第6話 【セレス視点】


セレスという少女は神童と呼ばれていた。


生まれつき体の中に保有している魔力量は頭抜けていた。

この世界で神童と呼ばれる条件は主に3つ存在する。


1つ目、シンプルに魔力量が多い。


2つ目、使用出来る魔法の種類が多い。


3つ目、異常なまでの成長速度。


その3つ全てをセレスは持ち合わせていた。


ただそれだけに神童と呼ばれるだけでは開き足りなかった。


国宝と呼ばれることもあった。

通常、この世界では貴族が子を産んだ場合は基本的に国王などの王族に伝える必要がある。

そして、王族の目から見ても生まれた子供に才能があった場合国を上げて育成することになる。


もちろん国宝とまで呼ばれるセレスはその対象となった。


幼少期より素晴らしい魔法使い達が師となり彼女ひとりを教えこんできた。


その結果、セレスは驚くべき速度で成長した。

しかし、彼女は3歳になった時点で心の中で気付いてしまう。


(私はなんのために魔法の練習をしているの?)


魔法だけではなく、その他多くの練習には目標が必要であろう。

勉強をするのだっていい点数を取りたい、いい未来を掴みたい。

そういう思いがあってやるのだろうが、彼女の場合はそれがなかった。


無理もないことである。

生まれた直後からたくさんの師に囲まれてとりあえず魔法の練習をさせられているだけなのだ。

他のことはいっさい知らないし学べない。


本来であれば他の子供たちが遊んだりしている時間、セレスはずっと魔法の練習に打ち込んできた。


そんなある日のこと。

彼女の元に一人の男と一人の男の子が現れた。


男はマルガスと名乗り自分の父親だと名乗った。

男の子はロイと教えられ自分の結婚相手だと伝えられた。


(ロイというやつは気持ち悪いやつだった)


セレスのことをまじまじと見つめてニヤニヤしていて、セレスは直感的に気持ち悪いと思ってしまった。

結婚というものもよく分からないけど、意味を聞いた瞬間絶対にしたくないなと思うくらいのもの。


でも父親の決定は絶対らしく彼女に自由は与えられなかった。


徹底的に外部に触れることはできずに、食事は味の薄いものばかり。

寝ている時間以外はほとんど魔法の練習。


死ぬまでこれなんだろうか?


そう思っていた矢先に終了の声が聞こえた。

どうやらこれで練習は終わり家に帰れるそうだ。


それで迎えには自分の兄であるマルスがやってくることも聞いた。


この出会いでなにか変わるのだろうか?

彼女はそんな期待をしながら今日までの日々を過ごしていた。



王都での生活も最後の日になって、兄であるマルスがセレスを迎えに来た。


マルスは話に聞いていた通りの雰囲気をしていた男だった。

そして彼女はこの4年間でこう教えこまれていた。


『魔法こそ至高』

『魔法が最強』

『魔法以外は無価値』

『この世界は魔法使いによって回っている』

『剣士はゴミカスである』

『剣士に存在価値なし。剣士とは話す価値無し』


この世界では近年魔法使いの成長が著しかった。

よって、一部の魔法使いたちは自分たちこそ至高であり、剣士に存在価値などないと言うようになっていた。

特に王都ではその流れは顕著であった。


そして、その流れや雰囲気などはセレスにも届いている。


そんな状態でセレスはマルスにであってしまった。

どうしても色眼鏡で見てしまうものであった。


彼女のなんとも言えないマルスへの反応はここから来るものだった。


だが、彼女のマルスへの印象は馬車に乗り込むと徐々に変わりつつあった。


セレスはいつも周りの人物たちに……


神童として接されてきた。


しかし。


マルスは……


妹として接してくれていた。


セレスにはその接し方がとても嬉しく暖かいものに感じていた。


そして、途中でマルスから渡された焼き鳥。


味が付いていて、こんなにもアツアツの食べものを食べるのは初めてだった。


ひと口食べると余りの美味しさに涙が出そうになった。


こんな美味しいもの食べ事なんて今までなかった。

いつも味のない冷えた食事ばかり食べていたのだから。


だから焼き鳥を食べた時は、まるで天にも登るような気分であった。


そして、この瞬間セレスの胸の内にあったローソクには火が灯るような感覚であった。


こんな感覚を教えてくれたのは兄様が初めてであった。


そしてセレスは確信していた。


(このまま兄様といればいろんなことを教えてくれそう。きっと、兄様なら私の事を愛してくれる)


もしも……


運命の相手というものが存在するのならば。


きっと、マルスなんだ。と言うふうに、セレスは察していた。


だから彼女は脳内で囁くのだ。


『あぁ、愛しております兄様。私と結婚しましょう』


この胸の内に灯ったローソクの火。


消えるまであなたに添い遂げましょう。


ふふふ、ふふふふふふ……。


(ですが、実際に結婚するとなるとまだ問題はありますね)


それは……マルスが剣士であるということだ。


(私たちが両思いだとしてもきっとマルガスは結婚を許可しない)


セレスは自身が優秀で天才で最強なことを理解していた。


そんな自分とただの剣士である自分の結婚なんて周りからは許されない。


(この現状どうにかなるといいんですけどね……)


この現状がなんとかならないのであれば彼女はマルス相手に完全に心を開くつもりにはなれなかった。


心を開いてしまえば、結婚できなかったとき、きっと自分が酷く泣いてしまうのではないかという懸念があったからだ。


だから、今はあえて距離を置く。


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