第52話 埃の被った悪意
旗二号。誕生日十二月二十日。出会った日十月五日、マッチングアプリにて。関係性、水曜日。
木三号。誕生日七月八日。出会った日九月二十九日、マッチングアプリにて。関係性、月曜日。
井四号。誕生日八月二十四日。出会った日六月十日、ナンパにて。関係性、火曜日。
原五号。誕生日一月二日。出会った日九月二十八日、合コンにて。関係性、木曜日。
坂六号。誕生日二月二十日。出会った日七月九日、マッチングアプリにて。関係性、不定期。
上七号。誕生日九月三日。出会った日八月十二日、友人の紹介にて。関係性、火曜日深夜。
芝八号。誕生日三月三十日。出会った日三月三十日、マッチングアプリにて。関係性、金曜日昼。
リストを見た高松の感想は『数字が多い』だった。ふざけているわけではない。漢字や曜日、関係性などは比較的印象に残り記憶しやすいものだ。それに対して、意味のない数字を覚えることの難しさは、誰にでもわかるだろう。
歴史的な事件ですら語呂合わせで覚え、ようやく記憶できるというものだ。
難なく書き出した薔薇子に対し、高松は驚きの視線を送る。思わず称賛の言葉を漏らしそうになったが、また貶されかねない、と喉で堰き止めた。
「漢字と番号の組み合わせを法則とするのなら、該当者は七名だ」
薔薇子はそう言って、ボールペンの先でノートを突く。コンコンとリズム良く響く音が、彼女の思考が溶け合っていくようだった。
薔薇子のように、微かな情報から全てを解き明かすことなどできない高松は、ただリストを眺め気づいたことを口にするしかない。
「これって二号から八号までですよね。一号の連絡先はなかったんですか?」
「ふむ。そこまで考えられるなら、答えまで辿り着けるんじゃないかな、高松くん。わざわざ番号をつけるのは、何故だと思う?」
聞き返された高松は、少し考えてから答える。
「わかりやすくするため、ですかね」
「何を?」
「何を、って・・・・・・順番かな」
「しかし、出会った日はバラバラだ。年数が記載されていないから確定はできないけれど、出会った順番だとするのなら、旗二号から芝八号まで少なくとも四年近く要する。あり得なくはないが、一号が存在していない理由が宙に浮いたままだ。さて、ではこう言い換えよう。順番ではなく、順位」
彼女から突きつけられた言葉で、高松は気づかされてしまった。
「順位? まさか、女性に順位をつけて・・・・・・じゃあ、一号は本命の彼女・・・・・・そういえば、土曜と日曜は空いてる」
「あまりにも古臭く、人を馬鹿にした最低な言葉だが『二号』という俗称が存在する。埃が被った過去の悪意だよ。けれど大塚くんは、その俗称をまま用いていた。八号まで、ね。冴え渡る高松くんが察した通り、一号はおそらく大塚くんの『正式な交際相手』だよ」
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