雫
春が過ぎ、草木には恵みの雨が降り注ぐ季節。
土と水が混ざり合う瞬間の香りが、
そんな時、手を差し伸べてくれたのが絢だった。優しく
一緒にいることが自然で、これから先もずっと隣にいてくれる存在だと思っていたから、
「よっ! 未来の義弟よ。なんかあったのか? いつも以上に仏頂面してるぞ」
ぼーっと外を眺めていた
「……で? お前はなぜここにいる?」
「なぜって? もちろん俺の絢さんに会いにきたからに決まってるだろ?」
「……」
「絢さん、お出かけか?」
「あぁ」
「何時ごろ戻ってくるかな〜? 絢さんの手料理食いたい」
澤木は勝手知ったるなんとかで、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「残念だったな。姉ちゃんは、デートだ」
「えっ?」
「もういいから、帰れよ」
「えっ、えっ? 絢さん……。どこのどいつと? 俺じゃ物足りないってことなのかぁぁぁぁ!?」
「絢さん、気合入れてたか?」
「別に」
「ワンピースとかだったか?」
「あぁ」
「足の先まで綺麗にしてたか? 下着とか」
「知らない」
澤木の妄想が爆発する。それを制するかのように
「もう帰れよ。俺は寝る」
そう言うと、リビングにあるソファーに身を沈め目を閉じる。澤木が何やら抗議しているが、もうその声は聞こえない。
昨日から、心の中に何かがつっかえているようで、妙に気持ちが悪い。知らず知らずの内に
こんな時いつも絢は、
そんなことを思い出し、
※ ※ ※
パチパチパチパチ。
盛大な拍手の中、絢が純白のドレスを身にまといバージンロードを歩いてくる。会場は光に包まれ、全ての人が二人のことを祝福している。
―― そうか、今日だった……。
絢は目を潤ませながら、
―― どうして、俺は……。
「誓いのキスを」
神父が誓いのキスを促す。
ベールが上がり、絢の顔がはっきりと見えた。
―― 姉ちゃん……。
二人が過ごしてきた時間が終わりを告げ、絢は新しい道へ進む。それが
―― どうして……。
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