第12話 「レオン様、次はどうすればいいですか?」

 冒険者登録を完了させた俺たちは、ひとまずギルドロビー内にあるテーブル席へ着いて今後の方針を話し合うことにした。


「……ひとまず、パーティーメンバーを探すところから始めてはいかがでしょうか」


 木製テーブル対面席のアズが言った。


 異論はない。いくら隠しボスティアに鍛えてもらったとはいえ、それだけで運命シナリオを打破できるなどと自惚れてはいない。ここで実力者を仲間にできればレオンが生き延びる可能性もぐっと上がるはずだ。


 もちろん俺の仲間になるということは、やがて訪れる悪魔カラルリンラスボス一味の襲撃イベントに巻き込まれることを意味する。


 すでにアズを引き込んでいる以上いまさら偉そうなことなど言える立場ではないが……それでもあえて言わせてもらえば、不用意に他人を危険にさらすのは気が咎め

る。襲撃を生き延びられるだけの力を持った者を選びたい。


 ついでに言い訳を重ねさせてもらうと、俺がひとりで"原作LOA"の舞台外へと逃げないのは『千里眼的な能力で見つかるので無意味』なだけではない。


 仮に『俺ひとりで山奥など人のいない場所に引き籠もった』場合、短期的に見て襲撃の巻き添えとなる人物はいないだろう。犠牲者は俺ひとりに抑えられる。


 だが、同時にカラルリンたちの企みを知る人物もいなくなる。


 "原作"ではその場に居合わせた主人公パーティーがギルドへと報告を行った結果、人々に『悪魔が"魔界への道"をふたたび開こうとしている』と認知されることとな

り、主人公たちは依頼クエストを通じてそれを阻止する流れとなる。


 もし俺が『引き籠もった』場合、悪魔の企みは秘密裏に進行することになってしまう。人々が異変に気づいた時にはもう手遅れ――そのような可能性は避けねばならない。俺はあくまで"原作"から逸脱せず、そのうえで"原作"に抗わねばならない。


 ……色々言ったが、要するに『仲間は欲しいけど、誰でもいい訳じゃない』ということである。


 実際、"原作"のNPC冒険者の中には『中盤辺りで限界を感じ、引退してしまう』『ほどほどの成果で満足し、それ以上の向上心はない』といった人物もいる。それが悪いとは言わないが、少なくとも俺たちのパーティーに勧誘するにはいささか酷な人選である。


「そうだな。できればふたりほど追加しておきたい」


「はい」


 ふたり追加――つまり"原作"と同じ四人パーティーを考えている。


 "設定資料集"によると、冒険者パーティーが四人である理由は『それがちょうどいい人数であるから』とされている。


 人は他者との連携により、ひとりの時よりも大きな力を発揮できるようになる。だから仲間が増えればそれに比例してパーティー全体の戦闘力もどんどん増加していく――と、そう単純にはいかない。


 ひとりであれば他人を気にせず自分の都合のみで武器もスキルも扱える。だが仲間がいる状態でそれをしてしまえば同士討ちの危険が生じる。また効率のいい連携のためには互いの位置取りにも気を配らなければならない。


 言い換えると、いち個人が出せる力に制限が付くようになるのだ。


 人数が増えれば各々が気を配るべき対象も増える――すなわち制限も増える。総合的な戦闘力は確かに増えていくが、その増加効率はどんどん落ちてしまう。


 ものすごく乱暴なイメージを示せば、『1+1』の答えが2ではなく『1.8』となり、『1+1+1』なら『2.4』となる……といった調子であろうか。


 それに多人数となれば食料や医薬品などの物資もそれだけ増加するし、費用もかさむ。ひとり当たりの報酬取り分も減ってしまう……といったデメリットも考慮しなければならない。


 それらを総合すると、四人くらいが戦力増加のメリットと各種デメリットの釣り合いがもっとも取れた状態、とされているのである。


「……前衛は俺とアズで十分。なら後衛をふたり追加するのがいいだろう。できれば攻撃役とサポート役をひとりずつだ」


「ですね」


「そして――なんらかのユニークスキルを持っている者たちが望ましい」


「さすがはレオン様。厳しい目線で仲間を選別してこそともに大志を抱くにふさわしい人物と巡り会える――そうお考えなのですね」


「……いや、ちょい待って」


 即答するアズを手で制す。


「はい?」


「自分で言っといてなんだけどさ。俺としては『ユニークスキル持ちとは基準が厳しすぎやしないか』的な反応を想定してたんだけど……」


 なにしろ独自ユニークなスキルだ。効果は高いがそうポンポンと習得できるものではない。


「はっ!? こ……これは失礼致しましたっ! ここは『まず驚いて、理由を聞いて感動する』パターンが正解でしたか……っ!」


「……なんか俺が『自分から反応催促するメンドクサい奴』みたいだからやめて?」


「――ええっ!? ユニークスキル持ちっ!? レオン様、それはいささか基準が厳しすぎではありませんかっ!?」


 止めるのが遅かった。……はい。俺が自分から反応催促するメンドクサい奴ことレオン・マイヤーです。


「…………そ、そう思うかも知れないけどさ。本気で"賢者の秘宝"を狙うなら相応の実力者がいたら嬉しいな、って思うしさ……」


「ここですね。……さすがはレオン様っ!! 厳しい目線で仲間を選別してこそともに大志を抱くにふさわしい人物と巡り会える――そうお考えなのですねっ!!」


「声大きいよっ!?」


 ひときわ気合いの入ったアズの声が広いロビー内に響き渡る。おかげでめっちゃ注目を集めてる。『なにやってんだあいつら?』的な視線を痛いほどに感じる。


 …………はい。俺ことメンドクサい奴です……。


「…………ま、まあ仮に集まらなかったら妥協すればいいからね? まあ、つまりそういうことだから」


 もちろんそれは建前であり、本音はさっき触れた通り『運命打破のために実力者が欲しいから』である。


「得心致しましたレオン様っ!! なれば御意のままにっ!!」


「声大きいっ!!」


 なんかロビー中の注目集めちゃってるし。アズは平然としているが、めっちゃ居心地悪い。


 ……どうにもこの空気には耐えられそうにない。場を収めるためにもここはいっそ開き直って謝罪と挨拶をしておこう。


 そう、挨拶だ。"原作"のクズ男爵レオンであれば決してやらない(※格上の貴族・権力者は除く)行為。些細なことだが、ひょっとしたら運命を変えるきっかけくらいにはなる……のかも知れない。


「……皆さん、お騒がせしてすみませんでした!」


 俺は席から立ち、ロビーを見回しつつ頭を下げる。


「さっき登録を終えたばかりでちょっと興奮していただけですので。……俺はレオン・マイヤーと言います。新参者ではありますが、どうぞご指導ご鞭撻べんたつのほどよろしくお願いします」


 周囲の反応は悪くなかった。ある者は苦笑いを浮かべ、またある者は『おう、がんばれよー』と声をかけてくる。いずれも納得したようにひとり、またひとりと視線を外し、それぞれの意識を本来の用事へと戻していった。


 よかったよかった――と思った辺りで、じっと俺を見つめてくる金髪男の存在に気づいた。


 ぱっと見の年齢は俺と同じくらい。背中の長剣を見るに前衛。受付カウンターの前に立ち、首だけをこちらに向けながら注視してきている。


 ……どうやら彼も新人冒険者らしい。突然のことで驚いたのだろうか。


「……すみませんでした。ご迷惑でしたよね」


 俺は席を離れつつ、改めて金髪男へ頭を下げた。


 信頼は貯金、不信は借金。細かな積み重ねが将来に差となって現れる。印象をよくするためにも念を押すに越したことはない。


 進んで友好的な態度を取れば、相手もそう邪険には扱わないだろう。


「俺もさっき冒険者になったばかりの新人です。色々と大変かも知れませんが、お互いにがんばりましょう」


 近づきながら言うと、金髪男もカウンターから離れてこちらへ歩み寄ってきた。うんうん、やはり誠意を見せれば相手も誠意で応えてくれるものだ。


 ……いや? "歩み寄る"と言うにはちょっと大股すぎやしないか? しかもなんか加速してないか? 瞳が妙にギラついてないか? それになぜ飛びかかるように姿勢を低くして――



「――死ぃねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ―――――――――――っ!!」



 ――冒険者生活初日。


 俺は初対面の男から怒声とともに繰り出された跳び蹴りを、とっさに床に身を投げ出して回避していた。


 誠意に殺意を返されることもあるのだと初めて知った。



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