第29話 異変
「……あんなんアリかよっ!?」
「ちょっ、落ち着きなよムラサメ君」
決着後。
ムラサメが俺に詰め寄ってくるのを、
「離してくれっ! ……あんなもん反則だろうが貴様っ!」
「スキルを使ったことか? だが事前に"魔物に襲われた場合は使用してもいい"と決めていただろう」
「そういう問題じゃないっ!!」
空とぼけて見せる俺に、ムラサメは一層強い剣幕で食ってかかる。
「〈かばう〉を使って追い抜くとかっ!! いくらなんでもナシだろうがっ!!」
「いやいや。なにしろ魔物が俺だけを襲う、なんて保証はどこにもなかったからな。
「しらばっくれやがって……っ!!」
「そんなこと言い始めたらキリがないだろ?
俺がしれっと言ってやると、たちまちムラサメの顔が歪んでいく。
だが先にあんな手を使ったのはお前だからな。舐められないためにもこっちだって遠慮してやる訳にはいかない。
「いや、誤解するなよ? 俺はそのことを蒸し返したい訳じゃない。なにより『お前がワザと石を蹴り入れた』だなんて証拠はどこにもないからな」
「貴様……っ」
「あれはただの不運なトラブルで、お前がルール違反を犯した訳じゃない。それと同じだ。俺も戦闘になったから〈かばう〉を使っただけで、ルール違反は犯してない。そこになにか文句でもあるか?」
「ぐ……」
ムラサメがうめく。だがそれ以上の追求はできない様子だった。互いのパーティーメンバーたちも遠目から状況を察していたらしく、アズたちは問い詰めるような視線をムラサメへ向け、三つ子たちは気まずそうに互いの顔を見合わせていた。
「……ええい、くそっ! 分かった、分かったよっ! 負けを認めてやるっ!」
無言と視線に耐えかね、ムラサメは音を上げた。
みんなで"中盤遺跡への通路を塞ぐ岩"のある場所へと戻る。
「じゃあコレット。思いっきりやってくれ」
「……ええ。任せなさい。――ったるわぁっ!!」
最初だけクールを装ったコレットが、火炎系単体魔術〈
ユニークスキル<
こちらの期待通り、轟音とともに岩は粉々に砕けた。
……やっぱすごいな。
晴れていく土煙を眺めながらしみじみと思う。
さすがはユニークスキル持ちである。そのうえ、ひなたのユニーク〈絶対音感〉との相性が抜群だ。うまく使いこなせば、相当な戦力になってくれることだろう。
あとの問題は
「んぐっ、んぐっ……ぷっはあああ――――っ!! っぱコレよねコレ! この一杯がたまんないのよ!」
感心半分、クールどこ行った半分な俺の視線など意に介さず、コレットは風呂上がりの牛乳よろしく
……まあ、アイテム代をケチってこの戦力を手放すのも惜しいか。
俺はすでに採用の方向で決意を固めていた。いま伝えてもいいが……まあ、町に帰ってからでいいか。
「……本当に砕けた……」とタロ。
「すごいなコレットさん。ありがとう」とジロ。
「ムラサメ君の言った通りだ。奥に道が繋がってる」とサブロ。
三つ子によるスムーズな進行によって俺たちは内部へと進入した。
「ここは……なにかの遺跡ですかね」
内部に穿たれた石造りの通路を見てアズがつぶやいた。
「ああ。しかも光源まで残っている」
俺は、壁に等間隔に掛かった"魔力で光る照明器具"を差しながら言う。
もっとも『初めて見た』風を装っているだけである。なにしろ俯瞰か主観かの違いはあれど、"
設定によれば、ここ"ノードリオ南の遺跡"は大昔――"人魔大戦"の時代に造られた地下魔導技術研究施設であるらしい。魔導技術とは、ようは魔力を利用した道具などのことだ。例えば町やこの遺跡の照明、腕のストレージリングなどがそうである。
大昔の魔導技術は現在のそれより格段に上であり、そのため千年以上昔に作られた機構がいまでも稼働しているのである。
「……どうやら魔物の気配はないみたいだね」
俺の演技にムラサメも乗ってきた。
「だったら二手に分かれても問題ないはずだ。俺たちはこっちの方を調べるから、ムラサメたちはあっちを頼む」
指でさしながら言う俺に、ムラサメは一瞬渋い顔を浮かべる。意図が分かったのだろう。
つまりは『レースの結果に応じた、採取ポイントの分配』である。俺たちが向かう側には二ヶ所、ムラサメ側には一ヶ所、それぞれ採取ポイントが存在する。
「終わったらここへ集合だ。発見物はそれぞれで回収し、合流時にいったん提出。その後のことはその時に決めよう」
しつこいようだが、やはりこれも演技である。提出したあとは『それぞれ発見者のもの』とするつもりである。
「じゃあ、さっそく探索開始だ」
俺は言った。
目論見通りであった。
(……っしゃっ!! "
"原作"通りの場所にある採取ポイント二ヶ所から、"原作"で取れるものと同じ金属素材を入手し、内心で快哉を叫んだ。
「……これは素材……でしょうか?」
「さあな。ギルドに持ち帰れば分かるだろう」
アズにそう答えつつ、
ここのエリアはこれ以上めぼしいものは存在しない。あとは適当に散策して待ち合わせ地点へ戻れば――
「……?」
背後からかすかな物音が聞こえたような気がした。
振り返ってみるが誰もいない。ややオレンジがかった白い明かりに照らされる、石造りの通路が伸びているだけだった。
当然だ。なにしろここは魔物が出現しないエリアなのだから。
「? レオンさん、どうしました?」
「……いや。なんでもないよ」
ということは気のせいだろう。さっさと切り替え通路を進んでいく。やがてちょっとした広間へと到着した。
「しっかし」
コレットが言った。
「ここ、たぶん"人魔大戦"時代とかの遺跡よね」
「たぶんそうだろうな」
「すごいわよねー。千年とかの昔でしょ? それがまだ使えるだなんて」
壁の照明を見回しながら無邪気なコメントを残す。つられて俺も照明と、照明が生み出す床の影へ目を向ける。かすかに揺らめく光源に合わせて石床に伸びる五つの人影もさざ波を立てていた。
――
俺たちは四人だ。数が合わない。エリアの構造上、ムラサメたちが背後へと回り込んできた可能性はない。
影のひとつ、俺の隣に伸びる人影が杖らしきものを掲げる。その先端部からなにか鋭い影が伸びる――
「……後ろだっ!! みんな避けろっ!!」
反射的に叫び、床へ飛び込むように前転。直後、空気を切り裂く鋭利な音とともに俺の後頭部をなにかがかすめていく。
「……レオン様っ!!」
「無事だっ!! いったい――」
なんだ、と背後を振り返り――そこに立つ、頭に角を生やした男の姿に絶句する。
「――ほう。まさか避けられるとはな」
そんなバカな。あり得ない。
「オイオイ旦那ァ。なにやってんだよォ」
「まあ、単なるマグレでしょ」
奥からさらに二人、男女の人影が姿を見せる。いずれも頭部から角が生えている。
「……だけど運が悪かったわね。気づかなきゃそのまま楽に逝けたものを」
三人とも、よく知っている。"原作"で何度も見た顔だ。
そして、この場所にもこの時期にも絶対に姿を現さないはず存在だった。
あり得ない。
「さっさとこいつを殺しちまおう。頼むぜェ――
そこにいたのは、悪魔カラルリン一味。
"原作"のラスボスであり、
━━━━━━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。
執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます