第11話 せっていのおじかん
ふたたび馬車に揺られ、しばらくのち。
街道の先にバレンシアの外壁と、その中心部にそびえる巨大な樹木が見えてきた。
遠目にもはっきり映るあの巨樹こそが"聖樹"――『アガスティアの聖樹』。世界中あちこちにある人類にとっての重要物、そのひとつである。
この世界の
重要なのは、前にも説明した通り"聖樹の加護"のおかげで加護域内の魔物の発生を抑えられる、ということ。そのため聖樹に近い――つまり"加護の影響"が強いほど安全度は高くなる。
町の周辺ほど安全度が高いのは、それぞれの町にある"アガスティアの聖樹"のおかげなのである。……あくまで
その加護の外へと向かい、町の周辺にはない貴重な素材の採取、
そして"真の目的"は俺の魂を狙う悪魔カラルリン一味による襲撃イベントを生き延びること。そしてかの悪魔を討伐し、俺の命が狙われる危険を完全に退けること。
……待っていやがれ本編!
俺は逃げねえ! むしろこっちから乗り込んでやるよ!
"現実化"したバレンシアの町中は、ゲームとはまるで印象が違って見えた。
悪い意味ではない。逆だ。ゲーム上のグラフィックでは表現し切れないほどの精緻さと活気に完全に圧倒された。
頑丈な石造りの建物の壁面を流れる雨垂れの跡。
歩道と馬車道とに分けられた薄い暖色系の石畳の細かな凹凸。
町のそこかしこに立つ、"魔力で灯される"街路灯の支柱に浮いたサビ。
街路に植えられた広葉樹の一葉。風に揺れる花弁のひとひら。
そして一人ひとり体格も服装も顔も違う町の住民たち。
町を構成するあらゆるものが眼前に息づいていた。それでいてモニター越しの見慣れた風景と寸分違わぬ配置に得も言われぬ感慨が満ちた。
――ああ、俺はいまゲームの世界にいるんだ。
奇妙な話だが、転生してこれまででもっとも強くそう感じた。
初めて剣を握りしめた時より、前世ではあり得なかったスキルによる超常現象を目撃した時より、ユニークスキル獲得や神獣との対面を通じてゲーム知識が活用できると確信した時より、よほど実感が湧き出てきた。
死の運命が待っていることも忘れ、ほんのいっとき感慨にふけっていた。
「……レオン様。それで、これからどのようにいたしますか?」
しばらくしてアズが尋ねてきた。彼女も彼女で町を見渡していたが、あくまで初めての風景を楽しんでいたという風情であった。
「ああ。まずは宿を選んで荷物を置こう。冒険者ギルドへの登録はそれからだな」
「かしこまりました」
案内板の地図を頼りに、俺たちはさっそく宿へと向かった。
宿に荷物を預けて冒険者ギルドへとやってきた俺たちは、現在受付カウンターで登録手続きを行っていた。
まずは渡された用紙に氏名などの情報を書き記して提出。
「それでは"アガスティアの葉"をお願いいたします」
受付のお姉さんが用紙を受け取りつつそう言う。
俺は自身の胸へと軽く意識を向ける。そこからほのかに光る木の葉が衣服を透過して現れ、差し出した自分の手のひらへ落ちる。
……この世界の住民たちは(たいていの場合は幼少期に)"聖樹教会"と呼ばれる場所で聖樹の祝福を授かる儀式を行っている。それにより己の魂と聖樹との間に繋がりが生じる。
その証として、個々人の魔力によって生成されるものが"アガスティアの葉"であ
る。基本的には体内に同化しており、当人の意思で自由に出し入れできる。
人々は"葉"を通じて聖樹から様々な祝福の力を得ることができる。
たとえばステータスも"葉"の力によって表示されるものだ。スキルツリーやスキルポイント消費による習得、スキルシードの存在も聖樹が『人々がスキルを習得するための手助け』をしてくれた結果の産物だ。
ほかにも個人情報管理にも利用される。冒険者ギルドに"葉"の情報を登録しておけば、活動を通じた実績がポイントとして蓄積されていく。『どの魔物をどのくらい討伐したか』といった情報も記録されるため、
……要するに『ステータス画面など、ユーザーインターフェース《U I》部分の世界観的な理由づけ』として便利に使われる代物――それが"アガスティアの葉"なのである。
ともあれ。
お姉さんの手に渡った葉がカウンターに設置されている機器の上へ置かれる。お姉さんの慣れた手つきでによって機器が操作され、あれよと言う間に登録完了。アズも同様に完了。
「――はい。これでおふたりの冒険者登録を完了いたしました。当ギルドはあなた方の今後の活躍を期待しております」
これにて、俺たちは無事に冒険者となった。
━━━━━━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございます。
「せっていはだいじ」と思われた方は、
下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。
執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます