第9話 氷原


翌朝。

マルスは部屋をノックする音で目が覚める。


「やほー、マルスくん?」


呼び声でマルスは自分が呼ばれていることを認識した。


そして、部屋の扉を開けた。


そこには、黒髪のメイド服の少女が立っている。

マルスはこの人物がどういう人物なのかはすぐに分かった。


(昨日のメイドの子供か)


「おはよ。よく眠れた?あたしはパール。よろしくね」


「うん」


マルス達は朝の挨拶を軽く済ませるとマルガスの待つ書斎へと向かっていく。


マルガスの書斎前に着いたマルスは扉をノックした。


「父上、約束通り来ました」

「入れ」

「失礼します」


マルスは扉を開けて中に入る。


中には大量の本。

そしてそれを収めるデカい本棚。


このマルガスという男がいかに勤勉な男かは一目で分かる。

ひしひしとそう感じるマルス。


「近くへよれ」


マルガスにそう言われマルス達は近寄った。


机を挟んで父親と見合う。


「これより氷原の詳細な説明を始める。各自心して聞くように」


マルスは慎重な面持ちで頷き話を聞くことにした。


特に新しい情報は無かった。


マルスが事前に調べた通りの情報を改めて説明されたくらいだった。


「それでは失礼します父上」


マルスはぺこりと礼をして部屋を出ていくことにした。


そのままマルスとパールはこの家の敷地を出て氷原へと向かう。


氷原エリアにはすぐに着くことができる。


氷原エリアは天から見下ろせばどこまでも広がる青い氷の床が特徴のフィールドである。

それを見てパールは口を開いた。


「ねぇ、知ってる?マルスくん」

「なにが?」

「この氷の床がどうやってできたか」

「知らないな」


マルスがこのフィールドについて知っていることはそんなに多くない。


氷雪王と呼ばれるモンスターが支配している、極寒の地という情報しか知らない。


そのためこのフィールドがどうやってできたのかなんて事は知らないし興味もない。


それもそのはず。ゲームで氷のステージに行ったても「この氷のステージどうやって」できたんだろうなんて誰も気にしないだろうし、それと同じことだ。


「なんでも初代の氷雪王が口からブレスを吐いて凍らせたらしいよ。それが何千年も凍ったままなんだって!」


「初代?今の以外にも氷雪王がいたんだね」

「みたいだよ。伝承によると」

「しかし、すごいね、この一帯全部氷だけどそれを全部凍らせるなんて」


マルスは素直にすごいと思っていた。


きっと自分なら一生かかってもこんなことは出来ないだろうし。


(強いんだろうなぁ氷雪王ってモンスター、うぅ、緊張するよなぁ)


そんなことを考えながら彼は氷原を進んでいく。


自分には天界で手に入れた【全剣】という最強の武器があると分かっていても、やはり本能では少しばかりの恐怖を感じていた。


そんな恐怖感を気にしないようにするためにもマルスたちは歩いた。


歩いて、歩いて、やがて氷山の前で立ち止まった。


「うっひゃー、すっごいでかい氷山だね。これは驚きだよ。氷山があるって話は聞いてたけど、これはすごいや」


パールは氷山を見上げて腰を抜かしていた。


その氷山は子供の目線だから大きく見える、ということはなく10メートルくらいはあるだろう。


だが、こういうものがあることをマルスは事前知識で知っていた。


「迂回する?この道を真っ直ぐ行けば氷雪王のいるエリアにたどり着けるみたいだけど、これじゃ進めそうにないよね」

「いや、俺に策がある」


もちろん、マルスは氷原エリアのことも細かく情報を仕入れいている。

そして、その対策も考えていた。


「こい、全剣」


スゥッとどこからともなく剣が現れた。


「え?すごっ」


音もなく現れた全剣にパールは驚いていた。

「魔術こそがすべて」な家に生まれたパールはこんな剣なんて今まで見たこともない。

それが7色に輝いているのなら言うまでもない。


「マルスくん、これでどんなことが出来るの?凄そうな武器だけど」


「見てて」


マルスは剣を上に向けて構えた。


そして、振り下ろす。


ブン!

斬撃が飛んでいく!


飛んで行った斬撃は氷山の根元から中へとくい込んでいく。


ここまではいつもと一緒だった。


しかし、ここから先は違う……


「狂い咲け。千本桜っ!」


中に入った斬撃が氷山の中で分裂した。

その数は何百……いや、何千。何万の風の刃となった。


その刃の一本一本が鋭い弾丸のようになり、氷山を食い荒らしていく。


そして、内部構造がスカスカになった氷山は……


ガラガラガラガラガラ……。


形を保てなくなり、大きな音を鳴らして崩壊した。


「すごっ。え?こんなことできるんだ。今の魔法じゃないよね?」


「うん、今のは剣術だよ」


「へぇ〜すごーい」


「それより、早く行こう。パール」


「うん、そうだね」


マルス達は崩れた先のエリアへと足を進めていく。

だが、そのときだった。


今の氷山の手前と奥で決定的に違うところがあった。


「うはっ。こんどは凄い吹雪だね。っていうか、ヒョウも吹雪いてるよ」


マルスは目を凝らした。

吹雪の中にはたしかにかすかにヒョウがあるのが見えた。


こんなものが顔に当たれば怪我どころではない。

もちろんこの吹雪に関してもマルスは調べあげていた。

そのため対策が出来ている。


「【ソードヴェール】」


その瞬間マルスとパールを囲むように無数の剣が現れてドーム状のそれが高速で回転する。

まるで、吹雪の侵入をいっさい許さないように。


ザン!ザン!


と、この無数の剣たち吹雪すらも切り裂いている。


「これ、ほんとうに魔法じゃないんだよね?」

「魔法じゃないよ」


「剣術ってすごいんだなぁ」


マルスはまだ5歳である。

思考能力は35歳である宮本明のものを受け継いでいるが、精神面ではところどころ5歳のものが垣間見える。


つまり、褒められたのであればもっとすごいことをしてみたくなる年頃だ。


「こういうこともできるよ【ソードバレット】」


高速で回転していた剣のいくつかが射出された。


ブン!ブン!


射出される剣は飛んでいくと氷原の氷の床をぶっ壊したり、氷の岩を切り裂いたりしていた。


「うはー、反応に困るなぁ」


そうして、マルスが数秒間、剣を飛ばしていた時だった。

突如、吹雪が止んだ。


「あれ?吹雪が止んだね」


マルス的にはなにかギミックを壊したのだろうか?みたいな認識だった。


「まぁいいや。警戒はしつつ、奥に進んでいこう」


そのまま慎重に進んで行ったふたり。

やがて、雪の残骸だらけのエリアに近付いてきていた。


元々このエリアは道幅3メートルくらいで左右を高い氷の壁に囲まれた通路であった。


この残骸はマルスが先程剣を射出してせいで、崩れてしまった壁の残骸である。


もちろん、このことをマルスが知る由もないが。


「なんなんだろう?この残骸」

「さぁ?あ、見て!マルスくん!」


パールは奥のエリアを指さした。


そこには謎のモンスターの死骸が転がっていた。


「あれ、ひょっとして氷雪王じゃない?!」


タッタッタッ。


パールはモンスターの死体まで近づいて行った。

マルスも近付くと、しゃがんで死体を確認した。


無数の剣に切り刻まれたせいで、死体の全身は細切れになっていた。


だが、なんとか頭部を探し出してマルスは顔を確認する。


「白い体毛、2本の角。事前に調べた特徴と一致してる、こいつが氷雪王だ!」


マルスは氷雪王の死体を抱えて、今来た道を帰っていくことにしたのであった。


(いやー、案外すぐに終わってしまったなー。本当はもっと長丁場になると思ってたから、早く終わって良かったー)

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