第19話 対クラウンエネミー戦、決着
ひなたの指が竪琴をかき鳴らす。
今度は
俺とアズも攻め手を緩めない。他のふたりの邪魔にならないようそれぞれ三方向から魔物を取り囲み、畳みかける。
『GIIッ!!』
剣、戦槌、音波と三者三様の攻撃に晒され魔物は苦悶の声を漏らす。しかも〈闘志の歌〉による攻撃力上昇も乗っている。さしものクラウンエネミーも少しずつ押し込まれている。
当然、奴も反撃に出ようとするが、
「させるかぁっ! おらっ、こっち来いっ!」
俺はガードスキル〈挑発〉を発動。魔物の
「どりゃああああっ!!」
「てやー!」
その横合いからアズとひなたがそれぞれに攻め立てる。俺も隙を見て剣で斬りかかる。
戦況は順調に展開していく。
敵の攻撃は俺が引き受け、アズが戦鎚で打ち据える。
「〈ヒール〉!」
衝撃によって少しずつ俺の体に蓄積していくダメージはひなたが治癒魔術スキルで回復してくれる。
そうして少しずつ着実にダメージを蓄積させていく。"荒ぶる大角"の動きも徐々に鈍くなっていく。
決して楽な戦いではないが、それでもペースはこちらが握っている。このまま押し切れる――
「……ッ!!」
――って、クラウンがそんな甘い奴な訳がねえよなっ!!
「ヤバいの来るぞっ!! 備えろっ!!」
巨鹿が"首を二回下げる"動作をするのと、俺が大声で警告を飛ばすのは同時だっ
た。
"
俺の声にアズは即座に攻撃の手を休めて距離を取る。事前に打ち合わせをする暇などなかったが、そこは長い付き合いだ。聞き返すことなく行動に移してくれた。
『KIYAAAAAッ!!』
直後、"荒ぶる大角"が黒土を派手に蹴立てて突進してきた。
真っ先に狙われたのは俺だった。盾と〈ウォールディフェンス〉の併用で受ける。ひときわ強烈な衝撃。たまらず吹っ飛ばされるもなんとか受け身を取る。
駆ける勢いそのままに魔物はアズへと突っ込んでいく。
「く……っ!!」
アズは地面へ転がり込む。銀糸のような髪に湿った黒土をかぶりつつもすぐさま身を起こす。
「ぴゃっ!?」
だが、ひなたは俺たちのようには動けなかった。初対面である俺の警告を即座に飲み込めなかったのもあるだろう。轟音を立てて向かってくる巨鹿を前に、一瞬身を硬直させていた。
それでもなんとか避けようと動き出す。だが間に合いそうにない。あれはマズい。彼女のLvは分からないが、なにしろ後方支援型だ。奴の角をまともに喰らって無事なほどの
……こういう時こそ盾役の出番っ!! 頼むぞ〈
「ひなたっ!!」
叫び、俺はガードスキル〈かばう〉を発動。
果たしていかなる魔力の作用か、俺の体は滑るようにひなたの前へと移動する。
すぐさま彼女を押し出す――直後、魔物の巨体が突っ込んでくる。
かろうじて盾を構えるも衝撃を殺し切れない。姿勢も万全ではない。そのまま吹っ飛ばされ、背後の樹木へ猛烈な速度で叩きつけられる。
飛び散る木片。散る木の葉。背骨が悲鳴を上げる音。
めっちゃ痛い――が、あいにく生きている!
普通なら死んでいるだろう。だが〈
意識が途切れそうになるのを気合で踏みとどまり、よろめきながらも立ち上がる。
「レオンさんっ!!」
「レオン様っ!!」
ふたり分の声と同時に、"荒ぶる大角"のひときわ甲高いいななき声が耳朶を打つ。
あれも知っている。〈踏みつぶし〉――前足で単体を押しつぶす攻撃が来る前の動作である。
すばらしい事に〈不撓不屈〉はHP1の状態からでも発動してくれる神スキルであるが――あいにく二回目以降は確定発動ではなくなる。分は悪くないとは言えこんな場面で賭けに任せる気などない。
ここは打って出るのみっ!!
接近してきた"荒ぶる大角"が竿立ちになる――同時に俺は〈シールドチャージ〉を発動。後ろ足二本だけで身体を支える姿勢の巨鹿へと突進する。
衝突。
「……アズッ!!」
「……せぇぇぇぇぇいっ!!」
意を汲んだアズが立て続けに強打。
駄目押しの衝撃をモロに浴びた魔物の姿勢が完全に崩れる。そのまま重々しい音を立て、背中から倒れ込んだ。
「……いまだっ!!」
苦痛など意に介さず叫び、追い打ちをかける。
アズの戦鎚が巨鹿の首元へ振り下ろされ、ひなたの音波が暴れる四本脚をかわして腹部を打ち、俺の刃が無防備な胴体へ突き立てられる。
『GIIIIIYYYYYYYAAAAAAッ!!』
クラウンエネミーの断末魔が木々の間を駆け巡った。
暴威を振るったその巨体が動かなくなり、やがて赤黒い灰となって風の中へとかき消えていった。
――討伐成功である。
━━━━━━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。
執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます