第5話 ユニークスキル、ゲットだぜ
翌日の朝。俺はひとり、木漏れ日の落ちる静かな森の道を歩いていた。
ここは"イーディア森林・西部"。
"
設定によると、この辺りは魔物の発生を抑える"聖樹の加護"の影響が非常に強い地域であり、おかげでごく少数の弱い魔物しか存在していない……ということになっている。町や村が近くにある影響で周辺の治安もよく、おかげで子供がひとりで出歩くのも余裕なのである。
付き人はいない。アズも屋敷でお留守番中である。当然『私もお供します』と言われたが、なんとか適当にごまかしてきた。
なにしろこれからゲーム知識を前提にした行動を取るのだ。当然怪しまれるだろうし、仮に『俺は転生者でここはゲームと同じ世界なんです』なんて説明しても信じてもらえない――いや、アズならあっさり信じそうだが、ともかく不審がられないためにも余計なことを言いふらすつもりはない。
そういう訳で、現在の俺は手荷物片手に単独行動中である。要所要所でゲームと同じ風景が広がっているのに感動しつつ、道なりにのんびり歩いていく。
やがて開けた場所に到着した。
道はここで途切れている。"原作"でも
「……確かこの辺り……」
俺は前世の記憶を頼りに、壁のようにそそり立つ茂みの一角をさぐる。
……あった。
濃密な茂みの一ヶ所だけ、見た目よりも植生が薄い箇所を発見した。手でかき分けてやると道が先へと続いているのが見えた。
いわゆる隠し通路だ。
ゲームでは本来、クリア後でなければ通れないはずの道である。たとえ事前に情報を得た二週目以降のプレイヤーであっても"酒場にいるNPCから噂話を聞く"フラグを立てなければ通行不可能――そのはずである。
だが"現実"となったこの世界、フラグによる縛りは存在しない。物理的に道が続いている以上、進めない道理などないのだ。
……などとドヤ顔で言いつつ、内心ほっとしているのはここだけの秘密だ。
いやほら、『なんかの間違いで通れませんでした』ってオチだったら嫌じゃん。そもそも
それはともかく、隙間に体を押し込みつつ先へと進んでいく。
やがて視界が開け、古びた石造りの建造物が姿を現した。
ぱっと見の印象は小さな舞台、といったところか。たった二段しかない階段の上は前世で言う六畳間ほどの平らな石畳の床。四隅にある四角い石の柱はなにを支える訳でもなく青空に向かって伸びている。
「……頼むぞ~……」
俺はつぶやきつつ、階段の手前に設置された石板状の物体へと近づきそっと手を触れる。
変化は劇的だった。
瞬間、舞台からまばゆい光が立ち上り、石畳の上に魔法陣らしき円形の紋様が白い光によって描かれていく。四隅の柱にも光のラインが昇り、そこを起点に向こう側がはっきり透けるほど薄い光の幕が張られていく。
これは古代に造られた転移装置だ。これを使うことによって通常では入れない隠しフィールドへと移動可能となる。
なんでも実験段階で造られた代物であり、そのため始点・終点ともにへんぴなところに設置されているらしい。
俺は舞台の中央へ立つ。そのまま全身が光に包まれ、視界が真っ白に染まった。
光が収まると眼前には荒涼とした風景が広がっていた。
先ほどまで林立していた樹木も、いまでは丈の低いものが申し訳程度に生えているだけ。空は黒々とした雲に覆われ、足元も周囲も灰色の岩ばかりが目立つ。
"原作"通りであれば、ここはとある岩山。作中では『???』と表記される名称不明の場所である。
本来はクリア後に立ち入る場所であるが、なぜか"聖樹の加護"の影響が少ないにも関わらず
俺がここに来た理由はふたつ。まずは簡単な方から済ませよう。
俺は転移装置から下りて山道を歩く。とはいっても原作では三画面分しかない狭いフィールドだ。すぐに目的の場所にたどり着いた。
切り立った崖のすぐそば、洞窟とは呼べないくらいの浅いくぼみのなかにふたつの宝箱が置かれていた。
はやる気持ちを抑えつつ、俺は身をかがめて宝箱を開いた。
「……しゃ!」
原作通りの品物が中に収まっているのを確認し、思わず拳を突き上げた。
片方は種。もう片方は本。
一見大したものではないように思えるがさにあらず。ともに原作プレイヤーであればいまの俺と同じく拳を突き上げて喜ぶレアアイテムである。
もっとも重要なのが種。これは"スキルシード"と呼ばれるアイテムであり、使用すると対応するスキルを習得可能となる。
軽く説明すると、まず"原作"では魔法や剣技などを総称して『スキル(Lv制)』と呼んでいる。正確にはアクティブやパッシブなどの種類に分かれるが、ひとまず割愛。
本作はいわゆるスキルツリー形式が採用されており、スキル習得の流れは『ツリー解放 → スキルポイントを消費して習得 or 強化』となる。
そしてスキルの中でも特別に貴重で効果が高いものは『ユニークスキル』と呼ばれている。
今しがた俺が入手したスキルシードこそ、まさにユニークスキルを習得可能なものなのである。
その名も〈
要は死ぬような攻撃を食らってもギリギリ死なずに済むスキルなのである。
しかも下位スキル〈不屈〉の場合は一回の戦闘中に一度しか発動しないのに対し、こちらは『戦闘中に何度も発動可能』。ただし『発動確率は初回のみ100%、以後は発動ごとに確率が下がる』という条件はあるが。
それでも平均して二~三回の発動は期待できる。例えば
で。
さっきも言った通り、スキル習得にはスキルポイントが必要になる。ユニークスキルともなれば膨大な量のポイントを要求されてしまう。
一方、"原作"でのスキルポイントは戦闘でチマチマ稼がなければならないものだ。"現実化した"この世界ならば日々の鍛錬でも微量入手できるのを確認できたが、いずれにせよ習得までの道のりは長いだろう。
普通なら。
そこへ登場するのが、もう一つの宝箱の中身である。
その名も"技術の指南書・奥義編"。使用するだけでスキルポイントを入手できるアイテムだ。
実に都合がいい。なんかもう開発者からの『いま使え』という
……まあクリア後のエンドコンテンツは
なんにせよこれで俺はいつでも
そして次は――
『――転移の反応があったと思えば……』
唐突に、女の声が周囲へ冷たく響き渡った。
……いや待て。"原作"では
軽い戸惑いを覚えつつ、俺は声の響いた方向へゆっくりと首を向ける。
巨岩の上に立つ影――それは巨大な狼だった。
見上げるほどの体躯。薄暗い空に神々しく映える純白の毛。鋼鉄すらも軽々と切り裂く爪。血のように紅い瞳が妖しく輝き、俺を見据えていた。
あの大狼こそ、俺がここに来た二つ目の理由。
その名は『神獣アルスティア』。
"原作"における
━━━━━━━━━━━━━━━
お読みいただきありがとうございます。
『ユニークスキルめっちゃ欲しい』と思う方は、下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。
執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます