第19話 リンピラ盗賊団
リンピラ盗賊団討伐イベント。
主人公アランがこの街──セレスヴィルを訪れて、最初に起こるイベントだ。
街を困らせる盗賊団。
アランはそんな彼らのアジトを突き止め、盗賊団を壊滅させる。
これにより、街の住民はアランを信頼する。シャングリラでの従業員反旗イベントのフラグも立ち、治癒ギルドは壊滅まで至ってしまう。
アランが英雄として祭り上げられる、分岐点ともいえるイベントだ。
だが、俺がそんな所業を、わざわざ指を咥えて見ているわけがない。
アランが解決するはずのイベント、俺の方でさくっと解決してしまおう。
破滅を逃れるためなら、僅かな綻びでも潰しておきたい。
しかし転生した最初は、リンピラ盗賊団は存在しておらず、やきもきした気持ちになったものだ。
そしてようやく機は熟した。
俺はゲーム通り、リンピラ盗賊団が現れたことをほくそ笑みながら、まずは治癒ギルドの本部建物に帰った。
ヤツらからスった──アクセサリーを持って。
「カルラ。このアクセサリーに含まれている、魔力を読み取れるか?」
この世界において、魔力自体は誰でも持っている。
それを魔法として出力するためには、才能が必要となるが……いわば魔力とは、その人の香り。
僅かかもしれないが、獣人族のカルラなら辿れると思ったのだ。
「可能だと思いますが……どうしてですか?」
「リンピラ盗賊団って知ってるか?」
「もちろんです。最近、街の人たちを困らせている盗賊団ですよね」
「その通り。このアクセサリーは、そいつらのものなんだ。痕跡を辿って、盗賊団のアジトを突き止めたい」
これがわざわざ、俺があいつらを見逃した理由。
あそこで、盗賊団の下っ端二人組を徹底的に潰すことは容易かった。
しかしそんなことをしても、リンピラ盗賊団を壊滅させたことにはならない。
なので、俺はわざとあいつらを泳がせ、アジトを突き止めようとしたわけだ。
「アジトを……? どうして、治癒ギルドのマスターであるマリウスさんが、そんなことをする必要があるんですか?」
「リンピラ盗賊団を潰す。街の自警団や冒険者にやれないなら、俺がやる。悪は見逃せないんだ」
もっとも──悪は見逃せないうんぬんは建前だ。
俺はただ破滅したくないだけで、そんな殊勝な考えは持ち合わせていない。
しかしカルラは俺の言ったことを額面通りに受け取ったのか、
「さすが、マリウスさんです……! 街の平和を守ろうとする、その心。お見それしました。すぐに魔力を辿りますね!」
パッと表情を明るくさせ、アクセサリーを手に取った。
うむ……少し誤解はあるようだが、悪い印象を持っていないようでなにより。
「また、厄介ごとに首を突っ込むつもりのかしら」
カルラが魔力を探知し終えるのを待っていると、近くで聞いていたのか、エルザが呆れたように声をかけてきた。
「ダメだと思うか?」
「わざわざ危険に飛び込む必要はないと思うわ。だけど……あなたはそういう人だもんね。あなた一人に行かせられない。私も付き合うわ」
口では俺を嗜めているものの、どうやら協力してくれらしい。このツンデレめ。
「分かりました! このアクセサリーの持ち主は──」
無事にカルラの魔力探知も済み、俺たちはリンピラ盗賊団のアジトに向かった──。
「……エルザはともかく、別にカルラが付いてくる必要はなかったんだけどなあ?」
ヤツらのアジトに着き。
俺はカルラにそう呟いた。
「その場所まで案内も必要でしょう? マリウスさんとエルザさんが、勇気を出すんです。二人の勇姿、私が目に焼き付けないと……っ!」
気合い十分である。
まあ俺とエルザがいれば、カルラに危険が及ばないと思うが。
「しっ……もうちょっと声をひそめて。あいつらがなにか、話してるわよ」
エルザが口元で人差し指を当て、視線を下に向けた。
リンピラ盗賊団のアジトは、街の離れにあった。
今は廃墟となっている建物の中で、俺たちは天井裏を伝って移動し、人が多い場所で足を止めている。
通風口の僅かな隙間から、盗賊団の団員らしき男たちがなにか話しているのが見えた。
その中には先ほど、俺が懲らしめた男二人組も。
「ボスっ! オレら、盗賊団に刃向う男が現れました!」
「すぐにそいつを分からせにいきましょう。ボスがいれば楽勝ですよ。ぐっへっへっへ……」
やっぱりあいつら……ヤツらのボスとやらに、すぐに言いつけに戻ってきやがったんだな。
自分で言ってて、情けなくならないんだろうか?
まあヤツらがバカなおかげで、こうして盗賊団のアジトを突き止められているわけだが。
「バカ野郎! そんな、みみっちいシノギをやるなって、今まで散々言ってきただろ? 大した金も盗めえのに、トラブルを起こすんじゃねえよ!」
だが、盗賊団のボスは彼らに怒りを向ける。当然の話である。
「し、しかし!」
「口答えすんじゃねえ! 次に忍び込もうとしているのは、市長の館だ。大きな仕事になる。その前に変なトラブルを起こして、ここの場所が知られたらどうする?」
おお、下っ端二人とは違って、ボスはちょっとは頭が回るらしい。もう手遅れだが。
「それに、たかが男一人にやられるなんてのは情けねえ。トラブルを起こしても、目撃者はみんな殺せばいいんだ。オレは今まで、そうやってきた。お前らにはその覚悟がねえ」
ニヤリと笑みを浮かべるボス。
……ちょっとはマシかと見直しそうになったが、こいつもとんだクズだな。
釈明の余地なし。
これ以上、観察する必要もなさそうだ。
「よし……あいつが盗賊団のボスであることには間違いなさそうだな。エルザ、行くぞ」
「分かったわ」
「カルラは終わるまで、隠れておけ。君には戦いが終わった後の、後始末を手伝ってもらいたい」
「しょ、承知です!」
さあて、さっさと片付けるとするか。
俺とエルザは脆くなった天井をぶちぬき、ヤツらの前に降り立った。
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