第22話 加入希望者、現る
「あの。
「ええ」
俺が尋ねると、杖を手にした黒髪の少女はうなずいた。
まさかこんなにも早く希望者が現れるとは。
いや、もしかしたら条件を見落としている可能性もある。ちゃんと確認をしておこう。
まず名前は……募集紙をちらりと確認すると『コレット・ボードリエ』と記されていた。
「ええと、コレットさん、で間違いないでしょうか?」
「ええ」
黒髪の少女――コレットはミステリアスな紫色の瞳を向けつつ、ゆっくりとうなずいた。
丁寧、というよりもどこか慎重さを感じる所作である。こちらを警戒しているのかも知れない。まあ"冒険者"という以外に共通点がない、初対面の相手との会話なのだから無理もないか。
「募集条件は『ユニークスキル持ちの後衛』ですけど、その辺り見落としはありませんか?」
「ええ」
コレットは腰まで届く黒髪をかき上げながら答える。
続けて具体的なスキル名を口にする……と思って待ってみるも、期待に反して沈黙が流れるばかりである。
「……さっそくですが、今日ここで面接できますか?」
『口数の少ない性格なのだろう』と暫定的な分析をしつつ、確認する。ギルド内には冒険者パーティーが会議などを行うための部屋が用意されており、誰でも格安で借りることができる。詳しい話はそこで聞けばいい。
「ええ」
先ほどと同じ動作で黒髪をかき上げる。
「分かりました。では部屋を借りて来ますので、イスに掛けてお待ちください」
「ええ」
俺がそう伝えると、コレットは三たび髪をかき上げつつ身を翻す。はずみで黒髪とスカートのすそがふわりと浮く。
……慎重かと思えば、妙に大仰な動作も見せる。どうにも印象をつかみかねる。
首をひねりつつ、職員に問い合わせるため足を動かしかけた時――『ガンッ!』と乾いた打撃音が耳に届いた。
「
続けて響く絶叫。聞き覚えのある声であった。というか、いましがた聞いたばかりであるコレットの声であった。
そちらに目を向ければ、当のコレットがイスのそばで右スネを押さえながら転が
り回る姿があった。
「ああ――――っ
俺たち始め、ロビー中の視線が集中しているのに気づいたコレットはいきなり沈黙する。
周囲が見守るなか、無言ですっくと立ち上がる。
「……あの」
「……………………にゃにかしら」
俺が声をかけるも、彼女はあくまでそっけなく答える。ただし、めっちゃ涙目だった。あと身体もぷるぷる震えていた。
「……いえ。お大事に」
外れかけた彼女の仮面には一切触れず、俺は改めて職員の元へと向かった。
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