第4話 ※なお彼女らの今後の出番は特にないものとする

『――あら。あれはレオン坊ちゃまだわ。今日も剣術のお稽古熱心ね』


『アズちゃんも一緒ね。あのふたり、相変わらず仲がいいわよね』



『……それにしても、本当に坊ちゃまはお変わりになられたわね……』


『ええ。昔はその……やんちゃが過ぎるところもあったけど……』



『それが今では嘘みたいに丸くなられたわ。私たち使用人にも分け隔てなく接してくださる優しいお方に成長なされて……』


『それに頼もしくなられたわよね。見て、あの凛々しい眼差し。まだ遊びたい盛りでしょうに、お勉強もお稽古も毎日文句のひとつも言わずに励んでおられるわ』



『成績も腕前も優秀なのだそうよ。教育係も教え甲斐があると張り切っていたわ』


『きっと素敵な殿方に成長なさるでしょうね。……個人的には半袖の似合う男児である現在の状態が完成形なのだけどね……』



『ええ、とてもよく分かるわ。見て、剣を振り上げるたび服のすそからチラリと覗くきめ細やかな幼い肌。……舐めてえ』


『それに、隣にはまるでお人形さんのように可愛らしい幼女。よこしまな意味合いでとても絵になる光景だわ。……吸いてえ』



『しかも私たちは仕事で坊ちゃまのお召し物をお持ちする際、お着替えの様子をじっくりなめ回すように観察できる特権的な立場よ、ふぇへへへへへへ……』


『不審者扱いされず間近で合法的にロリショタを堪能できるこの職場。まったくたまんねぇわよね、うへへへへへへへ……』



『……は? "ショタロリ"でしょ言い間違えんなよ順番重要ぞ?』


『……は? 言い間違えてないでしょ面倒くさい奴ねあんたがおかしいだけでしょ頭湧いてんの?』



『は? なにそれ喧嘩売ってんの? 売ってんのよね? 買うぞ?』


『は? 喧嘩な訳ないじゃないのなに言ってんの。――宣戦布告よ』



『………………(飛び散る火花)』


『………………(切り結ばれるメンチ)』




『 ン の か コ ラ ァ ァ ァ ッ ! ! 』


『 ッ ス ぞ オ ラ ァ ァ ァ ッ ! ! 』




『テメェちょっとツラ貸せやァッ!! 二度とフザケたクチきけねぇようにしてやンよぁあンッ!?』


『上等じゃあッ!! 身のほどってモンを理解わからせてやろうじゃァないのよぉおンッ!?』



『イキッてられんのも今のうちなんだよぁアッ!? オメェもう泣いて謝っても許さねぇからなッ!? ア゛ア゛ッ!?』


『ナマ抜かしてんじゃねェぞッ!? テメェのそのきれいな顔ベッコベコに凹ませてやッからよォッ!? ア゛ア゛ッ!?』



『……え? きれい……って、私が……?(トゥンク……)』


『……あっ……(思わず口元を押さえる手)』



『………………(潤んだ瞳)』


『………………(絡み合う視線)』



『…………あ……そっ、そろそろお仕事に戻らなきゃっ』


『…………そっ、そうねっ』





















『――くそっ、挟まりてえ……っ(物陰からふたりの様子を一部始終見守っていたマイヤー男爵家長男・ブラッド)』













 ……今日もつつがなく剣術の稽古を終えた。穏やかな日差しが降り注ぐなか、さわやかな風が火照った肌を優しくでていく。なんの変哲もない、ごくごくありふれた平和な午後のひとときであった。


「お疲れさまでした、レオンさま」


 手ぬぐいで汗を拭っていると、アズが右手の錫合金ピューター製コップを差し出して来た。中身は水だ。空いた左手には自分の分も握られている。アズも『従者として主を守る力が必要』と言って稽古に参加しているのである。


「ありがとう」


 アズからコップを受け取り中身を飲み干す。乾いた喉に染み入る美味さだった。


 貴族の義務&運命イベントを生き延びるために始めた武芸の鍛錬であるが、最近はもっと前向きに取り組めるようになっていた。もちろん疲れるし、布に包まれた木剣とはいえ打たれれば痛いのだが、同時に上達の喜びを楽しむ心の余裕も持てるようになった。


