第20話 盗賊団を壊滅させてみた

「なんだ、てめえらは!?」


 ヤツらの前に姿を現すと、男どもは怖い顔をして、俺たちを威圧する。


 おー、怖い怖い。


 しかし俺がこんな雑魚ども相手に、本気でビビるわけがない。


「お前らに名乗る名前など持ち合わせていない。それに……そっちの男は、よ〜くご存知のようだが?」

「お、お前ら! ボス、あいつですよ! あっしらリンピラ盗賊団に、いちゃもんを付けてきた男です!」


 老人を苛めていた男の一人が声を上げると、ボスらしき人物が「ほお……あいつらが」と顎を撫でた。


「どうしてここが分かった……と言いたいところだが、この無能どもの後をつけてきたってところか?」

「そんなところだ」

「ちっ……こういうことがあるから、くだらねえトラブルは起こすなって教えてきたんだがな。ただ文句を言いに、ここまで来たってわけでもなさそうだな?」

「もちろん。今日でリンピラ盗賊団は解散だ。何故なら──今から俺がお前らを全員叩きのめすんだからな」

「叩きのめす……? フハハ! 面白いことを言うな!」


 俺が啖呵を切ると、盗賊団のボスは高い笑い声を上げた。


「たった二人で、オレらに勝てるとでも思ってんのか? しかも、一人は女。オレも舐められたもんだ」

「ごちゃごちゃ言ってるが、俺はこれ以上お前らとお話しするつもりはない。さっさとかかってこいよ」


 いつの間にか、他の場所から盗賊団の団員も集まってきて、俺たちは囲まれていた。

 エルザはを構え、周囲に警戒を配っている。


「度胸だけは据わってるようだ。おい──お前ら、やっちまえ。ここの情報が漏れると厄介だ。二人とも生かして帰すな!」

「「「うおおおおおお!」」」


 ボスがパチンと指を鳴らすと、一斉に男どもが襲いかかってきた。


「アンリミテッド・ブレイク──」


 俺は即座に自分の体に、アンリミテッド・ブレイクをかける。

 まるで、ゆっくり歩いているかのような速度に見える男の頬に、俺はメイスを振るう。


「ぶへぇあ!」


 間抜けな声を上げて、男が吹っ飛んでいった。


「やるぞ、エルザ。言っとくが、手加減しろよ。返り血はあまり浴びたくないからな」

「当然よ!」


 俺たちは殺意ましましのリンピラ盗賊団員と、戦闘を始める。


 しかしジャイアントワームにすら勝利をおさめた俺たちだ。最早、街のチンピラ集団は敵じゃなかった。


「や、やべえ! なんだ、こいつらは。どうして、こんなに強い!?」


 戦闘が始まるなり、一気に劣勢となった状況に、盗賊団のボスが焦りを見せる。


「俺たちが強い? 逆だ。お前らが弱すぎんだよ」

「ち、ちくしょおおおおおお!」


 やけくそになったのか、ボスが短刀を両手で持ち、そのまま俺に突進してきた。


 しかし俺は余裕を持って回避し、彼の後頭部にメイスを叩きつけた。


「ぐ、はあぁ──っ! お、お前ら、自警団でも冒険者でもないな?」

「ご名答」

「どうして、こんな真似をしやがる? 正義の味方気取りか?」

「はっ! 正義の味方か」


 笑わせてくれる。


 俺は正義の心など持ち合わせていない。こいつらが、破滅のためのキートリーガーになるから潰してしまおうと思っただけだ。


 それもこれも、なんにでも首を突っ込もうとする主人公アランが悪い。


「言っておく。俺は正義の味方でも、なんでもない。ただの……悪徳治癒ギルドのマスターだ!」


 そう叫び、トドメの一撃をくらわすと、盗賊団のボスは気を失ったのであった。





 終わってみれば、五分もかからなかった。


 俺とエルザ、たった二人にアジトを壊滅させられた彼らは──現在、宙吊りの状態で並んでいる。


「ったく……お前らが暴れるから、いけないんだぞ。おかげで余計に疲れた」


 足首を縄で巻いて、天井から吊るして……ってことを繰り返していたら、戦いよりも疲れた。明日は筋肉痛だな。


「オレらを殺さねえつもりか? 鬼のように強いのに、とんだ甘ちゃんなんだな」


 完全に敗北したというのに、盗賊団のボスは敵意をこめて俺を挑発してきた。

 もっとも、宙吊りのまま言っているので、間抜けな光景ではあったが。


「マリウスさんは、あなたたちみたいな悪人じゃないんです! 悪人にも慈悲をかける、素晴らしい人です!」


 ボスの物言いに腹が立ったのか、カルラが反論してくれている。


 無力化されているとはいえ、こいつらが強面であることには違いない。なのに、そう言い返せるカルラに驚いた。


