第14話 第一発見者の証言

 第一発見者である中年男性の証言。


「名前と年齢? どうしてそんなことを聞くんだ。それに今までどこに・・・・・・まぁ、警察にも話したし、別にいいが・・・・・・私は飯島 悟、年齢は四十八。ただの会社員だ。そういえば、さっき居た女の子はどこに行ったんだ。もしかして、探偵まがいなことをしようとしているんじゃないだろうな? 事件だ、事件だと騒いでいたし、警察の邪魔をするんじゃないぞ」


 屋上に戻った高松は、飯島の口調を真似しながら声を低くして話す。表情まで苛立っていそうな飯島に似せていた。

 

「・・・・・・キミは何をしているんだい、高松くん」


 怪訝な表情を浮かべ、薔薇子は腕を組む。彼女の雰囲気から、明らかに呆れていることはわかった。


「何をって、薔薇子さんが言ったじゃないですか。一言一句、全てを教えて欲しいと」

「うん、最初に聞いておくべきだった。キミは馬鹿か? いや、馬鹿なのは私だったようだね。キミの壊滅的なユーモアセンスを推理していなかった」

「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」

「いいかい、高松くん。通常、いや正常と言い換えてもいい。一般に正常な思考の持ち主なら、一言一句漏らさずに言葉を残す場合、メモを活用するのさ。もしくはキミが持っている携帯電話。ボイスレコーダー機能も備わっているだろう? 他にも私なら十以上の方法を考えるが、物真似なんてことは思いつかない。ああ、そんなに素晴らしい方法は思いつかないだろうね、この薔薇子さんには」


 散々言いたいことを言い終えた彼女は、自分の眉間に触れながらため息をつき、下唇を噛んでから高松に手のひらを向ける。


「いや、いい。高松くん、その素人演芸大会を続けてくれるかい?」


 仕方がない。薔薇子の目はそう語っていた。全ては自分の采配ミスであり落ち度。彼の突飛な大胆さに気づけていなかった、自分が悪いのである。

 物真似を促された高松は、喉を整えてから記憶にある言葉をそのまま繰り出した。


「私がどこから見ていたか? 君と大して変わらんよ。電車を降り駅を出てすぐ、空から人が落ちてくるのを見た。別に見上げていたわけじゃないから、飛び降りるところは見てないがね。地面に衝突する寸前から目撃した、と警察にも話してある。どう思ったか? そりゃ驚いたに決まっている。一生のトラウマだ、こんなもの。あの男の表情はどうしたって忘れられないだろう。運が悪かったといえば、それまでだが」


 題目『飯島の証言』を披露し終えた高松に、薔薇子は意外そうな表情を向ける。


「案外悪くないじゃないか、高松くん。もう一度、階段を往復してもらおうと思っていたが、悪くない。あの男性の、傲慢そうな雰囲気がよく出ているよ。その言葉が一言一句正しいかどうか、私にはわからない。けれど息遣いや表情の変化を見ていると、正しいように思えるね。それは物真似というよりも演技だ。誰にでも一つくらい、特技はあるものだね」

「・・・・・・お気に召して何よりですよ。それより、薔薇子さんは屋上で何を?」

「ああ、私は菊川警部と楽しい楽しい会話を繰り広げていたよ」


 薔薇子にそう言われた高松は、自分の父親を目で探す。

 柵の近くで二人の警察官の後ろに立っている菊川警部は、明らかに疲労感を増していた。


「あの、どう見ても父さんの顔は、楽しい会話をした後のそれじゃあないんですけど」

「心配するな、高松くん。私は楽しかった」

「薔薇子さんだけ、楽しかったんですね。それで、どんな話を?」

「やはり性急だな、高松くんは。その話はもう少し後でしよう。心配しなくてもいい、クライマックスは目の前さ。ちょうど今、必要な情報は揃ったのでね。あとはチェックメイトのコールをするだけ」


 彼女は力むでもなく、言った。

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