第22話 そんなことも知らず、主人公は(アラン視点)
【side 主人公】
僕はアラン!
田舎村に住んでいた僕は、突然女神からの神託を受けて、旅に出ることになったんだ。
なんでも、この世界に蔓延る魔物は、全て魔王の仕業らしい。
魔物は人々を襲い、世界を混乱に陥れる存在だ。到底見逃すことは出来ない。
女神からは神託とともに特別な力も授かったし、僕しか魔王を倒せる人間はいない!
それに魔王を倒して世界を救えば、僕は英雄としてみんなから奉られるだろう。
英雄譚に憧れていた僕にとっては、格好の機会だ。
伝説に名を残し、英雄に僕はなる!
「助かりました〜。あなたがいなければ、今頃どうなっていたやら……」
そんな僕は旅の道中、魔物に襲われている商団を見かけた。
魔物と魔王を心の底から憎む僕にとって、無視出来ない光景だった。
だから魔物をさくっと倒し、今は商団の人々と話していた。
「気にしないで! 当然のことだから!」
そう言うと、商人たちは目を輝かせて僕を見た。
ふふふ……こうして、羨望の眼差しを受けることは気持ちい。これも英雄として当然の善行だね! この調子で旅を続けていけば、みんな僕をもっともっと尊敬するだろう!
「さすがは噂に聞く英雄様です。本当に助かりました。みんな、あなたのようになれればいいんですが……」
「いいんだ! そんなことより、もっとするべきことがあるんじゃないかな?」
「するべきこと?」
「うん。これだよ、これ」
人差し指と親指で、お金のマークを作る。
女神は言った。人々を助け善行を積むことによって、報酬が得られる……って。
今回やったことは、間違いなく人助け。
いくら尊敬されようが、旅を続けていくためにはお金が必要だ。いずれ魔王を倒すためだから、これも当然の権利だね!
「あの、その……」
しかし商人たちは急に歯切れが悪くなる。
「ん? 商団ってことは、馬車にお金を積んでるだろ? まさかお金もなしに、隣町まで移動してたってこと?」
「いや、しかし、これは旅費だったんです。隣町に着いた時に、商品の仕入れ金も残しておかなければなりません。もちろん、命を救われたのですから、なにかしら報酬を渡すべきでしょう。ですが、せめて隣町に着くまで待って……」
「んー? 色々訳の分からないことを言ってるけど、要は適当な言い訳をして、お金を払いたくないんじゃないかな? 僕がいなかったら君たち、死んでたよね? なのにお金を出し渋るってこと?」
「……分かりました。お渡しします」
渋々といった感じで、商団の長らしき人物が首を縦に振る。
ふう、面倒臭いことを言わせないでよ。
僕は英雄になる男だ。
そんな僕にタダ働きさせるなんて、許されないよね!
「あっ、そうそう。君たち、なにか悪人の話は聞いてる? 魔物じゃなくても、たとえば人々を困らせる人とか……」
「悪人……ですか」
商人の何人かが顎に手を当て、一頻り考える。
「これはあくまで噂なのですが──私たちがこれから目指す街の治癒ギルドが、とんだ悪徳ギルドらしいんです」
「ふうん?」
「なんでも、法外な料金を吹っかけ、人々からお金を巻き上げる治癒ギルドです。中には借金漬けにさせられて、奴隷のような働き方を強いられる人も……」
──なんという連中だ!
本来、傷ついた人を助ける治癒ギルドが、そんな悪どい商売をしているなんて!
罪もない人々が一方的に搾取され、苦しんでいる光景を思い浮かべると、胸が痛んだ。
「最悪なギルドだね。隣町……っていうと、セレスヴィルのことだよね。治癒ギルドにも、マスターがいるんだよね? そいつの名前は?」
「確か……マリウスという名前だったと。貴族の三男で、好き放題やっているらしいですよ」
マリウス……よし、覚えた。
もちろん、僕の最終的な目標は魔王を倒すことだ。寄り道している場合でもないだろう。
一方、善行を積み人々から尊敬されるような英雄になる……という目的もある。
世界を救った後、誰からも覚えられていないんじゃ、旅をする理由がないからね。
若干煩わしさも覚えるが、これはマストな事項だ。
「よし! だったら、僕がその治癒ギルドのマリウスってヤツを懲らしめてやろう!」
「素晴らしい行いです。とはいえ、治癒ギルドのことも、根も葉もなかった嘘かもしれませんが……」
「火のないところに煙が立たないとも言うだろう? きっとそのマリウスって男、とんだ悪人に決まってるよ」
方針は決まった。
マリウスって男を懲らしめる。そして治癒ギルドも解体させる。
もしかしたら、治癒ギルドに不満を抱いている人々の中で、僕の仲間になってくれる人も現れるかもしれない。
可愛い女の子だったらいいな。そうすると、今後の旅はますます楽しくなりそうだ。ふふふ……。
「君たちもセレスヴィルに行くんだよね。だったらこの先、また魔物に襲われるかもしれない。行くついでに、僕が護衛してあげるよ」
「ほ、本当ですか? 助かります!」
「うん。でも、護衛料は別途頂くからね? タダで護衛してもらおうと思ったらダメだよ」
「……承知しました。街で商売をすれば、少しは資金に用意が出来るでしょう。それを報酬に充てたいと思います」
「うーん、すぐに報酬が手に入らないのは嫌だけど、仕方ないか。それでもいいよ!」
報酬を待ってあげるなんて、普通しないだろう。僕はなんて優しいんだ!
つくづく、自分の善人っぷりに惚れ惚れする。
「だったら、すぐに向かおう。安心してね。僕がいたら、旅の安全は保障されたものだから!」
そう言って、馬車に乗り込むと程なくして動き始める。
マリウス……どんな男だろうか。
きっと、性根が腐りきった悪人面をしているだろう。早く、その面をお目にかかりたい。
まだ見ぬ悪徳治癒ギルドのマスターに想いを馳せながら、僕は馬車に揺られるのであった。
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