 運動する暇があったら家でゲームやりたい種類の人間だった前世からは考えられない心境の変化である。もっとも上達の喜びはゲーマーにとっても身近なものである

し、ある意味素地は前世で育てられていたと言えるのかも知れない。


 ちなみに、原作『聖樹伝説アガスティアLOA』では基本的に装備できる武具に制限はない。すべての武具を全キャラクターが装備可能なのである。


 ではキャラになにを装備させても十全に力を発揮できるのか?


 否。得意なものを装備させたほうがより武具の性能を発揮できる。


 その得意武器を決めるものが『マスタリースキル(Lv制)』である。


 マスタリーLvが高いほど、各装備品のパラメーター補正率が高くなるのだ。


 たとえば『槍マスタリーLv1』より『Lv5』の方が槍を装備させた時の攻撃力上昇幅が多い。つまり"槍の扱いが上手い"ということになる。


 そして魔法的な力が普通に存在するこっちの世界では、魔力によって戦闘能力レベルやら各種技能スキルやら、いわゆるステータスを任意で空中に表示し確認することができる。


 ゲーム設定によると、ステータスとは『この世界には魔物など人に危害を加える存在が身近にいるため戦闘能力は重要視されている。そのため、戦闘能力を数値で表し自身の力を客観的に把握できるよう人の手で作られたもの』……とのこと。


 で。


 俺が主に鍛えているのは片手剣と盾。


 現在のマスタリーLvはそれぞれ3。最大が10なので、年齢を考えれば結構な高さであると言える。というかスタート直後の主人公より高い。


 原作のレオンも片手剣と盾を使用していた。仲間にならないためゲーム中では確認できないものの、有志による解析にて判明した隠しデータでも剣と盾、それぞれのマスタリーLvが高く設定されていた。


 おそらくレオンはそれら武具の扱いに才能があるのだろう。実際、作中でもしばしば天才を自称し、序盤では相応の成果を上げる場面もある。


 もっともそれが高慢な性格の原因のひとつにもなっており、また才能にあぐらをかき続けて強化を怠った結果、中盤以降はどんどん失速していくことになるのだが。


 同じ轍は決して踏むまいと肝に銘じつつ、恵まれた才能はありがたく活用させてもらおう。


 ……あと死にたくないので防御面強化しときたいし。盾万歳。


 一方、アズの場合は戦槌を得意としている。両手で持つため盾が装備できず、防御面に不安こそあるものの、その分攻撃力が高い打撃系武器種である。


 マスタリーLvの方はと言うと……なんとすでに4もある。筋力STRも並の大人では敵わないほどに高い。はっきり言って、純粋な攻撃面では彼女の方が上である。


 賢いだけでない。アズは戦闘能力的な意味合いでも才能がある。原作でレオンの仲間として登場しなかったのが不思議なくらいである。


 今となっては確認する手段もないが、設定資料集に記されていた『レオンが虐待していた従者』とはおそらくアズのことだろう。原作のレオンは彼女の才能を活かすことなく潰してしまったのだ。


 レオンの所行にあきれつつも、俺は現状に光明を見出していた。


 レオンが元々持っていた才能に、アズの才能。この両者を適切に伸ばしてやれば

運命シナリオ打破の大きな力になってくれるはずだ。


 ……とはいえ。


 レオンへの襲撃イベントが起こるのは終盤に差しかかる辺り。キャラのLvがだいたい40を越えたくらいの時期である。


 対してラスボス戦の推奨Lvは60。つまりそのままでは勝ち目がない。極まったプレイヤーによる低Lvクリア動画も存在してはいるのだが……同じことが俺にできるとは思えない。


 このまま普通の稽古を続けるだけでは不安だ。今のうちにさらなるテコ入れをしておいた方がいいだろう。


 ならば。


 さらなる優位性確保のため、ここはひとつ原作知識を利用してみよう。



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