第23話 自称クールビューティー少女

 ギルド内の一室を借りた俺たちは、さっそくコレットの面接を始める。


 宿の相部屋くらいの空間中央に俺とアズは木製テーブルへ並んで座り、その対面にコレットが座る、という位置関係である。


「――今回は我々のパーティーメンバー募集にご応募いただきありがとうございま

す。それでは早速面接を始めたいと思います」


「ええ」


 コレットは黒髪をかき上げながら優雅にうなずく。空いた手に持った紙をチラチラ確認しているのには触れないでおいてやろう。


「それではまず、お名前からどうぞ」


「優雅に紅茶を嗜みながらの読書かしら」


「すみません。趣味を尋ねる予定はありませんので」


 手元に目を落としながら頓珍漢な返答をよこすコレットに優しく教えてあげた。


「ええと、『コレット・ボードリエ』さんでお間違いないですね?」


「よく人からクールビューティーと呼ばれていますわね」


「……はい、いっぺんそのカンペから離れましょうか。アズ」


「かしこまりました」


「あああああ――――っ!!」


 俺が指示し、アズがカンペ(三枚)をひったくってテーブルの上に置き、コレットが優雅さ絶無の声を上げた。


「いいですかコレットさん。肩肘張らず、素直に答えていただければそれで大丈夫ですから」


 不安そうにテーブル上のカンペをちら見するコレットにそう伝える。


 ……なんか隅の方に『あなたはクール!』とアンダーラインの引かれた丸文字が見えたが、触れないでおく。


「それでは改めてお名前どうぞ」


「コ……コレットです、わよ」


 口調こそおかしいが、ひとまずは前進である。スルーして続ける。


「それではコレットさん。あなたの戦闘面における役割などおうかがいしてもよろしいでしょうか」


「え、ええ。後衛から魔術での攻撃が得意ですことよ」


「魔術。それはありがたいですね」


 回復兼バフ役ひなたがついさっき加入したばかりなのでそこに魔術系アタッカーが加わればちょうどいい戦力バランスとなる。


「それと、ユニークスキルを持っておられるそうですが、具体的にどのようなスキルをお持ちなのでしょうか」


「ええ。〈魔力超過オーバーロード〉よ」


 その名を聞いて、軽くうなる。


 パッシブ系ユニークスキル〈オーバーロード〉。


 その効果は『習得しているだけで、あらゆる魔術系攻撃スキルの威力が大幅に上昇する』というもの。


 極めて強力であるが、その反面『MP消費が大幅に増加してしまう』デメリットも持つ。


 育てれば暴力の権化のごとき殲滅力を発揮できるが、代わりに継戦能力が低くなり肝心な場面でMP切れガス欠に陥る危険性も高い。


 "本作LOA"ではスキルの不使用OFF設定ができない仕様であるため、習得者は永遠に消費MP増加の枷と付き合い続けなければならない。


 つまりは非常にクセの強いスキルなのである。その威力に魅せられた愛好者は多い反面、敬遠するプレイヤーも少なくない。


「……なるほど。それはすごいですね」


 俺は無難な言葉を選びつつ、脳内で思考をまとめる。果たして俺たちに極端ピーキーな特性を活かすことができるのかどうか――


「でしょっ!?」


 俺の思考は、いきなり立ち上がったコレットの叫びにぶった切られた。



「バーンッ! て行ったらズガーンッ! てな感じで敵を一網打尽にできちゃうところとか最高よねっ!! なんかこう、魔術使う醍醐味の極地っていうかっ!! 本っ当にもう私好みの爽快感あふれるスキルなのよねっ!! ……だってのに、このロマンが分かんないパーティーが多すぎるわっ!! かれこれもう三組――はっ!!」



 握りこぶしを高々と振り上げ熱く語っていたクールビューティー氏が、ようやく俺たちの視線に気づいた。


 そのまま軽く身仕舞いをし、静かにイスへ座り、そっと口を開く。


「…………ほどほどですわね」


「どういたしましょうかレオン様。この方ポンコツですよ」


「言うな。……言ってやるな」


 たとえそれが事実であっても。


 ……それはともかく。どうやら彼女は〈オーバーロード〉が原因で他のパーティーへの加入を断られた、もしくはクビにされたらしい。


 その部分に探りを入れてみるか。


「あー、ごほん。……お話ありがとうございます。ただ、情報によりますと〈オーバーロード〉は威力増加と引き換えに魔力消費が大きくなる点が問題視されているそうですが、あなたはそれをどのようにお考えでしょうか?」


「ええ――」


 コレットは自信をにじませながら力強くうなずいた。


 さて、彼女は問題にどう対処している? 果たして俺たちを納得させられるだけの回答を提示できるか?


