第14話 高難易度ミッション

マルスたちはマルガスの部屋へ向かうことになった。

部屋の中に入るとソファが2つ向かい合うように置かれており、その間にはローテーブル。


「マルス。そのローテーブルの上にクリアファイルがあるだろ?その中に縁談の申し込み用紙がある」

「分かりました」


マルスはソファに座りローテーブルの上に置かれたクリアファイルを手に乗った。


「なんか分厚いな?このファイル。紙何枚入ってるんだ?」


クリアファイルから紙を取り出す。

ずしりと重い。


紙は履歴書みたいになっており、顔写真と名前、それから簡単な自己紹介が書かれている。


それが確認すると何枚も入っていた。


「何枚あるんだ?これ」


マルスは縁談の申し込むは一枚……てっきり縁談なんてひとつだけだと思っていた。

そのためこんなにあることには驚いていた。


「これ全部俺への縁談なのか?」


50枚くらい申込書があった。

つまりマルスに対して縁談を申し込んでいる人数は単純計算50人くらいいるわけで……。


(これ、モテ期ってやつか?やばくないか?)


前世では女の子とまったく縁のなかったマルスにとってこれだけの縁談の申し出は非常に新鮮なものであった。


(まるで面接官になったようだな)


マルスが日本人だったときは、履歴書は出す側であったのだが、それを受け取る側になるとは思ってもいなかった。


(そんなことは置いておいて、目を通してみるか)


ペラペラペラ。


資料を流し見していく。

男爵、子爵、伯爵家……。


様々な階級の貴族が娘をマルスと結婚させたくて、必死に縁談を申し込んできていた。


50通くらいは来ているように見えた。


(すごいモテモテだなぁ)


「みんな可愛いなぁ、ふふふ。みんなと結婚したいなぁ」


ふと理想を呟いたマルスだったがマルガスは笑っていた。


「全員妻にするのか?」

「無理だよね」


諦めたような顔でそう言ったマルス。

しかし、マルガスは逆にキョトンとしたような顔をしている。


「何を言っておる?お前には許されることだぞマルス」


(あー、そうか。俺貴族の子供だもんな)


何人でも妻にするのは可能だということをマルスは思い出した。

なにより目の前の男には妻が200人くらいいるという話も聞いたことがある。

貴族はそれだけのことをしても許されるのだ。


「お前が気に入ったのならここにあるリスト表の女の子は全員屋敷に呼べるぞ?そして、お前好みの女の子に育てることもできる」


「リスト外の子もいるってこと?」

「無論だ」


マルガスは普段使っている机から一枚の紙を取ってきた。


「これがリスト外の子だ。で、本題だが、マルスにはこの子を何としても結婚相手にして欲しいと思っている」


そこに書かれていたものを見てマルスは目を見開いた。



【サファイア・ブルーベルン】

特徴:

大公爵の娘。

皇族の親族の娘。



透き通るような白さを持った髪、青い瞳が特徴的な女の子であった。

マルスが一目見て、目を奪われるような美しさをしていた。


実際にマルスはあまりの美しさに数分間は目を奪われていた。


「マルス?マールスっ!」

「はっ……!」


マルガスの叫び声にやっと意識が現実に帰ってきた。

それほどまでに彼はサファイアという少女の美しさに目を奪われていた。


「実はと言うとな。その事の縁談はなんとか掴み取ったのだ」


「こっちから申し込んだの?」

「うむ。私の最終目標は皇族に取り入ることである。そのためには最低限でも大公爵という地位に立たねばならない。その取っ掛りとしてブルーベルン家との繋がりを持ちたいのだ」


ガシッ!


マルガスはマルスの肩を掴んだ。


「すべてお前にかかっているのだマルスよ。期待しているぞマルス」


マルスは冷や汗を流しながら聞いてみることにした。


「ちなみに縁談に失敗すれば?」


「別になにも言わん。失敗したら別の手を考えるまでだ。私はお前の失敗に対してウジウジ言うような男ではないぞ」


(失敗したからと言って特にペナルティはないんだな)


そのことにマルスは安心したが……。

マルスとしても皇族に取り入るのは最終目標として悪くは無いと感じていた。皇族に取り入ることができれば人生イージーモードだと思っているからだ。

だからこの婚約の件は最大限頑張ろうと思っていた。


だが懸念点として、実の所マルスは女の子との話し方がよく分からないし接し方も分からない。


(粗相がないように練習はしておくべきだよな)


そう思った彼はリスト表に目を戻す。


「このリスト表にいる相手は呼べるんだよね?」

「うむ。そちらのリスト表は相手が送り付けてきたものだ。つまりお前への好感度は最初からマックスである。お前が会いたいと言えばすぐにでも娘を送り付けてくるだろう」


マルスはリスト表を再度ペラペラと見た。

その中からひとり。

特に気になった女の子の名前を口にした。


「じゃあ、このミーナって子を呼んでみようかな」

「子爵の子か。呼べばすぐに来るだろうな」


「ちなみに縁談っていうのはどうしたらいいんです?」


「難しいことは考えなくていい。縁談については我々大人がすることになっている。お前たち子供がすることは相手へのアピールだ『マルスくんと結婚したい!』と相手に思わせるだけでいい」


(簡単な話だけど、すっごい難しい話だな)


自分と結婚したいと思わせるくらい相手に好きにさせる必要がある。

誰かに好かれたことがないマルスにとって、それはとんでもなく難易度が高いものであった。

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