第20話 戦闘終了後
"荒ぶる大角"の討伐を確認後、俺はその場で大の字に倒れ込んだ。
「レオン様っ!!」
「レオンさんっ!!」
「……痛ってえ……いや、なんとか大丈夫……ってえ……」
慌てて駆け寄ってきたアズとひなたに手をひらひらさせて答える。
めっちゃ痛い。特に背中が死ぬほど痛い。
なにしろゲーム的にはHP1の状態なのだ。『HP0』の扱いは重傷だったり死亡だったりと状況次第で曖昧にぼかされているが、ようは動けなくなる一歩手前。むしろよくその状態から反撃できたものである。
「ごめんなさい、ボクのせいで。すぐ治しますから。……〈
ひなたの手からあふれる光が、俺の傷を癒していく。アズも〈
「……ありがとう。もう平気だ」
ふたり分の回復スキルのおかげですっかり怪我が治った。ゆっくり身を起こしても痛みは完全に消え去っている。さすがファンタジー。治癒魔術すげえ。
「よかった……。それでも油断は禁物ですレオン様。町に戻ったら念のため"
「大げさだって。おかげさまでこの通り完全に治ったから」
「ダメですよレオンさん。ちゃんと診てもらってください。大ケガを急激に治した結果、身体に異様な負担がかかって後々体調を崩しちゃう場合がありますから」
アズとひなたに釘を刺される。
ちなみに『典薬院』とは作中における医療施設だ。"
この世界、スキルやアイテムでケガは直せるが病気の方はそうもいかない。ついでにスキルなどの回復効果は歳を取ると下がってしまう。やはり専用の医療施設は必須なのである。
「……分かった、そうするよ。今日は森のもっと奥まで向かう予定だったが……ここらで切り上げておこうか」
クエストの目的である"大将の牙"はあと少しで規定数が集まる。町へ戻りすがらに集めれば十分だろう。
「……それより、おふたりとも」
ひなたは身を正した。
「このたびはおうちの仇を討っていただきありがとうございました」
「いやいや。あいつの乱入は事故みたいなものだったし。流れみたいなものだよ」
「それでもです。ボクひとりでは憎き"
そう言ってひなたは崖崩れで割れた
「……さようなら、ボクのおうち。たくさんの思い出をありがとう……」
「振り返れば…………………………………………特になにもありませんね。あれ? なんでボクただの岩にこんな入れ込んでたんでしょうか」
「そこで冷静になるかぁ」
若干、おうちが哀れに思えた。
「ところで。おふたりは冒険者ですよね」
「ああ。昨日からだけどな」
「ほほう」
ひなたの緑色の瞳が光った。
「クラウンエネミーたる"
「ええ。なにしろあのレオン様ですからね」
どの?
「しかしながらおふたりとも前衛。サポート役が不足しているご様子。……そこでこのひなたちゃんの出番ですよ」
ひなたは自分の胸を叩く。
「どうでしょう、ボクをおふたりのパーティーに加えてはいただけませんか? ボクは優れた前衛が得られる、おふたりは超絶美少女アイドルことボクがスターダムを駆け上がる姿を特等席で目撃できる、すっごいお得な取り引きだと思いますよ」
「途中で三回は寝そうな取り引きですね」
ウチの従者、辛辣ぅ。
「素直じゃないですねぇ。……で、で、レオンさんはどうですか? 目隠れ系美少女アイドルと一緒の冒険者生活、始めてみませんか?」
「レオン様に色目とはいい度胸ですね。ほらっ」
「ああーっ!? ボクのアイデンティティを奪わないでーっ!?」
桜色の
……それはともかく。アイドルうんぬんは置いとくとして、ひなたをパーティーに加える、か。
確かに悪い話ではない。
俺たちが募集しているのは『後衛』の『ユニークスキル持ち』。ひなたはばっちり該当している。しかも実力はクラウンとの戦闘を見る限り、十分いける。
「……アズはどう思う? 戦闘面で」
「……そうですね。戦闘面で特に不足はなかったかと。戦闘面での連携も即興パーティーとしては及第点だと思います」
"戦闘面"を強調しつつ従者と相談するも、特に否定材料はない。
俺はひなたへ向き直る。
「いいか。俺たちは"賢者の秘宝"を目標に活動しているんだ。生半可な覚悟であれば断るつもりだ」
「じょーとーです。"賢者の秘宝"を発見する系アイドル、いいじゃないですか」
「険しい道のりになるし、今日のとは比べものにならないほどの強敵とも戦うことになるだろう。それでもついて来れるか?」
「もちろんです。鉄火場を恐れてアイドルなんてやってられませんよ」
ひなたは自信満々に言い切る。
不敵な目だった。いかなる困難にも恐れない
「……俺は悪くないと思う。アズはどうだ?」
「私はレオン様の決定に従うまでです」
「分かった。……そういうことだひなた。きみを歓迎するよ」
「はい! ボクにおまかせです!」
小柄な体を誇示するように、ひなたは大きく胸を反らした。
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