはただのメタ表現で、実際には外部から見ただけでは不自然に思えないって可能性も――)


 脳内で思考しながら歩いていく――だが、その思考は中断される。


「「あ」」


 岩盤アーチ内部にもうひとりの転生者ムラサメと三つ子たちがいた。


 ご丁寧にも彼の手にはマジックボムが握られていた。



 ……考える事は――


 ……同じって訳か――



 交錯する視線。その一瞬ですべてを悟った俺とムラサメは同時に声を上げる。


「なんだレオン貴様も来ていたのか偶然だなところで向こうで少し平和的な話をしないか」


「そうだなそういう訳でみんな悪いけどちょっと場を外すよその辺で適当にダベっててくれ」


 早口で話し終え、ふたりして移動する。残された互いのパーティーメンバーたちがなにか言っているが、振り返る事なく岩陰へと向かう。


「――てンめえレオンッ!! またしても僕の邪魔をする気か貴様ァッ!!」


 さっそく回し蹴りが飛んできたので、俺は身をかがめて避けた。



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