 見た目よりも、強い女の子かもしれない。


「悪人じゃない……ってところは議論の余地ありだが、殺さないのには理由がある。お前らがたとえ悪人であっても、俺自身の手を汚したくないからだ」


 この世界は前世に比べて、命の価値が軽い。

 魔物がいる世界だからだろうか。悪人を殺しても正義の行いとして、罪に問われないことも多い。


 だが……これは確信にも近い考えだが、簡単に人を殺したら、俺は俺じゃなくなってしまう。

 今後、殺しが避けられない状況も出てくるかもだが、今はそうじゃないと思ったまでだ。


「はっ! 殺しが嫌だなんて……やっぱ、甘ちゃんじゃねえか。要は殺す度胸がないってことだろ?」

「そうかもしれないな」


 だから俺は、彼の言ったことを否定しなかった。


「だが……だからといって、お前らのすることを見逃さないわけじゃないぞ?」

「どういうことだ」

「耳を澄ませてみろ」


 ──ドドドッ──。


 足音が聞こえる。一人や二人じゃない。十人以上だ。


 無論、盗賊団の残党じゃない。ボスがやられたってのに、まだ俺に刃向う殊勝なヤツはこいつらの中に存在しないだろう。


「直に街の自警団や冒険者がやってくる。お前らを倒すだけなら、俺一人でも出来た。だが後処理もあるのに、俺らだけで全て片付けるとは限らないだろ?」


 俺はこいつらの居場所を突き止めてから、冒険者ギルドにその情報を流した。

 そして一斉にヤツらのアジトに乗り込み、盗賊団を壊滅させましょう……と。


 しかし俺は冒険者ギルドの連中に一部、嘘を伝えていた。


 それは──時間。


 わざと襲撃の時間をずらして、俺たちが戦いを終えた後に、丁度自警団や冒険者がやって来るように調整したのだ。


「どうして、そんな回りくどいことをする必要がある?」

「お前らに説明する義理はない」


 とは言ったものの──今回、主人公アランが解決するイベントを潰すこと以外に、もう一つやりたいことがあった。


 それは、治癒ギルドの評価の向上。


 今日のことは、街の人々も知ることになるだろう。


 治癒ギルドのマスター……つまり俺がやったことだと分かれば、治癒ギルドの評判がさらに変化するはず。


「まあ……計算違いだったのは、お前らが弱すぎたことだ。だから彼らが来るまで、お前らを束縛する必要があった」

「へっ! 用意周到なこって」


 こいつらは法の下で裁かれる。

 どんな罪が科されるのかは知らないが……軽くはないだろう。

 場合によっちゃ、牢獄から一生出られないかもしれないな。


「エルザ、俺の判断は間違ってると思うか?」

「いいえ、いい考えだと思うわ。可能性は低いとはいえ、過剰防衛であなたが罰せられないとも限らないから。それに……これは個人的な考えだけど、たとえ相手が罪人でも、あなたに人を殺させたくないわ」

「そうか。ならよかった──って」


 そう言葉を続けようとしたが、エルザが右腕にかすり傷を負っているのが目に入った。


「それ、どうしたんだ?」

「え? ああ、大したことないわよ。戦いの最中、ちょっと擦りむいちゃっただけ」

「そういうことは早く言えって! 気づかなくて、すまなかった。すぐに治してやる」

「そんなことしなくて、いいわよ。戦いを終えたばっかなのに、治癒魔法を使うのはしんどいでしょ?」

「いいから、さっさと腕を差し出せ」


 そう言って、俺はエルザの傷跡に治癒魔法をかける。


 するとあっという間に、真っ白でキレイな肌に戻った。


「よし……これでいいな」

「あ、ありがとう」

「今度からは、少しでも傷を負ったら俺に言え。エルザは女の子なんだぞ? せっかくキレイな肌をしてるんだから、傷跡なんか残ったら大変だ」

「キレイ──っ! わ、分かったわ。今度からはちゃんと言う」


 とエルザは顔を赤く染めて、もじもじとしながら俯いてしまった。


「……なんで、オレらはいちゃいちゃを見させられてんだ? お前の恋人だか愛人だかは知らないが、見てないところでやってくれよ」

「ほお……? まだそんな減らず口を叩く余裕があったか。おい、歯を食いしばれ」

「お、おい! オレは当然のことを言ったまで──!」


 体をくねらせ躱わそうとする盗賊団のボスに、俺は容赦なくメイスを振り下ろした。

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