第65話 余計なお世話だ

 話は大塚 誠が死亡する前の行動に戻る。


「説明するまでもありませんが、パーマンがあるのは阿部新川駅から三駅、『阿部岬駅』の近くです。十三時十五分から十五時十一分までの『毒林檎もどきオオトカゲ』を観たお二人は、パーマンのフードコートでクレープを食べた後、電車に乗って阿部新川駅に。そのままカフェ『グラシオソ』に来たと。電車の時刻表や移動時間を考えても、そこは間違いありません」


 竹内刑事が説明を終えると、旗本が眉間に力を入れた。


「当然じゃない。そんな嘘なんて吐くはずが無いわ! 私はただ、マー君と映画を観ただけよ!」


 ただの事実確認とはいえ、ここまで裏付け捜査をされると、疑われているような気になる。それは当然だ。旗本が怒り出すのも無理はない。

 菊川警部は慣れた様子で「確認ですから、他意はありません」と彼女を宥め、薔薇子に視線を送る。沈黙が生まれると、誰かがこの状況に不満を述べかねない。さっさと話を進めろ。そんな菊川の意思が宿った視線は、薔薇子に届くのだが、通じない。


「竹内刑事、転職活動は順調かな?」

「え?」


 いきなり竹内刑事に、棘のある言葉を投げかける薔薇子。正しく職務を全うしたつもりでいた竹内は、素っ頓狂な声を漏らし、目と眉の距離をあけてしまった。


「僕、何か間違ってましたか? また転職を強く勧められたんですけど」

「いいかい、竹内刑事。私は、大塚くんが旗本氏に会ってからの説明をするように、そう言ったんだよ? 待ち合わせの状況と時間が抜けているのさ。報告は正確に。私が警察官に求める最低条件くらい、軽々と超えてもらわなければ困る。その点、菊川警部は優秀だよ。私が警察官に求める最低条件を下回ることはない。その上、上回ることもない。こんなにも予測しやすい人はいないよ」


 薔薇子はそう言いながら、菊川警部に笑みを向ける。

 指示通りの報告をしなかった竹内刑事が責められるのは、ある程度仕方がない。だが、何故か比較対象として言葉に含められた菊川警部は、不服そうにこう呟く。

 

「余計なお世話だ」

「余計なお世話だ」


 菊川警部の言葉が二重に、低音と高音で重なって聞こえた。菊川と同時に、薔薇子も同じ言葉を吐いていたのである。

 更に薔薇子は言葉を続ける。


「と、菊川警部なら言うだろうね。ほら、言った。予測がしやすくて助かるよ」

「・・・・・・遊んでいる時間はないんだろう。竹内、報告を続けろ。大塚 誠と旗本さんの待ち合わせについてだ」


 部下がミスをすれば、上司が苦労をする。よく見ると歪だが、状況の輪郭だけを考えれば、ありがちな形ではあった。

 急かされた竹内は報告を再開する。


「十三時十五分からの映画を観るため、お二人は十二時半に待ち合わせていたそうです。阿部岬駅。そこからパーマンまでは歩いて十分。ドリンクを購入後、十三時には劇場の席に座り、映画の予告編を観ていた、と係員からの証言も得ています」

「ふむ、竹内刑事。十三時から劇場内にいた大塚くんだが、席を立った回数はわかるかい?」


 報告が一段落したところで、薔薇子が問いかけた。


「席を立った回数、ですね。菊川警部からそこも調べるように言われておりますので、監視カメラで確認しています」

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