第4話 移動と食事
マルスはスノーマジック家専属の御者が所有する馬車に乗り込んだ。
「初めましてですかな?マルス様。私はジールと申します」
「たぶんね。よろしく」
「話は伺っております。妹のセレス様が待つ王都まででしたよね?少し長旅になると思いますがお楽しみください」
馬車はパッカラパッカラと音を鳴らしながら走り始めた。
スノーマジック家から王都まではおおよそ1000キロはあると言われている。
ちなみにこの馬車は時速100キロ以上は出せるので、10時間程度あれば王都までたどり着ける計算となる……のだが。それはなにもなかった場合の話である。
ちなみにだが、王都までの道のりには建物や集落などはほとんど存在しない。
その理由はこの平原にはモンスターが出現するためである。
家を建てても建てても襲われて壊れて修繕にかかる費用だけが増えるので誰もこの土地を活用しなくなった。
ジールは空を見上げながら口を開いた。
「マルス様」
「なに?」
「こういう話は知っておりますかな?」
ジールは王都まで続く平原にまつわる話をし始めた。
「この平原には昔ガイヤドラゴンという、強力なモンスターが存在したことを」
「知らないな」
マルスがこの世界に来たのは一週間ほど前である。
この世界に関してはまだまだ知らないことが多いし、それが昔話となると余計に知らない。
「なんでも最近は都市伝説でそのドラゴンをまた見かけるようになったという話が出回っておるのですよ」
「へぇ」
「出会ってみたいものですな、ガイヤドラゴン」
ジールは遠い目をしていた。
「そうだ、マルス様」
思い出したようにジールはマルスに声をかけた。
ガサゴソとカバンに手を入れて何かを探している様子である。
そうして、出てきたのは……食パンのようなもの。
「なにそれ、食パン?」
「そうです。いかがですか?料理人から話は伺っております」
料理人はロイがマルスの食事に細工をしていたのには気付いていた。
しかし、料理人はロイのことを止められなかったのだ。
ロイは家の中でもかなりの地位にある存在。
そんな存在がなすことに口出しをすれば、間違いなく首が飛ぶ。
そのため料理人は苦渋の末、こうやってジールに後でマルスに食べ物を渡すことを要求した。
「いいの?」
「毒味は必要ですか?」
「いや、いいや。それよりありがとう」
マルスは別に人を信用しやすいタイプではない。
毒味が必要ないと思った理由については色々とある。
ひとつが、マルスを殺して得られるものなんて何も無いからだ。
ふたつめが、そもそも彼らにマルスを殺す理由がないから。
そして、最後は彼には天界で修行した時に授かった【毒無効】というスキルがあるからである。
そのため仮に毒を食わされたしてもなんの問題もないわけである。
「ジール、卵を持ってたりしない?」
「卵はありませんなぁ」
「そっか。仕方ないね」
だがマルスにはちょっとしたこだわりがある。
それは、お腹がすいた時に食パンを食べるのであれば、いわゆる目玉焼きトーストを食べたいというこだわりだ。
だが、ないのであれば仕方ない。
「はむっ」
マルスは食パンを少しだけ加熱して食べた。
加熱はもちろん魔法の【ファイア】で行っている。
魔法を満足に使えないマルスだけどこうやって簡単な加熱をする程度なら問題なく実行可能なのだ。
「サクサクしてておいしー」
「料理長も喜んでいると思いますよ。ふふふ」
ジールは天空を見上げた。
「人の領域を離れたのでモンスターが多くなってきましたなぁ」
マルスも確認するために上を見た。
そこには多種多様なワイバーンなどが飛んでいた。
「ねぇねぇ、ジール」
「なんでしょう?」
「あいつら焼き鳥にしたら美味いかなぁ?」
「さぁ、どうなんでしょうね。ははは」
マルスは【全剣】を取り出すと進行方向にいた鳥に向かって斬撃を放った。
「へっ?」
もちろん斬撃が飛んでいくのはジールの目からも見える。
斬撃は複数飛んでいって、それがワイバーンをバラバラにした。
飛ぶ力を失い、ワイバーンの死体……というか細切れの肉が平原へと落ちてくる
その間も馬車は止まらず進行。
「よっと」
マルスは車窓から身を乗り出して肉を少しだけ回収するともう一度椅子に座り直した。
「ファイアっ」
火で加熱すると煙が出てきた。
それはもちろん、日本で鶏肉を焼いていた時と同じような煙で、匂いも同じだ。
「お〜うまそ〜。いっただきま〜す。はむっ」
飛び出す肉汁。
鶏肉本来の旨みが口の中に広がる。
どこの世界でも鶏肉は美味いものだも再認識するマルス。
「マルス様。残りの死体は良かったのですか?」
「いいよ。他のモンスターが食べるだろうし」
マルスは後ろを振り返った。
すると我先にと他のモンスターが死体に集まって食い散らかしていた。
命の無駄遣いは起きていない。
こうなる事まで理解していてマルスはワイバーンを殺したのだ。
それからマルスは余っていた肉をジールに見せた。
「ジールも食べる?」
「ぜひ、ちょうだい願えますか?マルス様」
「はい」
火を通して渡してあげるマルス。
ジールは肉を口に含んだ瞬間叫んだ。
「お〜、これは美味いですじゃ……もうかなり長い間生きておりますがここまでの物はあまり食べたことがありませんな」
しみじみとした様子のジールであった。
そして、約4時間後。
まだ完全に日没していないくらいの時間に彼らは王都に着くことが出来た。
あの後馬車はどんどんスピードを得ていた。理由は簡単だ。
マルスが進行方向を邪魔しそうになっていたものを斬撃を飛ばして進んでいたからだ。
進行方向にいっさい邪魔なものがないのであればこの世界の馬はどんどんスピードを得ることができる。
その最大時速はなんと300メートルと呼ばれているほどだ。
馬車を降りるとマルスは国の中に入り妹と母が待つ宿屋へと向かっていった。
宿屋の店員に話を通すとすぐに2人が待つ部屋に通された。
そこには1人の女の子と1人の女性がいた。
これがマルスが初めて見た妹と母親の姿だった。
マルスは心の中で思っていた。
(俺の妹なんだけど、たしかに可愛すぎないか?これ絶対将来美人じゃん)
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