 お手並み拝見といこう。



「――人って、ハイリスクそういうの好きですよね?」


「どうするアズ。こいつポンコツだぞ」


「ええ。ポンコツです」



 俺は敬語を捨て、目の前のドヤ顔黒髪少女を無遠慮に指さした。そりゃ他のパーティーも見切るわな。


「おほほ、失礼ざますね。わたくしクールビューティーざますのに」


「で、キャラもいよいよ崩壊してると来た。もういいから無理せず素で話そうか」


「無理してないもんっ!! 私クールだもんっ!!」


 すっかり仮面が割れたコレットは、とても生き生きと否定の言葉を叫んでいた。


「……とにかくだ。俺たちは〈オーバーロード〉による消費魔力の増加に不安を覚えている。だから君がその辺りにどう対処しているのか、って部分を知りたいんだよ」


 さっき言ったことをもう一度噛み砕いて尋ねる。


「それなら"魔力回復薬マナボトル"があれば十分じゃない。ほら」


 コレットが腕輪の異空間ストレージ内から緑色の液体が入ったビンを取り出す。


「魔力が切れたらこれをキューっと。それで完璧。全然問題ないでしょ? ですわよね?」


 妙なところで取り繕うなぁ……というのは置いといて、問題はある。


「いや。まず金銭面での負担は馬鹿にできない」


 マナボトルは序盤に購入できる消費アイテムとしてはそこそこ値が張る。下手に多用すればクエスト収支がマイナスになる可能性がある。


 それにLvが上がれば魔力量MPも増えるし、MP消費量の多いスキルも扱うことになる。そうなればマナボトルだけではまかなえなくなる。上位の魔力回復アイテム――"マナボトルプラス"や"マックス"はさらに高額なので、結局いつまでも金銭負担の問題が付きまとうことになる。


「それにストレージ容量は有限だ。マナボトルを詰め込みすぎて戦利品が入らない、なんて問題もある」


「そこはクールに対処しましょう」


「具体性皆無ですね……」


 真顔で答えるコレットに、アズもジト目を向けていた。


「話から推察するに、他のパーティーはそうした部分を懸念したんだろう。結果、加入を断られたと」


 なんというか、正直妥当に思える。問題点についてどうにも軽く考えている印象が拭えない。


「し……しかたないじゃないのぉっ!!」


 俺の指摘に、コレットは叫んだ。


「だって生まれつき持ってるスキルなんだしっ!! 私にとってはこれが当たり前なんだしっ!!」


「そうだろうけど……」


「魔力消費以上の成果を上げる自身ならあるしっ!! ……お願いします、私を採用してっ!!」


 ついにはテーブル越しに身を乗り出し懇願してきた。


「ぼっちじゃ限界があるのよっ!! そろそろパーティー組みたいのよっ!! そこへ渡りに船みたいな募集があったら飛び乗るでしょっ!? ねっ!? ねっ!?」


「落ち着きなさい」


 グイグイ迫ってくるのをアズが押しとどめる。いったん座らせ、改めて俺は口を開く。


「まだ不採用とは言ってない。〈オーバーロード〉はうまく使いこなせれば強力なスキルだ。その点に魅力はある。……ようは、不安を払拭するだけの強みを見せられればいい。そのために、まずは実力を確認したいと思う」


「分かったわ。じゃあさっそく――」


「ノータイムで部屋を吹き飛ばそうとしない。俺が言う確認ってのは、実戦で試すって意味」


 即断で杖に手を伸ばそうとするコレットを止めつつ言った。


「明日俺たちと共にクエストへ出よう。そこで君の実力を見せてもらう。それでどうかな?」


「ええ、受けて立つわ!」


 コレットは即答し、またぞろイスから立ち上がった。


「あなたたちに希代のクールビューティー・コレットちゃん伝説の新たな幕開けを見せつけてやろうじゃないのっ!! うおぉ――っ!! やったるわぁ――っ!!」


「……迷惑だから静かにね?」


 もはやクールさなどかけらもないコレットに、俺はそう言った。


 ……まあ、やる気があるのは結構なことか。



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